2-4-1 薬草栽培

 大公令嬢の誕生パーティーも無事?終わり、私たちは3日後に、公爵領を目指し、王都を出発することとなった。

 私とシリーは時間の空いた2日間でエリクサーについて調べることにした。公爵領より王都の方が、情報が多いだろうと思ってのことだ。そう度々、簡単には王都には来られない。この機会を有効利用することにした。


 薬局や魔道具店、図書館や古本屋あちこち聞いて回ったが大した収穫はない。結論を言えば、伝説の薬で、噂には上がるが、実物を見た人はいない。入手方法や製造方法は研究している人はいるが、どれも眉唾物で信頼に置けない。

 しかし、ヒロインを鑑定して得た情報から製造できることは間違いない。将来ヒロインと弟で研究して開発している。

 とりあえず研究資料は入手しておく。公爵領に戻ったら弟に見せてみよう。うまく興味を持たせ、早めに研究を始めさせ、弟と私で開発してしまうのだ。


 それと、男爵令嬢のリココが、私の従者にしてくれと押しかけて来た。平民の早い者が働き始める13歳になって、まだその気があれば、また来いと追い返した。リココは「鍛え直してまた来ます」と帰っていった。いったい何を鍛え直す気なのだろう。


 私たちは、予定通り3日後には王都を出発し、4日かけて公爵領の屋敷に戻った。

「ただいま戻りました。お母様、レオン」

「お帰り。エリーザ」

「お帰りなさい。お姉様」

 出迎えてくれた母と弟と挨拶を交わす。


「実はレオンにお土産があるの」

「なんですかこれは」

「薬草の種や苗と薬の調合方法を書いたものよ」

「薬草ですか。温室にあるような」

「そうよ、だけどこれはちょっと違うの。なんと、この薬草からは伝説の薬、エリクサーができるのよ」

「エリクサーですか。それは凄いです」

 しめしめ、上手く弟の興味を引けたようだ。


「凄いでしょ。だから私と一緒にやりましょ」

「あら、いいわね。なら、お母さんも一緒にやろうかしら。今ある薬草園をもっと広げていっぱい作りましょう」

「はい。分かりました。お母様とお姉様と一緒にやります」


 その後、私は弟と、なぜか母も一緒に薬草栽培を始めた。


 比較的簡単に栽培できる物もあれば、なかなかうまくいかない物もあった。あっという間に一年が過ぎ私は11歳になっていた。


「お姉様、この種なかなかうまく栽培できないですね」

「そうね。芽は出るのに暫くすると萎れて枯れてしまうのよね」

「水のやり方もいろいろ変えているのですが。何がいけないのでしょう」

「うーん」

 弟と二人悩んでいると、母が思いもよらないことを聞いてきた。


「エリーザの鑑定魔法では栽培方法は鑑定できないの」

「えっ。・・・。できると思います」

「えー。できるんですか。なら早くいってください」

 弟から非難を受ける。


「いや、まったく思いつかなくて。お母様ありがとうございます」

「では早速鑑定してみますね」


『鑑定』


「乾燥に弱いので水はたっぷりあげた方がいいみたい。あまり暑すぎるのも良くないわ。夏場は日陰にしてやる必要があるわ。それと、酸性土壌では育たない」

 私は、鑑定結果を二人に伝えます。


「酸性土壌ってなに?」

「なにかしらね。私も聞いたことがないわ」

 弟と母が首を捻る。


「私もよくわからないけれど、土にも酸っぱいものと、そうでないものがあるってことだと思うわ」

「土を舐めてみればわかるのかしら」

「お母様、そんなことをしなくても私が鑑定します」

 土を取り口に入れようとした母を止め、私は薬草園の土を鑑定した。


「この薬草園の酸性度は約6ですね。この種は7でないと育ちません」

「酸性土壌では育たないのに、もっと酸性度に上げなければいけないの?」

「いえ、酸性度は数字が小さいほど酸性が強く、7で酸性でなくなる中性になり、それより大きいと塩基性になります」


「ややこしいのね。ところで塩基性ってなに?」

「塩基性は、酸性の反対のことですね」

「酸っぱいの反対は塩っぱいなの。お母さん甘いだと思った」

「いえ、確か塩基性は苦いと教わったような」


「あらそうなの。あの家庭教師、随分と難しいこと教えているのね」

 別にあの家庭教師から教わったわけではない。当然前世の記憶だ。迂闊なことを言って、不審に思われないように気をつけなけないと。


「でも数字が小さくなると酸性度が強くなるのはわかりにくいわ」

「そうですね。数字で言わない方がいいですね。つまり薬草園の土は弱酸性でこの種を育てるには中性にしなければならないということです」


「どうすれば、弱酸性の土を中性にできるの」

「塩基性のものを混ぜてやればいいのだけれど。確か塩基性のものって石灰とか灰だったような」

「石灰ってあの白い奴だよね。もしかしたら作れるかも」

 そう言って弟は魔法を使った。


『石灰生成』


 弟の手の中に、パチンコ玉ぐらいの小さな白い塊ができた。

「レオン凄い。土魔法でそんなことできるんだ。ねえ、金は、金も作れるの」

 私は興奮気味に弟に尋ねた。


「そんなの無理だよ。金を作ろうと思ったら膨大な魔力がいるよ」

「そうなの、それは残念ね。それで、石灰は簡単にできるの」

「ううん、僕のMPだとこれが限界だよ」

「そう、流石にこれだけでは足りないわね」


「灰なら調理場で出るのではなくて」

「そうですね。早速もらってきて試してみます」

 母の提案を受け、私は調理場から灰を調達し、土に混ぜ込みました。


 灰を混ぜ、中性にした土壌で、その種は順調に成長したのであった。


 そんな感じで、薬草栽培に四苦八苦している最中にも、並行して調合の練習も行った。エリクサーの実験用の材料が揃うまで、普通に、HPポーションやMPポーション、毒消しや解熱剤などの調合を行っていたのである。


 普通なら調合方法など秘匿事項で、簡単には知ることが出来ない。弟子入りして何年もかけて秘伝を習うものであが、私には鑑定がある。既製品の薬を鑑定すれば製造方法を知ることができた。後はいかに手順通りにできるかである。

 出来たものも鑑定すれば、成功か失敗か、品質がどうかすぐわかり。わざわざ人体実験、じゃない、治験をする必要がなく、調合技術は順調に向上した。


 さらに一年がたち、私が12歳になったころには、エリクサーの実験用の薬草栽培も順調となり。エリクサーの実験に着手していた。

 何度も実験を行った。しかし、エリクサーの製造に成功することはなかった。

 エリクサーの既製品を鑑定することが出来れば、製造法をすることが出来るのだが、それが無いのだから如何ともしがたい。


 閉塞感が蔓延する中で新たな情報がもたらされた。まさに灯台下暗し、その情報源は家庭教師のニコラスであった。

 彼によると、幻の幻獣ユニコーンの角がエリクサーの材料となる。というもの。もともと彼は召喚魔法が使え、将来幻獣を召喚することを夢見て、いろいろ調べるうちに、このことを知ったようだ。

 しかし、幻の幻獣ユニコーンの角など簡単に手に入るはずもない。というかエリクサーと同じレベルで伝説のアイテムである。

 彼には頑張ってユニコーンを召喚してもらいたいものだ。


 彼に期待をかけるのも程々にして、私たちは他に方法がないか模索する日々が続いたのだった。


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