6-1-7 教会で枢機卿も交えて
グラールを教会に連れてきた私たちは、枢機卿に話を聞くため、応接室で腹黒司祭と話をしながら枢機卿がいらっしゃるのを待っていた。
「お待たせしました。第一王子殿下、エリーザ様」
私と腹黒司祭が睨み合っていると、枢機卿が応接室に入って来た。
「いや、こちらこそ、突然押しかけてすまない」
第一王子はこれで二人のいがみ合いが終わると、ほっとした顔で、枢機卿の挨拶に答えた。
「いえ、それは構いません。それより、エリーザ様はご無事で何よりです。なにがあったかご説明頂けるのですか」
「枢機卿、御心配をおかけしました。こちらとしましても、情報のすり合わせをできればと思っています」
「失礼とは存じますが、第一王子殿下も一緒で構わないのですか」
本来であれば第一王子に聞かせられる話ではない。枢機卿の言葉ももっともである。だが、今回は特別事態だ。ここまで来たからには第一王子のも聞いてもらおう。
「今回はちょっとイレギュラーがあったようなので、教会側がよろしければ、第一王子殿下も一緒でお願いします」
「わかりました。こちらはそれで構いません」
「それでは早速、世の理が亡くなられたのはいつだったのですか」
私は枢機卿に、気になっていたことの質問を始めた。
「私が覚えているのは、来年の第六の月の第五十日目です」
「そうですか。亡くなられた原因はわかりますか」
「いえ、原因はわかりません。ただ、亡くなられたのは昼過ぎで、まだ学院にいる時間帯でした。確か、卒業式に予行練習の予定だと、ラン司祭に聞いていました」
「そうなの」
私は腹黒司祭の方を向き確認を取った。
「僕に聞かれても、僕には記憶が無いよ」
「そうだったわね」
そうだった。腹黒司祭には前回の記憶はない。枢機卿から聞いているか、神託を受けているだけだ。
「そうなると、その卒業式の予行で、何らかのトラブルがあったのかもしれないわね」
「そのへんは、世の理から話を聞ければはっきりするだろうけれどね」
「今回は、こらから行って直接尋ねてみようと思うの」
「少しいいかい、世の理というのが、騎士団に留置されている娘のことだと思うけれど、毎回様子を聞いているのではないのかい」
第一王子が疑問を挟んできた。それに枢機卿が答える。
「教会は、世の理にできる限り干渉しないように、神から言いつかっております」
「成る程。エリーザもかい」
「私は、神からはなにも。いえ、寧ろ、悪役令嬢は世の理を虐めるように運命付けられているわ」
「どういうことだい」
この話は教会にも話したことがない。教会では神託により、世の理に対して、私が何らかの影響を及ぼすと知っているが、その関係性については知られていない。まあ、私が本当に世の理を虐めていたとしても、教会は不干渉だっただろうが。
今回は、イレギュラーが重なっている。この際だからこのことも教会と第一王子に話してしまおう。
「私の意思に関係なく、サーヤさんを虐めたことにされてしまうのよ」
「まだ理解できないが、具体的にはどんなことだい」
「ただ見ただけで、睨んでいたとか。そこは上級貴族用の扉だから、次からは気を付けなさいと教えてあげれば、文句を言って、脅していたとみられたりとか、助けてあげたのに周りからは虐待していると取られたりとかよ。あげたら切りがないわ」
「それは災難だったね」
第一王子は呆れ顔だ。
「アハハ。その見た目じゃしょうがないよ」
「何ですって」
腹黒司祭は腹を抱えて笑っている。
枢機卿に至っては、哀れんだ顔で、涙を浮かべながら何度も頷いている。
まったく、みんな失礼にも程があるわ。
「話を戻すけど、今回は状況が特殊なので、本人に会って、直接話を聞いてみようと思うの。構わないかしら」
「私たちは、世の理に干渉しませんが、エリーザ様はお好きなようにしていただいて結構です。エリーザ様の邪魔はしないように神からも言われております」
「そう。では、好きにさせてもらうわね」
教会の許可も取ったので、心置きなくヒロインに会いに行こう。
「それで、エリーザ様が消えられたのはどういうわけですか」
今度は枢機卿から私への質問である。
「実は、時間が戻る前に私はこの大陸にいなかったの」
「そういえば、ウイルス除去に他国に行ってらっしゃいましたね。他国とは他大陸でしたか」
「どうも、時間の巻き戻りは、この大陸だけで、他の大陸では起きないみたいなの」
「それで、他大陸にいた、エリーザ様やグラール様は、時間の巻き戻しが起こった時、こちらの大陸から消えてしまったのですね」
「そういうこと、つまり私は二年後の私よ」
「そういうことですか」
「それと、グラールのことは前回同様、聖女として教会で面倒をみてもらいたいのだけど」
「それは構いません。というか、こちらでお願いしたいくらいです」
「それはよかったわ」
「グラール様は、前回同様、学院に通わせてよろしいでしょうか」
「グラールが希望すれば構わないわ」
「いく」
「だそうよ。学院への編入手続きをお願いしますね」
「畏まりました」
「それでは私たちは、この後、世の理に会いに行きますので、この辺で失礼させていただきます。グラール、またね」
「ん、また」
こうして、私たちは、グラールを教会に預けると、騎士団に留置されているヒロインのところに向かったのであった。
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