6-1-6 教会でラン司祭と

 グラールを送り届けるため教会に着いた私たちは、枢機卿に面談を申し出た。応接室に通されると、そこには腹黒司祭が待ち構えていた。


「第一王子殿下、ようこそおいでくださいました。枢機卿はもうすぐみえますので暫くお待ち下さい。それと、エリーザ嬢は久しぶりですね。ランだけど、僕のことわかるよね。聖女様」

「よく知っていますよ。司祭様。それと、私のことを聖女と呼ばないで。私のことを聖女と呼ぶからには、枢機卿から話を聞いているのよね。聖女はこの子グラールよ」

「へー。その子が、元聖杯なのか。普通なら信じられないな」

「前回はあなたが面倒をみていたのよ。今回もそうなるでしょうから、よろしくね」

「よろしく」

 グラールが素っ気なく挨拶をする。グラールの場合、自分から挨拶すること自体珍しい。何気に腹黒司祭はグラールに気に入られているようだ。

「こちらこそよろしくお願いします。聖女様」

 司祭はグラールに丁寧にお辞儀した。


「御要望がありましたら、何なりとお申し付けください」

「わかった」

「飲み物を用意しますが、皆さんと同じお茶でよろしいですか」

「いい」

「それでは用意しますね」

「ん」

「口数は少ないみたいだね」

 グラールといくつか言葉を交わした後、腹黒司祭はお茶の準備を始めた。


「彼は、君のことを聖女と呼んだがどういうことだ」

「あー」

 まったく、腹黒司祭、余計なことを。第一王子の関心を引いてしまったではないか。

「前回、聖杯の所有者になったので、聖女の称号を得ました。ですが、私は目立ちたくなかったので、教会との話し合いで、表向きは、グラールを聖女として身代わりにすることにしたのです」

「君は聖剣の所有者になり、勇者の称号を得ているのではないのか」

「そうですね。オホホホホ」

「その笑い、まだ何か隠しているな」

「お嬢様は、魔大陸で龍神様から聖玉を賜り、賢者の称号を得ています」

「シリー。また、余計なことを」

「そうか、賢者の称号も得ているのか。他にはないのだろうな」

 私は第一王子から目を逸らした。


「その様子からするとまだ何かあるのだな。全て吐け」

「あー。でも、もしかしたら時間が戻って、称号が消えているかもしれません」

「なら、鑑定してみればよいではないか。君なら簡単だろ」

「はぃ。そうですね」

 私は渋々同意した。

「では、早速、やってみて、結果を教えてくれ」

「わかりかした。ではいきます」


『鑑定』


 私は自分の称号を鑑定した。


 称号:悪役令嬢、聖女、勇者、賢者、魔王


 聖女以下はそのままであるが、折角消えていた悪役令嬢が復活している。そんなあ。

 そうなると、前回、悪役令嬢が消えたのは、聖女の称号を得たからではなかったようだ。悪役令嬢が消える条件はなんだろう。


「エリーザ。どうした」

「あ、すみません殿下。考え込んでしまって」

「そんな考え込むような結果だったのか」

「あー、何と言いますか。最悪です」

「最悪だと。余計気になるではないか。では聞かせてもらおう」

「どうしても」

「どうしてもだ」

「はー。わかりました。では言います。聖女、勇者、賢者、魔王。それと」

「ちょっと待て、魔王とはなんだ。まさか、魔大陸で王になったのではないだろうな」

「本来は魔大陸を統一したものが名乗るようですが、今は誰でも名乗れるようですよ。私は他の魔王から攻められた国を助けたら、その国の国王から魔王を名乗っていいと言われて、称号が付きました」

「取り敢えず、魔王についてはわかった。それで、続きは何だ」

「続き?」

「それとの後だ」 

 ちっ。覚えていたか。上手く誤魔化せると思ったが、そうはいかないか。仕方がない。

「それと、悪役令嬢。以上です」


「プププ。悪役令嬢」

 お茶を入れて待機していた腹黒司祭が、こちらの話を聞いて腹を抱えて笑い出した。

「そこ、腹黒司祭。笑わない」

「アハハ。腹黒司祭はひどいな。悪役令嬢様」

「グググググ」

 本当にこの腹黒司祭は性格が悪いわ。

「エリーザ。そんなに怒ることないだろう。ククク」

 第一王子は、一応笑うのを我慢しているようだが、その必死さが返って失礼だ。


「殿下まで。酷いです。好きで悪役令嬢の称号を持っているわけではないのに」

「そうなのか。どうしてそんな称号がついた」

「生まれつきです」

「お嬢様は魔眼持ちでしたからね。そのせいで幼い頃は両親ともろくに触れ合うことができず。弟のレオン様と初めて顔を合わせたのも、洗礼が済んで、魔力を制御できるようになってからでしたね」

 シリーが説明を補足してくれる。おかげで、お笑いの雰囲気が、一変、しんみりとした雰囲気が漂い出す。

「そうか、辛い思いをしていたのだな。笑ったりしてすまなかった」

「いえ、気にしておりませんので」


「よく言うよ。いつもその黒髪と黒い瞳を揶揄われて怒っていたくせに」

 折角、しんみりとした雰囲気になったのに、腹黒司祭がその雰囲気を叩き壊す。

「揶揄ってきた人に言われたくないわ」

 私も釣られて大声で言い返す。


「あれ、君たち昔からの知り合いかい」

「ラン司祭は、領都の教会にいらっしゃったことがあって。そこで、度々」

「初めて会ったのは、エリーザ嬢が洗礼に教会に来られた時だったよね。そうすると、僕がボッチだった悪役令嬢の一番最初の友達かな」

「誰が、あなたのような腹黒い人と友達ですって」

「まあまあ。エリーザ。大体どんな関係か理解したよ」

 第一王子が複雑な顔で私を止めていると、待っていた枢機卿がみえられた。


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