6-1-5 第一王子の尋問
シナノの国から戻った私は、第一王子の電撃訪問を受け、逃げる間もなく第一王子に捕まった。今は、自室で二人掛けのソファーに並んで掛け、手を握られている。
別に逃げるつもりはなかったが、こちらにも心の準備というものがある。こちらから伺おうとしていたところを、奇襲攻撃を受けたのである。それでなくても勝ち目がないのに、これでは全く歯が立たない。あれこれ策を弄せず、素直に第一王子の尋問に答えることにした。
しかし、第一王子はいかにして私が帰ったことを知ったのだろう。訪ねて来るのが早すぎる。私の部屋に盗聴器でも付いているのだろうか。そうであれば、これは由々しき問題だ。乙女の秘密を探るなど、紳士として、やってはならないことだ。断固抗議せねば。
私の決意などお構いなしに、第一王子は尋問を続けようとする。
「聖剣のことはそれでいいとして、二年近く時間が戻ったことについてなんだが」
「殿下、そのお話に進む前に、聞いておきたいことがあります」
「なんだい」
「殿下は、私が戻ったことをどうやって知ったのですか」
「それが聞きたいことかい。どうやってだと思う」
「盗聴器を仕掛けたとか。まさか、監視カメラじゃないですよね」
「何だいそれは」
この世界に盗聴器も監視カメラもなかった。
「ただ、君のところの執事長に、戻ったら連絡をくれるように言ってあっただけだよ」
「なんだ、そうですか。要らぬ心配をしてしまいました」
「それで、さっきの盗聴器とか監視カメラというのは何だい」
「何でもありませんよ。殿下が興味を示されるものではありません。オホホホホ」
「はあー。それはまあいい。話を進めるよ」
第一王子による尋問は、まだ続くらしい。
「二年近く時間が戻ったことについてなんだが。原因はなんだい」
「それは・・・」
ここで、ヒロインのことを話してしまっていいだろうか。できれば黙っていたいが、王族殺しの嫌疑で、騎士団に留置されているヒロインに会うためには、第一王子の口添えが必要だろう。そうなると、隠しておくことは難しいか。
それに、第一王子のこの様子では、時間が戻ったのも私のせいだと考えているようだ。
「時間が戻った原因は、サーヤさんにあると思います」
「サーヤとは、今、騎士団に留置されている娘かい。彼女が犯人なのか」
「いえ、犯人とかではなくて、彼女の体質というか、設定というか。兎に角、彼女の意思とは関係なく起こるのです」
「意志には関係なく、突然起こるというのかい」
「いえ、彼女が亡くなると、学院の入学式典の日まで時間が戻ってしまうのです」
「つまり彼女の死亡が、時間が戻る鍵となるということか」
「私は死に戻りと呼んでいます」
「死に戻りね」
第一王子は暫し考え込む、そして、徐に喋り出した。
「そうなると、彼女が言っていた、襲撃により私やトレス嬢が殺されたというのは本当のことだということか」
「彼女がそう言っているのであれば、多分本当のことなのでしょう。そのことも含めて、彼女と面会したいのですが、お口添えをお願いできませんか」
「それなら私も一緒に行こう。自分が殺されるとなれば、詳しく聞いておかないとなるまい」
「それでは、教会に行った後で、そのまま向かうということでよろしいですか」
「ああ、そうしよう」
第一王子は自分が殺されたことが、記憶になくてもショックな様子だ。
「ところで、君はなぜ、その死に戻りについてそれ程詳しい」
「それは、死に戻りが、今回が初めてではないからですわ。私が知っているだけで、今回を含めれば十一回、もっとも、時間の巻き戻しに取り残されたのは初めてで、最初から記憶が有るのも初めてですが」
「死に戻りは、初めてではないのか。それにしても、その都度記憶はなくなるのだろ。枢機卿のように絶対記憶があれば別なのだろうが、君はどうして記憶が有る」
「私の場合、鑑定魔法で過去を鑑定できます。今までは、何らかのきっかけで過去を鑑定し、死に戻りが起きたことを知りました」
「成る程、鑑定して、記憶を取り戻していたのか。その記憶の中に襲撃の記憶はないのかい」
「学院二年目の冬までいったのは、前回が初めてです」
「そうか、君が学院二年目なら、私は丁度卒業時分か。後、二年弱。私の命もそれまでか」
「殿下、未来は一つではありません。人々の選択によって、そのたびに未来は変わります。未来を変えるためにも、サーヤさんの話を聞いて、対策を立てましょう」
「対策を立てられるものなのか」
「少なくともサーヤさんは死に戻りを繰り返すたびに、生きている時間が長くなっていますし。同じ結果になっていません」
「そうだな。悲観的に考えても仕方がない。それでは行くとしようか。まずは教会か」
「そうですね。グラール、シリー、行くわよ。リココは留守番をお願いね」
「エリーザお嬢様」
リココが心配そうにこちらを見ている。私が行方不明になっていたことが相当ショックだったのだろう。戻った時に抱き付かれたことからもそれがうかがえる。
「安心して、今回はすぐ戻るから」
「畏まりました」
リココは心配そうな顔のまま頷いた。
リココに見送られて、私たちは教会に向かうのだった。
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