1-2-3 降格

「ヤッター!私やりました。天界を救いました。これは2階級特進ものです」

 シリウスが雄叫びを上げています。

「何事ですかシリウスうるさいですよ」

 私はシリウスのいる事務室のドアを開け彼女を叱責した。


「先輩聞いてください。私やりました。天界を救いました」

「それは聞こえていたわ。それでいったいどういうこと」

「それがですね先輩、私は天界を廃墟にしてしまいそうな邪悪な存在を事前に処分したんです」

「シリウスあなた。邪悪な存在ってなに。処分ってなにしたの」

 まったく話の要領を得ない。


「あのですね。先輩驚かないでくださいよ。そいつは、魂のくせに人型の実態があって、魔力関係のステータスが全てカンストしてるんです。おまけに邪悪な目でこちらを睨んでくるんです。危なくこちらの存在が消されるところだったんです」

「なんなのそれ、魂のくせに人型の実態があって、魔力関係のステータスが全てカンストしてるなんてあるわけないでしょ。寝ぼけてるの」

「それがあったから騒いでるんですよ。首元で切りそろえられた漆黒のストレートヘアに、深淵の黒い瞳、暗闇の黒いワンピースを着た少女。思い出しただけでふるえが止まりません」


「漆黒のストレートヘアに、深淵の黒い瞳の少女。ちょっと待ってその子名前はなんていうの」

 シリウスの話に一人の娘が思い出されます。

「名前ですか。ちょっと待ってくださいね。えーと。神薙春ですね」

「神薙春。同じ名前ね。でもまだ死ぬのは60年以上先のはず。その子年齢は」

「28歳ですね。本来はまだ死ぬわけではなかったようですけど、間違えて死んじゃったようです」

「間違えて死んじゃったようです。て、あなたなにしたの」

 思わず声を荒げてしまいます。


「それに関しては、私は何もしていませんが」

「そ、そうね、それでここに来たその子をどうしたの」

 落ち着け、落ち着け、私。死の原因をつくったのはシリウスではない。


「処分しました」

「処分ってどうしたの」

「放棄されていたゲーム世界に廃棄しました」

「廃棄?」

「悪役令嬢として転生させました」

「そう転生させてしまったの」

 最悪だ。

「ちょっと電話借りるわね」


「もしもし、私です」

「なんじゃ」

「じつは、大変なことになっていて、地球に転生させていた例の娘ですが、間違って死んでしまったようです」

「なんじゃと、死んだ。そんなことはありえんだろう」

「それがありえたようで」

「それで、魂は今どうなっている」

「それなのですが、担当したものが転生させてしまいました」

「それこそありえんだろう。亡くなったばかりの魂は、天国か地獄に送る決まりになっているはずじゃ」

「それが、担当者がビビってしまい、規則を曲げて転生させてしまったようです」

「なに・・・。そうか。それで、どこに転生させたのじゃ」

「放棄されていたゲーム世界だそうです。そこの悪役令嬢として転生させたようです」

 シリウスの方を見ると大きく頷いている。


「ゲーム世界の悪役令嬢か、それは困ったの」

「どういたしましょうか」

「そうじゃの、その担当者を二階級降格させ、その世界に堕とし、悪役令嬢のサポート役としよう。それで何とかならないようならまた考えるとしよう」

「わかりました。ではそのように」


「対応が決まったわ」

「二階級特進ですか」

 シリウスが嬉しそうに言ってくる。

「なに言っているの、降格に決まっているでしょ」

「えー。なんでですか。天界救ったんですよ」

「馬鹿言ってんじゃないわよ。規則を曲げて勝手に転生させてタダで済むはずないでしょ。二階級の降格よ」

「二階級の降格・・・」

「それと、例のゲーム世界に降りて、悪役令嬢のサポートをしてもらうから」

「そんなー。それだけは勘弁してください。あれとは、もう二度と会いたくありません」

「自業自得よ。諦めなさい」

「先輩。そこを何とかしてください」

「こればかりは、主神の命令だから私ではどうにもならないわ」

「トホホ」


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