5-2-1 侯爵令嬢

 私の名前は、マリー=フラウム、誇り高きフラウム侯爵家の長女。

 巷では、私のことを、金髪縦ロール、などと嘲笑する者もいますが、この髪型は、フラウム侯爵家に伝わる、格式高い、伝統の髪型なのです。


 それに、ツヴァイト第二王子殿下に褒めていただいた、大切な思い出の髪型でもあります。そう簡単に変えるわけにはいきません。


 あれはそう、もう7年前になります。7歳になる私は母に連れられて、初めて王宮のお茶会に参加していました。

 子供たちも何人か参加していましたが、皆さん私より年上で、初めて参加した私は、なかなか会話の輪に入れませんでした。

 その時話しかけてくださったのが、ツヴァイト様でした。


「お前はフラウム家のものか」

「はい、フラウム侯爵家のマリーといいます」


「そうか、その髪型ですぐにわかったぞ。貴族の伝統に則った、素晴らしい髪型だ。今では、フラウム家の者以外滅多に見ないが、お前はその髪型がよく似合っているな」

「ありがとうございます。殿下」

「俺のことは、ツヴァイトでよい」


 それまでの私は、この古臭い髪型が好きではありませんでした。しかし、ツヴァイト様に褒めてもらってからは、常にこの髪型にすることにしたのです。


「お前の髪型は目立つな。パーティー会場でもすぐ見つけられる」

「ツヴァイト様、お目を掛けていただきありがとうございます」


 ツヴァイト様は、私を見つけるとすぐに話し掛けてくださいます。

 私が、ツヴァイト様の虜になるまでには然程時間がかかりませんでした。


 それからというもの、私はツヴァイト様のため、生きて来たと言っても過言ではありません。

 ツヴァイト様を狙う雌豚がいれば、ある時は侯爵家の権力で、また、ある時は裏から手を回し、全て排除してきました。


 幸いなことに、最大のライバルと見ていた公爵令嬢が、ツヴァイト様に全く関心がなく、今では第一王子の婚約者です。

 それに関しては、とりあえずは一安心ですが、もし、第一王子と組んでツヴァイト様の王位継承を邪魔するようであれば、全力で捻り潰します。


 そして、今日、新たな雌豚が現れました。

 平民の分際で、ツヴァイト様に話しかけ、事もあろうに隣に座るなんて、信じられません。

 その場で串刺しにしてやろうかと思いましたが、知識のない平民なので、事の重大さに気づいていないのでしょう。後でゆっくりとその身に覚えさせてあげるとしましょう。


 さて、明日から忙しくなりそうです。

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