5-5-5 捕縛

 私たちは王女たちと合流すると、襲撃者の馬車から転移した。

「ここは、どこです」

「北の公爵家の屋敷です」

「そんな長距離をこの人数で跳んだのか」

 王女殿下が驚いて目を丸くしている。


「これは何事か」

「お父様」

 騒ぎを聞きつけ父が駆けつけてきた。

「エリー、レオン、それにナターシャ殿下まで。お前たち創世の迷宮に向かっていたはずだろう。エリーこれはどういうことだ」

「帝国の軍人に襲撃を受けました。王女殿下の安全なため、やむを得ず転移魔法を使いました」

「転移魔法は使うなと言っておいただろう。まして、帝国軍の前でなど」

「それが、帝国軍には既に知られていました」

「なに、帝国軍に知られていただと」

「今から戻って帝国軍を捕縛してまいります。リココもまだ救出していませんし」

「なんだと、なら兵を連れていけ」

「それが、帝国の軍人がいるのはエルファンド神聖国なのです。無暗に兵を連れていくと侵略行為に取られます」

「だからといって一人で行くなど」

「無理はしません。では、行ってきます」

 私は父との会話を打ち切ると、シリーにリココの元に転移するよう指示をだす。


「まて、俺も一緒に行く」

「ケニー、あなたもここで待っていて」

「いや、俺はお前の騎士だ。一緒に行くぞ」

「駄目よ。リココも救出しなければならないから時間が無いのよ。言い合っている時間も惜しいわ。シリーお願い」

「畏まりました」

「俺も行くぞ」

「ちょっと、ケニー、抱き付かないでよ」


『転移』


「リココ、迎えに来たわよ」

 リココが捕らえられていたのは、豪華な馬車の中だった。

「エリーザお嬢様、ありがとうございます。一時はどうなるかと。ところで、何でケニー様はエリーザお嬢様に抱き付いているのですか。私が一人にされて恐怖に震えていたなか、二人で乳繰り合っていたんですか。浮気ですか。不倫なんですね」

「いやいやいや、これは騎士としてだな」

「騎士はそんなセクハラしません」


「兎に角、一旦、ここを出るわよ」

 私が転移でいったん戻ろうとした時、一人の男に声を掛けられた。

「おい、お前ら。何で俺を無視する」

「あら、いましたの。帝国の軍人さん」

 決して広くない馬車の中、敵がいるのに気が付かないはずがない。あえて無視していたのだが、相手は気に入らなかったようである。


「まったく、上手くだまされたぜ。転移できるのはもう一人のメイドの方だったとは」

「隠してはいましたが、別にだます意図はありませんでしたよ。勝手にそちらが勘違いしただけです」

「それで、秘密を知った俺をどうする。殺すか」

「そうですね。聞きたいこともあるので捕縛させていただきます」

「捕縛とは大きくでたものだな。こう見えてこの隊の隊長だ、女子供には負けないぜ」

「あなたが隊長だとは都合がいい、捕縛して私の所有物になってもらいますわ」

「言うね。お嬢ちゃん。でもそれは相手の力量を見てから言った方がいいぞ」

「見たからこそ言っているのですが」

「ああ、あんたは鑑定の魔眼持ちだったっけ」

 このセリフ最初にも聞いたな。


「すみません、ごめんなさい。命だけは助けてください」

 さっきまでの強気な態度から一転、帝国の隊長は馬車の中でいきなり土下座した。


 そう、こいつ、見た目に反してめちゃくちゃ弱い。もしかしたらリココ一人でも倒せたかもしれない。それなのに馬車の中、一人で、四人の敵に囲まれてしまったのだ。生きた心地がしないだろう。馬車の外は屈強な部下たちが固めているため、まさか馬車の内部に侵入されることはないと高を括っていたのだ。


「それじゃあ、あなたは今から私の所有物でいいですね」

「はい、所有物でいいですから、命ばかりはお助けください」

「シリー、こいつとこいつの部下全員、屋敷の地下牢に転移して」

「畏まりました」

「え、そんなことできるわけ」


『転移』


「できるんですね」

 帝国の隊長は呆然自失である。できれば隙を見つけて馬車の外に逃げ出し、部下たちに助けてもらうつもりでもいたのだろう。それが、いきなり牢屋の中である。困惑しても仕方がない。


「おい、なんだこれは」

「どこなんだここは」

「だせ」

 帝国の軍人たちは、突然牢屋に転送されたのである。訳も分からずパニック状態だ。


「皆さん静かにしてください。ここはファルベス王国の地下牢です。あなたたちは王女殿下を攫った罪で投獄されました。帝国には二度と戻れませんからそのつもりで」


「なんだと。ファルベス王国だ、俺たちがいたのはエルファンド神聖王国だぞ」

「ありえない」

「ここからだせ」

 余計に阿鼻叫喚の様相となってしまった。


 まあ、でもこれで一件落着である。あれ、何か忘れている気がするぞ。

 私は、首を傾げて考え込んだ。


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