5-5-4 王女をものにする

[レオン聞こえる。聞こえたら返事して]

「姉さん」

「どうかしましたかレオン」

「いえ、何でもありません、ナターシャ殿下」

 さっき、頭の中に姉さんの声が聞こえた気がしたが気のせいか。


[よかった。通じたのね。これは念話といって心に念じるだけで、声に出さなくても離れた相手と会話ができる魔法なのよ]

[声に出さず、念じるだけでいいのですか]

[そうよ]


[姉さんは無事ですか]

[こちらはみんな無事よ]

[よかった]


[そっちの状況を教えてちょうだい]

[こちらもみんな無事です。王女殿下以外は皆縛られていますが、手荒な真似はされていません]

[王女殿下も一緒なのね。それは良かった。王女殿下と話ができる状態なの]

[会話はできますが、見張りがいるので、話を聞かれてしまうかもしれません]

[わかったわ。今から逃げ出すための作戦を伝えるから、心して聞いてね]

[はい、分かりました]


[今直ぐ、王女殿下をあなたのものにしなさい]

[・・・]

[聞こえなかったかしら。今直ぐ、王女殿下をあなたのものにしなさい]

[姉さん、聞こえてますから。聞こえてますが、王女殿下をものにしろ。って、意味が分かりません]

[皆で転移して逃げる計画なのだけれど、そのためには王女殿下をあなたの所有物にしなければならないの]

[所有物って何ですか。ものにする、より酷いじゃないですか]

[何を言っているの。リココやケニー、あなたも私の所有物よ]


[・・・。僕は姉さんの所有物だったのですか]

[当然よ。弟は姉の所有物以外何者であるというの]

[そうですか。分かりました。ですが、私が王女殿下を所有物にするのは無理です]


[そんなことないわ。レオンならできるわ]

[無理です。第一そんなの不敬です]

[そんなこと言っている場合でないのは分かるでしょ]

[それはまあ、ですが]

[えーい。もどかしい。私が王女殿下にお願いするから、レオンは私の言葉を伝えて]

[・・・。分かりました]

 押しの強い姉さんに、僕はしぶしぶ同意した。


「王女殿下、こんな時に申し訳ありませんが、いや、こんな時だからこそお願いします」

「何です。レオン。以前、レオンのためなら何でもすると約束したではないか。それに王女ではなくナターシャと呼べとも」

「では、ナターシャ、僕のものになってくれ」

[ちょっと姉さん、これ告白みたいじゃないか]


「ななななんです。それは」

[ほら、ナターシャ殿下も顔を赤くしている]


「言葉道理だ、ナターシャに僕の所有物になってほしいんだ」

[姉さん、ナターシャ殿下に所有物は不味いよ]


「所有物って」

[ほら、ナターシャ殿下ドン引きじゃないか]


「所有物になってくれれば、僕は君をここから命に代えても救い出そう」

「・・・。一つだけ条件がある」

「何ですか」

「レオンの所有物になる代わりに、第三王子を支持してもらえるか」

 第一王子と対立した場合に備えて、第三王子と仲良くしておくのは計画通りだが、姉さん的には大丈夫なのか。仮にも第一王子の婚約者だろ。


「承知した。第三王子を支持しよう」

 大丈夫だったようだ。あっさり了承した。


「分かった。今から妾は、レオンの所有物だ」

 ナターシャ殿下が深々と頭を下げた。

 王女殿下が僕の所有物になっちゃったよ。どうするんだ、これから。


「王女殿下のご決断に感謝します」

 これを言ったのは僕ではない。姉さん本人である。

 ナターシャ殿下の宣言が終わると同時に、姉さんたちが馬車の中に転移してきた。

「エリーザ嬢。どこから」

「転移してきました。ここから、王女殿下たちを連れて、転移して逃げます。シリーお願い」

「畏まりました」

 僕たちは転移魔法で襲撃者の馬車から逃げのびたのだった。


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