6-1-8 留置所
騎士団の留置所は王宮の隣、騎士団本部の地下にある。
私たちが騎士団本部に到着すると、出迎えてくれたのは、騎士団長のケイブリー=ローザス、ケニーの父親であった。
「第一王子殿下、お待ちしておりました」
「ご苦労。留置している少女に会わせてもらうよ」
「畏まりました。こちらになります」
騎士団長は私たちを案内して歩き出した。
「エリーザちゃんは無事なようで何よりだったな」
「ケイブリー様、ケニーのことなのですが、私とは別の場所に行ったようで、一緒ではなかったのです」
「そうか。まあ、ケニーのことは、ケニーが自分で何とかするだろう。それより問題なのは聖剣だ。エリーザちゃんは何か知らないかい」
「聖剣のことでしたら」
私が聖剣のことを話そうとすると、第一王子が手を上げそれを制した。
「エリーザ待て。騎士団長、聖剣のことは解決済みだ。詳しくは後で話す。今はそれより問題の少女だ」
「そうですか、わかりました。矢張りあの少女が、消失事件に関わっていたのですね」
「関わっていたかと言えば、関わっていたことになるのだろうな」
私たちが案内されたのは一般の面会室ではなく、応接室であった。
「こちらでお待ち下さい」
私たちはソファーを勧められる。
「サーヤ=ランドレースを連れて来い」
騎士団長の命令に、二人の部下が留置場に向かった。
「殿下。ケイブリー様も同席されるのですか」
「彼女は学院で襲撃を受けたと証言している。騎士団の協力は必要だ」
「そうですね。襲撃の規模によっては、私たちだけでは手に負えないかもしれませんね」
それに、ヒロインは王族殺害を企てていた容疑がかかっている。流石に護衛なしで第一王子と会わせるわけにはいかないだろう。
「殿下たちは、あの少女の証言がただの妄想ではないとお考えなのですね」
「そうだ。今から話されることは、荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、全て真実だと捉えて行動してくれ。勿論、機密事項だ」
暫く待つと、両手を後ろ手に縛られたヒロインが連れてこられた。ヒロインは部屋に入ってくるなり私を見て、駆け寄ろうとして、テーブルの手前で連れてきた騎士によってロープを引かれて止められた。
「良かった。エリーザ様は無事だった」
そして、その場で泣き出したのであった。
私は、そんなヒロインに歩み寄ろうと立ち上がった。その拍子に、テーブル躓き、前のめりに転びそうになる。
慌てたヒロインは私に手を出し、助けようとしたが、手は後ろ手に縛られている。咄嗟に脚で支えようとしたようだ。ヒロインの持ち上げた膝が私の顎にヒットした。
私は尻餅を付いて倒れる。
ヒロインは、騎士二人に床に取り押さえられて、青い顔をしている。
「違うんです。わざとじゃないんです。エリーザ様が転ばないように助けようとしただけなんです」
ヒロインが涙ながらに訴えかける。しかし、騎士たちは取り押さえた腕を緩めようとはしない。
私は、蹴り上げられた顎を撫でながら立ち上がり、ソファーに座り直した。
「ケイブリー様、サーヤさんの拘束を解いてあげて。できれば腕も解いてあげてください」
騎士団長は第一王子の方を見る。
「拘束を解いてやってくれ」
「拘束を解いてやれ」
「こいつ公爵令嬢に膝蹴りくれましたが。よろしいのですか」
ヒロインを拘束している騎士が、騎士団長と私の顔を交互に見て確認している。
「大丈夫ですから、彼女を解放してあげてください。さっきのは運命です。気にしていませんから、サーヤさんも気にしないで」
解放されたヒロインは立ち上がると、深々と頭を下げた。
「エリーザ様、すみませんでした。わざとではなかったのです。なかったのですが、私のせいです。どうかお許しください」
「もういいわ。それより、いろいろ聞きたいことがあるのよ。大体の事情は理解しているつもりだから、信じてもらえないと思わずに、事実をありのままに答えてね」
「それは、時間が戻ったことを信じてもらえるということでしょうか」
「サーヤさんが亡くなられて、学院で入学式典の日まで時間が戻ってしまったのは、これで十一回目だったかしら」
「そうです。そうなんです。えーん」
そう言って、彼女は泣き崩れた。
「少しは落ち着いたかしら」
ヒロインが泣き止んだところで私が声をかける。
「はい、何とか。ところで、なぜ、今回エリーザ様は消えられたのですか」
「聞きたいことがあったのは、こちらだったのですが」
「あ、すみません」
「まあ、いいでしょう。前回、サーヤさんが亡くなった時に、私はこの大陸にいなかったの。サーヤさんが亡くなって、時間が戻るのはこの大陸だけで起こる現象よ」
「そうなんですか。ケニー様が消えてしまわれたのもそのせいですか」
「多分そうね。ケニーとは一緒にいたわけではないので言い切れないけれど、鑑定で確認したところ、今も他の大陸にいるわ」
「ケニー様も生きてらっしゃるのですか」
「鑑定によると健康そのものね」
「そうですか。生きていたのですね。よかった」
ヒロインは心底安堵した表情を浮かべた。
「それでは、サーヤさん。私たちの質問に答えていただきましょうか」
「あ、はい」
「まず、最初に、前回、サーヤさんが亡くなられた日のことをできるだけ詳しく教えてくれる」
「わかりました。あれは、私が学院の二年目の六の月の五十日目でした。その日は朝からどんよりと曇った、今にも雪が降り出しそうな寒い日でした」
こうして、サーヤさんの語りが始まったのでした。
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