2-5-2 魔剣

 私は、執務室に着くと、挨拶もそこそこに本題を切り出す。

「お父様、家宝に短剣がありましたよね。それを見せていただきたいのですが」

「魔剣のことか。見てどうする」

 魔術回路をコピーします。とは言えないよな。なにかよい言い訳はないか。考え込んでいると。

「まあよい。見るだけだぞ。付いて来い」

 仕方がないといった感じに父が立ち上がり、鍵を持って執務室を出て地下倉庫に向かう。


「これが家宝の短剣だ、鑑定すればわかるだろうが『風刃』の魔法が付与されている魔剣だ」

「鑑定してもよろしいのですか」

「それが目的であろう。構わんよ」

「ありがとうございます。ではさっそく」


『鑑定』


「何かわかったか」

「いえ、確かに『風刃』が付与されているのを確認しただけです」

「そうか、まあいい。他に見たいものがなければ私は戻るぞ」

「ありがとうございました。私も自室に帰ります」


 地下倉庫を出て、それぞれの部屋に戻る。


 部屋に戻ると早速『風刃』の魔術回路を紙に描いていく。

 ランプの魔術回路に比べるとかなり複雑だ。描きあげるまでに一トキ近くかかった。


「さて出来あがったわ。早速試してみたいけれど、ここではまずいわね。外に行きましょう」

 私とシリーは庭の鍛錬場まで出た。


「それでは、いくわよ」

 私は的に向け、魔術回路が描かれた紙を掲げ、魔力をながした。的が風に吹かれて揺れたような気がした。風なので見た目にわかりづらい。


「よくわからないわね。もう少し魔力を込めてみよう」

「お嬢様、限度を考えてくださいね。限度を」

「わかっているわよ」

 私は先ほどの倍近い魔力を込めた。今度は的がハッキリと衝撃を受けたように揺れた。


「発動はしているわね。だけど、刃って感じじゃないわね。まだ魔力が足りないかしら」

 私は先ほどの4倍、最初から考えると8倍の魔力を込めた。的に傷が入り二つに割れた。


「成功ね。結構魔力が必要なのね。あら。こっちも切れているわ」

 手に持っていた魔術回路が描かれた紙が切り裂かれていた。

「何度も使おうと思ったら、紙では駄目でね。木板か、思い切って金属板にした方が良さそうね。シリー、後で金属板を用意してくれるかしら。少し大きめのカードサイズでいいわ」

「かしこまりました。ですが、剣などの武具に付与するのではないのですか」

「それが、そう簡単にはいきそうにはないのよ」


 先程、魔剣を鑑定してわかったのだが、魔剣の魔術回路は剣の内部に描かれていた。

 そりゃそうだ、剣の表面に顔料で描いてあったら、切ったり、打ち合ううちに剥がれてしまう可能性がある。

 そうなると、かなり高度な鍛治技術が必要となってくる。


 それと、内部で発動した魔法を剣の外側まで伝えなければならないから、ミスリルや魔石といった魔力伝導が良い素材を使う必要がある。

 そういった素材はどれも稀少で高価なので、顔料の材料に使う程度の量ならまだしも、剣を作るほどの材料となると、とても私では手が出せない。


 その点カードなら、表面に魔法顔料で描くだけでよく。素材もある程度耐久性があれば何でも構わない。

 そのうえ日常的に、魔法ごとに違うカードを、何枚も持って歩くことができる。女性の私が、剣を何本も持ち歩くことは現実的ではない。


「わかりました。なるべく薄く、軽い素材のものを用意しますね」

「お願い」


 よし、これで、魔法カードで攻撃魔法使い放題、全ての属性をそろえておけば死角なし。


 そんなことを考えていた時もありました。世の中そんなに甘くなかった。攻撃魔法が付与された武具なんてそんじょそこらになかった。つまり、鑑定で魔術回路の設計図を手に入れる機会がなかった。

大誤算。それでも、攻撃魔法の手段を一つでも手に入れたのは奏功であった。


 現在所持している魔法カード:『風刃』『発光』


******


 私の治める北の公爵家にはいくつかの秘宝がある。

 その中でも、群を抜いて貴重なのが、ミスリルの短剣、しかも『風刃』の魔法が付与されている魔剣である。

 しかし、その貴重性は魔剣であることにあらず。


 この短剣には公爵家に代々伝わる一つの逸話がある。


「四公爵が所持する秘宝の魔道具」

「その魔道具、四つ全て揃えることが、異界への扉を開く鍵となる」



 娘は、いったいどこまで知っているのだろう。



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