2-2-5 剣術

 珍しく父に呼ばれた。

 執務室に向かう。

「シリー、私なにかまずいことしたかしら」

「最近はないかと思います」

 シリーにも心当たりがないようだ。


「お父様、エリーザでございます」

「エリーか入れ」

 執務室に入ると、父の他に来客がいたようだ。

「まず紹介する。エリー、こちらは騎士団北部方面分団分団長のケイブリー=ローザス侯爵だ。それとご子息のケニー君だ」

 父親と同じような、金髪ツンツン頭の悪ガキがそこにいた。

「娘のエリーゼだ。ケニー君とは同い年になる」

「ごきげんよう、ケイブリー様、ケニー様」

 私は親子に向かってお辞儀をする。

「この子がエリーゼちゃんか、成る程、鋭い眼光をしている」

 ケイブリー様が私を興味深げに見る。

「すまないがエリー、私はケイブリーと二人で話しがある。その間ケニー君と遊んでいてもらえないか」

「わかりましたお父様。ではケニー様、一緒にまいりましょう」


 一緒に執務室を出たまではいいが、この後どうしたらいいか思案にくれる。

「ケニー様は何かやりたいことがございますか」

「剣術の稽古」

「では、庭の鍛錬場に行ってみましょう」


 鍛錬場といっても簡素な小屋と踏み固められた庭があるだけだ。

「お前もここで剣術の稽古をしているのか」

「私は、剣術は習っていません。ケニー様は普段から剣術の稽古をしているのですか」

「当然だ。少し見せてやろう」


 腰に下げていた木剣を抜き、素振りを始める。


「どうだ凄いだろう」

「はい、なかなか鋭い動きでした」

 褒められたことに嬉しそうにするケニー。

「よし、お前、俺の子分にしてやろう」

「なぜあなたの子分にならなければならないの」

 なにを突然言い出すのだろうか、このガキは。

「俺の父ちゃんはこの辺で一番強いんだぞ。子分も沢山だ。強いやつが親分、弱い方が子分だ」

 私はあきれ顔で言う。

「父親が強くても、あなたが強いわけではないでしょう」

「そんなことない、俺も強い」

「そうかしら、確かに同世代の子より強そうだけど、私より強いとは思えない」

「お前剣術習ったことないって言ってただろ」

「剣術だけが強さの全てではありません」

「そんなことない、剣術が一番強いんだ」

「そういうことではありません」

 鬱陶しくなって、少し睨む。

「兎に角、俺は強いんだ」


 あっ、逃げた。


 その後なぜか父親がローザス親子と現れ、私は週二回、ケニーと一緒に、ケイブリーから剣術の稽古を受けるようにといいわたされた。

 もっとも、私が習ったのは短剣術と護身術であったが。普通の剣なんてとても振れません。


 私は知らなかった。5年後ケイブリーが騎士団長に昇進することを。そして、ケニーが攻略対象者であることを。

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