2-3-2 ヒロイン鑑定

 ランドレース商会は、王都の商店街南西区画にあった。私たちが滞在する公爵家の別邸、貴族街北東区画からみると王城を挟んでちょうど反対になる。

 私とシリーは王城を大きく迂回する形でランドレース商会に到着した。


 ランドレース商会の印象は、モダンで明るく、入りやすい感じだった。煉瓦造りの三階建てではあるが、ガラスでできた窓を備え、入口の扉は解放されていた。


 私は入り口から顔を覗かせヒロインを探すが、それらしい少女はいない。


 当然か、会頭の娘とはいえ、年端のいかない少女が、仕事場でもある商会の建物にいるはずもない。会頭の自宅に行ってみた方がいいだろう。しかし私たちはその場所を知らない。どうやって聞き出したものか悩んでいると、中から老年な男性に声を掛けられた。


「何か御用ですか、お嬢様方」

「あ、いや、ここでは何を売っているのかと思って」

「食料品や生活雑貨を主に扱っていますが、ここでは小売り販売はしてないのですよ」


 老年な男性は申し訳なさそうに答える。


「そうですか。奇麗な建物だったので少し興味を引かれただけですから」

「失礼ですが、どちらのご令嬢ですか。申し遅れましたが、私この商会の会頭を務めますスール=ランドレースと申します」

「これはご丁寧にありがとうございます。私は、ロレック=ノース=シュバルツの娘、エリーザです。よろしくお願いしますね」

「北の公爵家のかたでしたか。よろしければ中をご覧になっていかれますか。お菓子などもお出ししますよ」

「いえ結構です。本当にただ通りすがりに興味を引かれただけですので」

「そうですか。それではまたの機会にでもおいでください。」


 そう言葉を交わし、私たちは商会の前を離れた。


「シリー、後であの人の後をつけて自宅を特定して」

「私が、一人で、ですか」

「他に誰がいるの」

「これでも私、女神なんですけど」

「私の専属メイドでもあるわよね」

「はいはい、分かりました。どうせ帰るのは暗くなってからでしょうし、日暮れごろまた来ますね」

「そうしてもらえる。それまでは一緒に王都観光にしましょう」


 私たちは初めての王都を満喫し、日暮れ前に私はシリーに送られ別邸に帰り、シリーはそのまま尾行に向かったのだった。


 次ぐ朝、私は自室でシリーの報告を受ける。


「どうだった、自宅は特定できた」

「大変でした。ちゃんと自宅は特定できたのですが、夜遅くなっても出てこないから、先に帰っちゃったのかと心配になりました。帰ったのN4トキですよ。仕事しすぎですよあの人。おかげでこちらは寝不足です。お肌が荒れたらどうしてくれるんです。お嬢様」

「ご苦労様、じゃあ、朝食を食べたら今度は自宅の張り込みよ」

「えーー。またですか」

「今度は私も一緒に行くは、いつヒロインが外に出てくるかわからないでしょ」

「はーい」


 朝食を食べると私たちはヒロインの自宅に向かった。


 ヒロインの自宅は、住宅街の南西地区、商会から歩いて1タイムと掛からない距離にあった。

 庭付きの小ぢんまりとした2階屋で、大手商会会頭の家としては、みすぼらしいとさえ思えるものだった。ただ庭はよく整備され、奇麗な花が咲き誇っていた。


 私たちは近くの路地から、中の様子をうかがいながら、ヒロインが外出するのをまった。


 窺い知るところによると、ヒロインは祖父と使用人の夫婦と一緒に暮らしているようである。父母は別に暮らしているか、いないらしい。


 しかし、路地裏で公爵令嬢とメイドが張り込みをしている様子は、はたから見ると非常に怪しい。どこかもっと適当な監視場所ないかと辺りを見回していると、ヒロインが庭の花に水をやりに表に出てきた。


 チャーンス。ステータス『鑑定』。


 私は一度ヒロインのステータスを鑑定した。

 ヒロインで間違いなし。でもこれは・・・。とりあえず時間もないので考えるのは後回しね。


では本番。

私は全魔力を込めてヒロインを凝視した。


『鑑定』


 気配を感じたのかヒロインがこちらを向き、私と目が合う。

 途端に震えだすヒロイン、そのまま声を上げることもなく失禁し、卒倒してしまった。


「お嬢様、もうおやめください。ヒロインが死んでしまいますよ」

 シリーが慌てて私を止める。


「あと少し。よし、逃げるわよ」


 痙攣するヒロインをそのまま放置し、私たちは別邸まで逃げ帰ったのだった。


 半年溜めたMPのほとんどを使い果たし、破滅エンドの条件を鑑定できた。


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