2-7-2 最初の迷宮攻略会議 一日目

 私たちは、最初の村を後にし、今日の宿泊予定地に馬車で向かっている。


「最初の迷宮の攻略情報だけど、ギルドのお姉さんが殆んど話してくれたから、これから準備しなければならない点に絞って説明するわ」

 最初の村の冒険者ギルドで、暇そうな受付のお姉さんが、いろいろ、いろいろと教えてくれた。


「まず、火、水、雷、風、土、光、闇、の属性魔法が必要だわ」

「各階層のスライムの弱点となる魔法ですね」

 リココが答える。


「そうよ。このうち、風は『風刃』があるから、まったく問題ないわ。それと、火、水、光、は『発火』、『水流』、『発光』、で何とかなるような気がするわ」

「『発火』とかは攻撃魔法ではないですが、大丈夫なんですか」

 リココが尋ねてくる。


「お嬢様は魔力が異常に高いですから、生活魔法でも十分攻撃力が得られると思います」

 シリーが助言する。

「そういうことよ、リココ。たぶんいけると思うわ。そうなると残りは雷、土、闇、の三つね」


「その三つの攻撃魔法が使える人を探すのですね」

 リココはパーティメンバーを探すと思っているようだ。


「いえ、その三つの魔法が付与されている魔道具を探すのよ」

「攻撃魔法が付与されている武器は高価ですし、ほとんど出回っていませんよ。伝説の武器レベルです」

 今度は武器を探すのだと思っているようだ。


「さっきも言ったけど、攻撃魔法である必要はないわ。生活魔法で十分よ」

「そうですか、それなら何とかなるでしょうか。雷、土、闇、ですよね」

 リココが考え込む。暫く考えた後、ハッと、何か思いつてようだ。


「あっ、あります。雷を使う魔道具」

「雷を使ったものがあるの、何、どこで手に入るの」

「肩こりを直す魔道具です。母が毎日使っていたのですが、私がこちらに赴くにあたって、お前も二、三年後には必要になるから。と持たせてくれました」

 電気でピクピクさせるあれか。まさかこの世界にあるなんて。それにしても、リココの母親、毎日使うほど肩こりがひどかったのか。


「リココのお母さん、肩こり酷かったの」

「はい、毎日大変そうでした。別に、肩が凝りそうな仕事をしているわけでもないのに、不思議ですよね」

「そう、あなたも二、三年後にはそうなるのね。この裏切り者」

 三年前は私と同じように、ペッタンコだったのに、既に、リココの胸は、前世の、アラサーOLだった私と同じぐらいのサイズがある。


「え、ええ。どういうことですか」

「わからなければいいのよ。せいぜい肩こりに苦しみなさい」

「ひどいです。わけわかりません」


「まあまあ、落ち着いて。二人とも話が進みませんよ」

 シリーが言い合う二人に割って入った。


「そうね。リココ、変な言いがかりを掛けてすまなかったわ」

「いえ、いいです。ところで、その肩こりを直す魔道具をどう使うんですか」

「屋敷に帰ったら見せてちょうだい。魔術回路を複製して、魔法カードを作るわ」


「魔法カード?なんですそれ」

「ああ、リリコは知らなかったわね。これよ。魔力を込めればカードに付与してある魔法が発動するの」

 私は『発光』のカードを取り出し、魔力を込めます。


「わー。凄いですね。これ、お嬢様が作ったんですか」

「そうよ、鑑定魔法があれば簡単よ」

「鑑定魔法で作れるんですか???」


「あとで作るところを見ればわかるわ」

「そうですか。分かりました」

 リココは納得いかないようだが、あとは見て、納得してもらうしかない。百聞は一見に如かずだ。


「お嬢様、土魔法ですが、レオン様が使えます。手伝ってもらってはどうでしょう」

 シリーが提案してくる。

「私もそれは考えたわ、だけれど、迷宮に連れていくには、レオンはまだ幼いわ」


「それもそうですね。レオン様の魔法が複製できれば簡単なのですが」

「そうね。人の魔法が複製できれば簡単よね」

「お嬢様でも、流石に人の魔法は複製できないのですか」

 リココは、訳が分かっていないようなのに残念そうにしている。


「いえ、待って。やってみたことないわ。リココ、あなたに鑑定魔法を掛けていいかしら」

「かまいませんけど」

「そう、ありがとう。では早速。リココの魔術回路を『鑑定』」

 私は、リココに鑑定魔法を掛ける。


「できたわ。魔術回路が鑑定できた。人の体の中に魔術回路が組み込まれていたわ。」

 盲点だったわ。人が魔法を使えるのは、体内に魔術回路があるためだったのだ。


「やりましたね。これで魔法取り放題ですね」

 シリーが喜んでいる。


「確かに取り放題ということになるわね」

 私は、何かわからないが腑に落ちないところがあり、素直に喜べない。


「あのー」

 リココが小さく手をあげて発言権を求めてくる。


「なに、リココ」

「そのカードですけど、私でも使えるのでしょうか」


「えっ」

「あ、いいんです。使えれば、私でも戦力になれると思っただけですから」


 考えてみたこともなかった。秘匿していたから、他の人が使う可能性を検討していない。これから使う機会が増えれば、秘密にしておくのは難しいだろう。


 カード自体はきっと誰でも使える。生活魔法に関しては魔力の制限があるから問題にはならないだろうが、攻撃魔法は問題だ。

 最悪、盗まれでもしたら大変なことになってしまう。


「たぶん、魔力が足りていれば誰でも使えるわ」

「本当ですか、では私が使ってもいいですかね」


「それについては保留にさせて。誰でも使えるのは、まずいことになるわ。何か使用者を制限する方法を考えないと」

「そうですね。そのカードを手に入れれば誰でも攻撃魔法が使えたらうまくないですね。何かうまい制限方法は無いかしら」

 シリーも同意してくる。


「直ぐには思いつかないわね。とりあえず、当面は、攻撃魔法を増やすことはやめましょう」

「なにか、すみません。私が余計なことを言ったばかりに」


「そんなことはないわ。むしろ助かったと思っているわ」

「そう言ってもらえると安心します」


「もう宿に着くようです。今日はこれくらいにして残りは明日にしましょう」

 シリーが宿への到着を告げた。


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