5-3-2 ダンス

 高等学院に入学して三日目、お昼休みも終わり、この後の実習はダンスである。

 ダンスと一言でいっても、フラダンスやブレイクダンス、はたまた、盆踊りまでいろいろあるが、ここでいうダンスは言うまでもなく社交ダンスだ。


 ダンスの実習は、講義室棟と中庭を挟んで向かいにある、実習等のダンスホールで行われる。

 私はダンスホールに入り、実習が始まるのを待っている。


 一応私は、王妃教育で散々やらされたので、ダンスは得意だ。

 実習は受けるか、受けないか選択できるので、無理に受ける必要もないのだが、昼休みに第一王子と話した、帝国の皇子のこともある。第一王子には釘を刺されたが、監視ぐらいは私もしておこう。


 それとは別に気になることもある。ヒロインについてだ。

 入学式典の後、講義室でリココが踏みつけて以来、接触がないのである。

 まあ、こちらから積極的に話しかけにいくわけでないので、それが普通なのかも知れないが、その割には、侯爵令嬢とはよく衝突している。

 今も第二王子のダンスパートナーを巡って言い争いをしている。


 あ、侯爵令嬢がヒロインを蹴飛ばした。ヒロインは転んで起き上がれないでいる。

 見兼ねたのか大公令嬢が助けに入っている。

 侯爵令嬢がヒロインを虐めるたびに、何かモヤモヤするものがある。なぜなのだろう。


 まあ、こちらに火の粉がかからないのなら放っておこう。


 それより、自分のダンスパートナーだ。第一王子がいれば当然第一王子となるわけだが、学年が違うためここにはいない。となると、取り敢えずケニーでいいか。

 そう考えて、ケニーを探していると、後ろから声をかけられた。


「やあ、エリーザ嬢久し振り、8年振り位かな。僕だよ。当然わかるよね」

 振り向いた私の瞳に映ったのは、オレンジ色の髪をした少年だった。

「これは、ラン司祭お久しぶりです」

 攻略対象者の一人、枢機卿の孫のラン=マホンだ。最近司祭になったと聞いている。

「僕が司祭になったこと分かるんだ。流石に何でもお見通しだね」

 別に鑑定で知ったわけではないが、敢えてそのことには触れない。


「ところで、今日はどのようなご用件でしょうか」

「随分と冷たい対応だね。一応知り合いだから、ダンスのパートナーに誘いに来ただけさ」


 私は彼が苦手である。理由はいくつかあるが、昔から出来るだけ関わらないようにしてきた。

「折角のお誘いですが、私は他の方と組む約束が・・・。無かったようです」

 私がケニーを見つけると、ケニーは既に、第二王子の争奪戦に敗れたヒロインとパートナーを組んでいた。

「そう、それは良かった」


 私は仕方なく、ラン司祭とパートナーを組みダンスの実習を受けた。


 ダンスを踊りながら私はラン司祭聞いた。


「それで、本当の目的は何」

「そんなに警戒しないでよ。神様にも言われてるんだよね。君とは敵対しないようにって」

 彼の使える魔法は支援系魔法、その中でも異質な『神託』が使える。

 私は彼を疑いの目で睨む。


「睨まないでよ。それで、目的だったね。神様から伝言だよ。13回目、だって」

「13回目、何のこと」

「さあ。僕にはさっぱり。君ならわかるんじゃないの」


「他には何か言って無かったの」

「他に、別に言って無かったけれど、面倒なことさせられたと愚痴ってたな」

「愚痴ってたの。神様も愚痴るんだ」


 と言ったが、我が家にいる女神を思い出し、愚問だったと納得したのだった。


 それより面倒なこととは何だろう。少し考えてみたが、何の情報もなく考えてみてもわかるはずもない。


「神様っていつも何してるの」

「また、突拍子のないことを聞いてくるね」


「んーん、面倒なことをさせられた、ということは、普段しないことをしなければならない状態だったってことよね。だとすると普段何してるのかなって。ああ、何もしていない可能性もあるのか」


「不信心だな、神様は常にこの世界を管理しているに決まっているだろう」

 いや、我が家の神は、今頃家で昼寝をしているぞ。


「そうなると、この世界に予想外の異常があって、それに対処したってことよね。13回目と関係があるのかしら」


「そんなの僕たちが考えても分かる訳ないだろう」

「それもそうね」


 神のことは神に聞いてみよう。


 そして私はその夜、13回目の意味を知るのだった。


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