6-1-9 事情聴取の結果

 学院襲撃の詳細をヒロインから聞き終えた私たちは、誰しもが言葉に詰まった。

 沈黙を破って、最初に言葉を発したのは騎士団長だった。

「今に話を信じるとすると、実行犯はカミーユという学院生で、主犯は第二王子、協力者に侯爵令嬢ということになるが」

「まさかツヴァイトが私を殺す指示を出したというのか」

 第一王子は話の内容にショックを受けているようだ。


「第二王子が主犯というのは違うかもしれません」

「何故だ」

 私が疑問を呈すると、騎士団長が聞き返してきた。

「実は、カミーユという学院生は帝国の第四皇子なのです」

「なんだって。何故、帝国の皇子が我が国の学院に通っている」

「それについてはわかりませんが、前には帝国が違法な薬物を密輸していたことがありました」

「そんな話は聞いたことがないぞ」

「えーと。これから起こったことがあった、ということです」

「なかったことになってしまった、前回以前の未来での出来事ということでいいのかな」

 私の言葉が分かり難かったのだろう。第一王子が補足的に聞いてきた。

「まあ、そう捉えてもらっていいです」

「何かややこしいな」

 騎士団長が頭を抱えている。


「それで、話を戻しますが、サーヤさんの話によると帝国の皇子が欲しがっていたのは私です。実は、前に、私は帝国軍に拐われたことがあります」

「それも未来の出来事なのか」

「そうです。ですから、この襲撃の目的は、第一王子の殺害ではなく。私の拉致だと思うのです。そうなると、主導したのは帝国です」

「つまり、ツヴァイトはこの襲撃に関わっていないというのか」

「それはどうでしょう。第二王子が第一王子を殺害しろと指示を出した証拠はありません。ですが、大公令嬢とサーヤさんを殺害するよう頼まれたと、帝国の皇子は言っています。全く関係なかったということはないでしょう。ですが、これも、第二王子ではなくて、侯爵令嬢からの依頼だったかもしれません」

 第一王子は考え込んでしまった。代わりに騎士団長が私の話に同意する。

「うむ、確かにその可能性はあるな。状況からして、襲撃の計画を第二王子がまるで知らなかったということはあるまい」

「そうですね。ですが、今時点では計画のけの字も無いと思いますよ」

「そうだな。将来襲撃を計画するかもしれない、というだけで第二王子を捕まえられんな」

「帝国の皇子だけでもどうにかならんか。ツヴァイトは帝国の皇子に唆されたのかもしれん」

 第一王子は、第二王子を信じたいようだ。周りでは対立しているように言われているが、実はこの二人は仲がいい。


「そうですね。身辺を調べさせて、身分が確定すれば、拘束して帝国に送り返せるかもしれません。何か犯罪に手を染めていれば、拘束するのも簡単なのですが」

「その辺は悟られないように進めてくれ。逃げられると後々厄介だ」

「そうですね。その辺はお任せください」

 帝国の皇子をどうにかすることで話がまとまった。


「学院襲撃についてはそれでいいかな。続いては君の処遇について話し合おう」

 第一王子がヒロインに向けて話しかけます。

「私の処遇ですか」

「そうだ、まず君のその能力?について詳しく聞かせて欲しい」

「能力と言われましても、自分が死ぬと学院の入学式典の後に時間が戻ってしまうだけで、自分の意思で時間を戻したり、好きな時間に移動したりはできません」

「自分の意思とは関係なく時間が戻ってしまうのだな」

「はい、別に時間を戻そうなどと考えていません」

「君は既に十回以上時間を戻しているのだったな」

「はい、多分今回が十一回目だったと思います」

「お前は何故そう簡単に死ぬ」

 騎士団長が堪らず声をあげる。まあ、そうね。私でもそう思うわ。このヒロイン、ゲーム下手すぎるでしょ。普通、そんなにヒロインは死なないわよ。

「別に死にたくて死んでいるわけではないんです。それに、これでも段々と長生きになっているんです」

 ヒロインが涙ながらに訴えます。まあ、その気持ちもわかるのだけどね。ヒロインがゲーム下手という訳ではなく、何か特別な力でも働いているのでしょうか。


「そうか。最悪、君を留置所から出さないという選択肢も考えている」

 第一王子は随分と非人道的なことを考えているようだが、王族であれば国のために仕方ないのかもしれない。

「えー。そんな。私、何も悪いことしてないのに」

「お前を外に出したらまた死ぬだろう」

 騎士団長に突っ込まれます。

「うっ。今度は死なないかもしれません」

「既に十回以上死んでいる人に言われてもな」

 騎士団長が呆れている。


「ちょっと待ってください。留置所に閉じ込めておいても死なないとは限りませんわ。どうしても出たいと考えた場合、自殺すれば自由になれるのですから」

「うむ、そうか」

「そうなると、四六時中護衛を付けるほかないが、平民に騎士を付けるわけにもいかんしな」

「そうですな。上級貴族でもなければ、常に騎士を護衛に付けることは出来ませんな」

 第一王子と騎士団長が考え込む。


 私は騎士団長に質問する。

「上級貴族なら可能なのですか」

「そうですね。命を狙われる可能性がある場合であれば可能だな」

「なら、大公家の養女にすればいいわ。トレス様のところなら喜んで受け入れるはずよ」

「なんだその自信は、何を知っている」

 第一王子が疑いの眼差しで私を見る。

「そう簡単には喋れませんわ。もし、受け入れを拒まれたら、私が秘密をバラすと言っていたとお伝えください」

「トレス嬢は、随分厄介な者に秘密を握られているようだな」

「厄介な者とは失礼な。今まで私は秘密を種に人を脅したことはありませんよ」

「そうだったか」


「あのー。話が進んでいるところ申し訳ございませんが、私、恐れ多くて大公家の養子になんかなれません」

「遠慮することはないのよ。サーヤさんには大公令嬢になる権利があるのだから」

「そんな権利あるわけないですし、もしあっても私は要りません」

「まあまあ。そんなこと言わずに、養女になっておきなさい。これからは、サーヤさんのことサーヤ様と呼びますね」

「そんなやめてくだい」


「言い合いはそれぐらいにしてくれ。取り敢えず、大公家には養子の件を打診してみる。無理押しはしない。これは決定事項だ」

「わかりかした」

「はぃ」

 話がまとまらないとみた第一王子が、王族の権威で有無を言わさず話を決めてしまった。大公家が養女の件を断るはずないから、これで決まりね。

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