6-1-10 世の理

 騎士団に留置されていたヒロインから学院襲撃の詳細を聞いた私たちは、帝国の皇子をどうにかすることと、ヒロインを守るため、大公家の養女にすることを決めた。


「ところで君は教会から、世の理と呼ばれているようだが」

 第一王子は、まだヒロインから聞きたいことがあるようだ。

「世の理ですか。初めて聞きました。何か凄い名前を付けられて恐縮なのですが」

「教会が勝手に言っているだけだから、気にしなくてもいいのではないの」

「そうですか。エリーザ様がそうおっしゃるなら気にしないようにします」

「いや、待て待て。教会がそう呼んでいるのだ。それなりの理由があるはずだ」

 私とヒロインで納得しているのに、第一王子は納得がいかないようだ。


「死んだら時間を戻して生き返る能力のことですかね」

 騎士団長が首を傾げながら発言する。

「果たしてそうだろうか。私は他のことを指しているのではないかと思うのだが。何か思い当たることはないかい」

 第一王子が何やら鋭いな。教会の言っている世の理とはヒロインのこと。ヒロインの選択がこの世界の行く末を決めている、ということなのだろう。と私は考えている。


「思い当たることですか。でしたら、また信じられないようなことを言いますが。目の前の空間に、これから行動すべき選択肢が出ることがあるんです」

 ヒロインが両手を伸ばし空中に大きな四角を描く。

「それは、君以外にも見えるのかい」

「いえ、見えるのは私だけのようです」


「そうか。それで、具体的にどんな選択肢がでるのだい」

「そうですね。いつも最初に出るのは、学院の入学式典の日に講義室に入ってすぐに出るものなのですが。1 王子と座る。2 前の席に孤独に座る。3 大公令嬢と仲良くなる。4 公爵令嬢を蹴飛ばす。の四つです」

「その四番目は何なの」

 私はヒロインに噛み付きます。


「私に言われても、選択肢は私の意志とは関係なく、勝手に出てくるのでどうしようもありません」

「それで、君はその選択肢に沿って行動するわけだ」

「いえ、そうではなく。私が例えば三番の、大公令嬢と仲良くなる。を選択したとすると、トレス様の方から声をかけてくださって、隣に座るように言ってくださるのです」


 そこで私は先ほどの膝蹴りに思い到る。

「ちょっと待って、さっきあなた四番を選んだでしょ」

「え、いやー」

 ヒロインが気まずそうに視線を逸らす。

「何で四番を選ぶのよ」

「仕方なかったんです。今回はエラーがたくさん出て、気が付いたら四番だけしか選択できなくなってたんです」

「エラー?」


「何か、悪役令嬢がいないだとか、重要アイテムの聖剣がないだとか、そういったメッセージが目の前を流れるんです」

「ああ、私がこの大陸にいなかったからエラーになったのね」

「多分そうです。今回は最初にエラーがでて、システム?が停止して、セーフティーモード?になったんですが、エリーザ様がいらっしゃる直前に、エラーが修正され、デバッグモード?になってシステム?が修正され。通常モード?になった様です」


「あなた、自分で言って意味わかってないわね」

「はい、実は、殆どわかりません。だって、こんなことになったのは、前回と今回の二回だけですし」

「前回もなったの」

「前回はバグ?だったかな。一番の王子と座る。を選択したら、悪役令嬢が婚約者じゃないから、悪役令嬢を侯爵令嬢にデバッグモードで修正するみたいなメッセージが流れました」

 ああ、それで悪役令嬢の称号が外れたのね。


「ですが、今回ほどではないです。今回なんか、セーフティーモード?中は、システム?を破壊する恐れが有るから注意しろ。とでてました。何をどう注意すればいいかわからないですよね」

「まあ、そうね」

 セーフティーモード中ならシステムを破壊できるのか。システムを破壊してしまえばイベント強制力に悩まされる必要もなくなるかもしれない。だが、システムを破壊したらどんな影響があるか分からないからな。最悪、世界が滅びるかもしれないし。詳細が分からなければ手が出せないな。


「エリーザもういいかい」

「あ、すみません」

「いや、かまわないよ」

 つい、第一王子をそっちのけで話し込んでしまった。


「つまり、君が選択すると、周りがその通りに動くということでいいのかな」

「そんな感じですけど、出される選択肢は私ではどうにもできませんよ」

「それでも君は人を操ることができる。いや、人だけではないのか。つまり、世界がどちらに進むのか、その筋道を決めることができるということか。それで、世の理なのだな」

 第一王子はそれで納得したようだ。


 ヒロインの選択によってルートが変わり、たどり着くエンディングが決まる。ここはそういう乙女ゲームの世界。


 だが、私たちの行動次第では、システムに干渉できることがはっきりした。なんとしてでも、生き残って、幸せなエンディングを迎えてやる。幸い、今回は既に魔王の称号を得ている。後はヒロインに勝つだけで、ヒロインから見れば破滅エンドだが、悪役令嬢の私にはハッピーエンドだ。

 あれ。ヒロインに勝つって、何で勝てばいいの。戦闘、所持金、それとも女性らしさ。乙女ゲームだから攻略対象者の好感度かもしれない。困ったぞ、何で勝てばいいんだ。事あるごとにヒロインに挑戦していたら、また、周囲から虐めていると取られてしまう。


 今回はのんびりできるかと思っていたが、そうもいきそうになかった。

 やれやれである。


 その後、ヒロインは大公家の養女になることが決まり、無事、留置所を出ることができた。


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