2-9-4 王妃教育

 王妃教育が始まった。週に四日、王宮でみっちりと王子の婚約者としての、そして将来の王妃としての心得を叩き込まれた。


 それによると、婚約者としての心得とは、第一に、王子を守ること。

 第二に、王子を守ることで、第三も、第四も、王子を守ることだ。


 そして、第五で初めて、自分?違いますよ。自分なんて一つもありません。

 なぜかって。いくらでも替えがきくから。

 第五は、子供ができたら、その子供を守ること。だそうだ。


 確かに子供は大事だよ。自分の子供は守りたいよ。だけど、まだ婚約者のうちに、子供ができるようなことする予定はないよ。王妃になってから?それは、まあ、仕方ないよね。私だって、将来、自分の子供を持ちたいし。


「エリーザ様は鑑定魔法が使えるそうですから、まず第一に、口にするもの全て鑑定してください。特に、殿下と一緒の時には絶対に忘れないでください」

 いかにも女教師といった、先生に婚約者の心得を教わっている。


「それは、毒が入っていないか鑑定しろ。ということですか」


「そのとおりです。油断するとすぐ毒殺されてしまいますよ。何か手にするときも、必ず信頼のおける侍女に取ってもらうようにしてください。もし可能であれば、それらにも鑑定を掛けてください」


 そんなに危険なのか。


「第二に、知らない人と会うときは、その人物を鑑定する癖をつけてください。そして不審人物や、身分を詐称している者があれば、必ず、私に、報告してください」


「あなたに、なのですか。護衛の者などではなく」


「そうです。どこに、第一王子の政敵が紛れているかわかりません。必ず私にしてください」


「しかし、他人を黙って鑑定して問題になりませんか」


「第一王子の政敵を見つけるためです。多少のリスクは致し方ありません。そこは、バレないように上手くやってください」


「バレないように。って、もし、バレたらどうなります」

「それは、あなたの責任で、私たちは関知しません。当然、第一王子は、何も聞かされていません」


 トカゲの尻尾切りですか。


「次になりますが、もし、殿下と一緒の時に暴漢などに襲われたら、身を呈して殿下をお護りください。具体的な方法は、後でしっかり、身体で覚えていただきます」

「身を呈してですか」


「はいそうです。もっとも、エリーザ様ならば、壁役として刺されるだけでなく、相手を返り討ちにできるかもしれませんが」

「どういうことでしょうか?」


「かなりお強いと聞き及んでおりますが」

「どなたがそんなことを」


「騎士団長のローザス様ですが」


 そう、ケニーの父親ケイブリー=ローザスは、今年の春から騎士団長に昇格し、いまは王都に詰めている。うすうすは分かっていたが、これでケニーが攻略対象者ほぼ決定である。


「王宮内は第一王子派と第二王子派、それに、行方知らずの第三王子派が対立していますから。くれぐれも注意してください」


 何か、本当に面倒くさいところに来てしまった。

 そして私は、完全に第一王子派と見なされてしまったようだ。


 それにしても、婚約者というより護衛役だろう。これ。


 勿論、護衛役?としての教育だけでなく、マナーから始まり社交、ダンス、はたまた夜伽まで、あらゆる淑女教育も行われた。


 先生がいいのか、シリーの支援魔法のおかげか、私は、著しい成長をとげ、まるで、淑女の鏡(自称)と言われるようなレディとなった。

 夜伽も成長したかって、そんなのは成長したところで、使いどころがありません。


 それにしても、王宮内が物騒すぎる。いつ命を狙われるか分かったものではない。


 そこで、今までカードケースについていた収納機能と同じものを、指輪に付与し魔道具にした。

 指輪ならドレスでもつけていて問題ないし、危険物チェックも素通りである。


 指輪の魔道具の作成は、細かな作業の連続で、困難を極めた。


 いかんせん、魔術回路を描くためのスペースが小さすぎる。魔術回路を積層化したり、ミスリルや魔石といった高級資材を、創世の迷宮に行くための資金を取り崩し、ふんだんに注ぎ込んだ。


 命あっての物種である。死んでしまっては、迷宮に行けない。それに、創世の迷宮への旅費は、第一王子が出してくれるだろう。


 そうしてできた指輪の魔道具は、シリーの支援魔法による性能向上も合わせて、正に、国宝級のものとなった。


 私は、その指輪の魔道具に、カードと武器、ポーション、非常食、ロープ、救急キットなど、思い付くままに必要そうなものを収納した。


 これで、いざという時もなんとかなるだろう。


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