5-5-2 襲撃

 ケニーとニコラスがフラグを立てた所為ではないだろうが、創世の迷宮に向かっていた私たち一行は、何者かの襲撃を受けていた。

 16騎の騎馬隊が護衛する隣国の王族が乗る馬車を襲うのだ、ただの盗賊ということはないだろう。当然襲撃は計画的であり、相手はこちらを上回る人数と武力を用意していた。装備や技量からもただの盗賊でないことは明らかだ。

 奇襲されたこともあり、あっという間に王女が乗る馬車を抑えられてしまった。


「よく聞け、王女の命が惜しければ、抵抗は止めろ。抵抗しなければ手荒なことはしない。それと、転移魔法で逃げるなよ。逃げた場合は王女の命はないと思え」


 襲撃者のリーダーと思しき男が大声を張り上げる。

 それにしても、まるでこちらが転移魔法を使えることを知っているかのような口振りだ。王女が人質に取られている以上迂闊な真似はできない。


「観念したら大人しく武器を持たず馬車を降りてこい」

 私たちの馬車も戦う前に襲撃者に取り囲まれてしまった。


「おい、どうする」

「どうするって、王女が人質にされている以上従うしかないでしょう」

「しかし、何者なのでしょう。随分と手練れを揃えているようですが」

「少なくとも、いきなり皆殺しをするような奴らではないことは確かね」

「身代金が目的でしょうか」

「その可能性もなくはないけど」


「おい、どうした早く降りてこい。こないならこの男の首を刎ねるぞ」

 襲撃者はレオンを引きずり出すと首に剣を当てた。

「待って。今降りるわ」

 私たちが馬車から降りると、襲撃者とは少し毛色の違う集団が近付いてきてニコラスの前に跪いた。


「ニコラス様、今まで異国の地に攫われ大変お辛かったことでしょう。ですが、ご安心ください。今日からは我々が、ニコラス様をお守りし、幸せに暮らせるように取り計らいいたします」

「ニコラスさん、こいつら何者だ」

「貴様、気安くニコラス様に話しかけるな」

「君たちいったい何者なんだい」

「名乗るのが遅れました。私は、エルフ原理主義同盟、同志のライムです」

 跪いた集団の紅一点、先程から話している女性が、ニコラスに問われ名乗りを上げた。


「ライムさん、私たちをどうする気ですか」

「ニコラス様には一緒に来ていただいて、同盟の盟主となっていただきます。ニコラス様を拐かした、他国の者たちのことなど私たちは関係ありません。気になるようならここで斬り捨ててしまっても構いませんが」

「おい、そっちは俺たちが連れて行く約束になっていただろう」

「それなら、そいつらを連れて、さっさとこの国から出て行ってくださいね」

「わかってるって」

「それではニコラス様いきましょう。こちらの馬車です」

 ライムと名乗る女性は、同盟の仲間たちとニコラスを連れて馬車でこの場を後にした。残った盗賊たちは私たちを縛り上げていく。


「それであなたたちの目的は何」

「俺たちの素性を聞かないんだな。ああ、あんたは鑑定の魔眼持ちだったっけ」

 こちらのことをかなり細かく調べているようだ。鑑定結果によると、こいつらは帝国の軍人だ。

「あんたたちにはこれから帝国に来てもらう。あんたたちは人質だ、その転移魔法が使えるメイドが大人しくいうことを聞くようにな」

 襲撃者のリーダーは、私の侍女を指さす。

「私、転移魔法なんか使えません」

 指をさされたリココは慌てて否定した。そう、指をさされたのはシリーではなく、リココであった。

「隠しても無駄だぜ、調べはとっくについてるんだ」

「何のことかしら、その子は転移魔法なんか使えないわよ」

「あんたまで惚けるのかい。無駄なことを。あんたらエリーザ迷宮を攻略した時、転移魔法を使っただろう」

 あの時か、でもあれはうまく誤魔化したはず。屋敷の者が秘密を漏らすはずはない。それよりエリーザ迷宮って呼ぶな。

「迷宮の最下層が崩落してから、その日のうちにギルドに報告しているだろう。転移魔法を使わなければ時間的に無理だ」

 しまった。ギルドに報告したのが仇となった。

「最下層に転移陣があったのよ」

 苦し紛れの言い訳をしてみる。

「そんな報告は受けていないな」

「兎に角、その子は転移魔法を使えないわ」

「まあいい、帝国に着いてからゆっくり調べるさ」

 男はリココに近付くとそのままリココを連れて行ってしまった。


「お前たちはこっちの馬車だ」

 今まで黙っていた襲撃者の副官と思われる男に命令され、私たち三人は襲撃者が用意した馬車に押し込まれた。囚人や捕虜を護送するための馬車の様だ。王女たちも別の馬車に移された。

 しばらくすると馬車が動き出した。襲撃者の言葉通りだとすると帝国に向かっているのだろう。

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