第2話「デコトラ、デコトラ神ニ謁見ス」
えーっと、俺様はデコトラだ、いろいろあって死んだ、はい終わり。
【こら話を終わらそうとするな!つかわしを無視するんじゃない!】
いやだってさぁ、どう考えても相手したくないんだもの。なんだよデコトラの神って。しかも見た目が……。
金ピカの巨大なデコトラってなんだかなぁ、飾りがゴテ盛りで絢爛豪華を通り越して成金趣味丸出しというか何というか、キャビンの上の飾りなんか何十メートルあんだよこれ。
カーゴ部分も1つだけじゃなくて、何十個も積み重なっててまるでピラミッドだぞ、無駄に後光がさしてて神々しいし。
もうこうなると霊柩車にも見えるぞ。あれも今や宮型っていう昔のが無くなりつつあるそうだけど、時代の流れって世知辛いぜ。
【いいかげんにせんと異世界転生させる時に霊柩車にするぞ。『霊柩車悪役令嬢』などとなりたくは無かろう?】
なんだよその無茶苦茶な組み合わせは……。悪役令嬢? 誰だそれは。あと異世界転生ってなんだよ。
【うむ、お前には今から異世界転生してもらって、とある令嬢と共に使命を果たしてもらう】
いや、意味がわかんねーのだが? 俺様はさっき事故に遭って全焼して、どう考えても廃車だぞあれ。それで終わりだろ?
【うむ、お前さんはそれで1人の命を救ったな? 実にあっぱれな事だ】
そんな大層なもんじゃねえよ。俺はあの善良なオーナーに罪憑きになって欲しくなかっただけだ。むしろ本望だよ。
【まぁそれはそうなんだがなぁ。その、なぁ、それで困った事が起こってのぅ】
なんだよ、人が助かって誰も死ななかったんなら良いことだろうが。事故なんて無いに越した事無いんだぞ。
【それはそうなんだがな、あの少年は、あそこで死ぬ運命だったのだよ。本来ならあそこで死んで、次の世界へと転生する予定だった】
予定って、何だよそれ! 人の運命を勝手に決めるな! あと俺様たちトラックを巻き込むんじゃねえ!
そういう物語があるのは知ってるけどなぁ、俺様達が異世界への扉みたいに扱われるのマジ不本意なんだが?
すげぇ迷惑だってトラック仲間内でいつも愚痴ってるんだが?
【まぁそこは相手の都合を色々と考えないのが我々神々というものだ。あげつらうものではないぞ】
俺様にはお前が邪神か何かに思えてきたよ……。
【人の尺度では、正邪とかそんなのは細かい事だ、わしが邪神に見えるのも仕方ない】
俺様は人じゃなくデコトラだけどな。で、何なんだ?困った事ってのは。
【うむ、話の流れを元に戻す事に協力してくれて感謝するぞい。つまりな、お前さんの善行が、別の運命を引き寄せてしまってな。お前さんがその少年の代わりに異世界転生する事になったのじゃ】
……ちょっと待て、何でもかんでも異世界転生するご時世だけどさぁ、俺様デコトラだぞ!
デコトラが異世界転生してどうする! せめて生き物を転生させろよ! 転生って生きてるものがするもんだろ!
【細かい事を言うな。あとお前さんの善行に対して何か報いねばというのもあるのだよ】
それ細かい事なのか……? いらん、さっきも言ったが俺様のデコトラ生はここで終わりだ。俺様は最後まで走って、最後に人を救えた。それで十分だよ
【うんまぁそう言うと思ったがな、もう一度人助けをしてもらわねばならんのだ。本来ならあの少年が救うはずだった少女をな】
すると、俺様の身体、というか車体が淡い光を放ち始めた。こいつ! 俺様の意思を無視して何かしようとしてるな! やめろ! マジやめろ!
【まぁそう言うな、お前さん、最近仲間というか、デコトラを見なくなったと思わんか?】
たしかに最近は見ないな、仕方ねぇだろ。世の流れだ。法律だって色々変わってるし、俺様のオーナーも『潮時かねぇ』とか言ってたからな。
いやそうじゃなくてな。勝手な事するなつってんの!
【いや違うぞ、実はあれにはわしが関わっておる。いなくなったデコトラ達は、みな異世界転生しておるのだよ。皆使命を帯びて旅立って行った。】
絶対嘘だろそれ。
【何を言う! わしが言うのだから間違いない! 貴様! デコトラ数千年の歴史を見守って来たわしを侮辱するのか!】
デコトラの歴史なんて50年くらいしか無ぇよ! お前絶対適当な事言ってるだろ!
つか俺がその最古参クラスのデコトラだぞ!? ならお前いったいナニモンだよ!
【さて時間が無いから大サービスで案内係は付けてやるぞ、スキルも盛りだくさんだ。では後は頼む】
てめえええええええええええええええ!!
「……ってなわけで、俺様は異世界転生してきたわけよ」
「はぁ、そうなの、ですか?」
うんまぁ、突然こんな話されても困るわな。
眼の前の女の子は、ベッドの上で俺様を茫然と見ている、ように見える。まぁ普通こんなのが突然部屋の中に現れたら驚くわな。驚いてるよな?
なにしろ今の俺様がいるのは妙に豪華な部屋の中だ。白を基調にした部屋の床にはいかにも高価そうな赤絨毯が敷いてあり、白と桃色を基調とした家具はどれもこれも豪華そのものだ。
その所々には金の装飾施されており、きらきらと部屋の光を反射して宝石に囲まれているような感覚に陥る。
その部屋に置いてあるベッドはクイーンサイズというやつか?スペースをケチケチしたりせずに、でんと中央に置かれている。
しかしベッドも豪華だなおい、カーテン付いてるベッドなんて初めて見たぞ。まさにお姫様用って感じだ。
んで、そのベッドに座ってる女の子ってのがこれまた美少女だ。ウェーブのかかった金髪のロングに透き通るような白い肌。
顔のパーツは全て綺麗に配置されていて、見事にバランス良く配置された目鼻立ちもくっきりしている。
瞳の色は赤ってのが印象的だが、その表情は眠たげだ。
……つかよく考えたら俺様が丸ごと入る部屋ってとんでもない大きさだな!今の俺様はなぜかちょっと小さくなってしまっているが。
とはいえミニバン2台分くらいの大きさはあるぞ、ああカーゴ部の長さも短くなってる。悲しい。
「ケイトー」
ああっ! 待って! 俺様がぼけーっと見てたら女の子が呼び鈴鳴らそうとしてる!
俺様は別に怪しいものじゃないよ! 怪しさしか無い見た目だと自分でも思うけど!
ん? お? 俺様の身体、ちょっと動いたか? 今たしかに前進したよな?
もしかして今、自分の意思で動ける? 方向転換もできる! 自由になる身体バンザイ! この部屋では走らないけどな。
いやそんな事で感動してる場合じゃない!
「お嬢様、お呼びですか?」
俺様がわたわたとしていると、ドアを開けて褐色で長身の女性が入ってきた。
メイド服姿のメイドさんとしか言えないメイドさんだな。前世の大きいお兄さん達が大喜びしそうな見た目だ。
着ているメイド服は真っ黒なワンピースの上に真っ白なエプロンやらヘッドドレスも眩しい白と黒のコントラスト。
黒髪で長い髪をポニーテールにしてまとめていて、切れ長の目が少々キツイ印象を与える。ちょっと怖い感じだが、なかなかの美人さんだ。
「ケイトー、この人にお茶をお出ししてあげてー」
「はいかしこまりまし……、リアお嬢様、どこから拾ってきたのですか。このように巨大なものを」
子犬みたいに言わないでくれる!?
ちょっと待って、”このような”のを拾ってくると思われてるこのお嬢様って何者!?
もしかしてとんでもない人の所に飛ばされたんじゃなかろうか……、突然不安になってきた。
「あー、いや、俺様は、拾われてきたんじゃなくてな、迷い込んだと言うか飛んできたようなというか……。とにかく怪しいもんじゃない」
「人の言葉を離す巨大な物体が怪しくないわけないでしょう。一体何者なのですかあなたは」
そうそれ! まずはお互いを知ろう! メイドさんとってもいい人! 俺様ちょろい!
次回、第3話「【ガイドさん】、デコトラ ヲ ゴ案内ス」
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