第34話「悪役令嬢トデコトラ、『ギルドマスター』ト面談ス」


俺様達は受付に戻って冒険者登録証の発行を待っていた。受付の子がてきぱきと段取りをしてくれている。

「はい、それでは登録者名:リーリア様、年齢:15歳とさせていただきます、それでは手を出して下さい」

リアが言われるがままに手を出すと、手のひらの上に名刺位の大きさのカードを置かれた。するとカードが発光して左上にリーリアの顔が写真のように浮かび上がる。

名前やら年齢らしき文字がその下に書き込まれると光が収まった、これで完成かな? そういや俺様この世界の文字読めないんだった。

偽名のリーリアでも登録できるあたりその辺は割と適当だな、冒険者になりたいなんて者は過去を詮索されたくないだろうし、詮索しないって事か。

「はい、それではC級冒険者のリーリア様、こちらをどうぞ」

リアはそれを受け取ったが浮かない顔だ、さっきのおっさんにボロ負けしての認定だからな。受付の子もそれを見て察したようだ。


「お疲れ様でした。凄いですよね、いきなりでC級なんて。選抜試験を始めるまではまずE級から始めるのが普通で、それでもD級に上がるまで何ヶ月もかかるんですよ?」

「そう、なの?」

「はい、凄い事なんですから胸を張って下さい!」

あの試験のおかげで、むしろランクが上の状態で冒険者になれた、って事か。それでも俺様もリアも敗北感が消える事はなかった。

「あ、改めまして、私はこのギルドで受付をしているシンシアです。色々とわからない事があれば、いつでも聞いてくださいね。それでは、私の後について来てください」

そういや、さっきのおっさんの所に呼ばれてたっけな。受付横の通路を奥に行くと、二畳程しか無い小部屋に案内された。


何一つ物が置いていないので何なんだと思ってたら、扉が閉まって上昇していく感覚を感じる。

なんてこった、これエレベーターか、魔法とかがあるからか現実の中世とは技術レベルが全然違うようだ。それもそうか、誰も魔法が実在する中世知らないもんな、これがこの世界の当たり前なのかも。

「何、この部屋、動く感じがする」

「ああ、リーリア様は昇降機をご存知無いのですか? とはいえこの街でも設置されているのは数少ないんですよね。使うのにも魔力が要るので許可がいるんですよ」

説明するシンシアさんもちょっと誇らしげだ。こういうのは公爵家やテネブラエの王城でも見なかったもんな。なんでこの世界では技術が一定していないんだ?

ガコンという軽い衝撃と共にエレベーターが止まる。魔法で動いてるみたいだけど電気のと違いはわからんな。

階の表示……、そういや俺様この世界の数字も読めないわ。何と書いてあるんだろ、と思ったら俺様の視界に被さるように”5”の文字が浮かび上がった、翻訳してくれたのか、便利だなこれ。

【ご案内します。5階、最上階です】

おお、【ガイドさん】はこの世界の数字が読めるのか。

【ご案内します。私はこの世界の事は何も情報を持っておりませんので、データに無いものご案内しかねます】

え? でも階の文字とかこれどうなってんの?

【ご案内いたします。上昇するに従って変わる表示を記録したのと、様々な視覚情報からの分析によるものです。その他文字等は精度の向上まで今しばらくお待ち下さい】

すげー、俺様なんてぼーっと見てただけだわ。


通路を進んでいくと、いかにもな大きな扉の前まで案内された。シンシアさんがノックと共に室内に声を掛ける。

「ギルドマスター、お連れいたしました」

「おう、入れ」

ええ!?さっきのおっさんとかじゃなく、いきなりギルドマスター? と思ってたら、扉が開いて中にいたのはさっきの試験官のおっさんだった。

え? まさかこの人がギルドマスターなわけ?


「おう、待っていたぞ。まぁそこに座れ、緊張する事はない……、してないようだな、単に落ち込んでるだけか。シンシア、茶を頼む。それと下に行って付き人とレイハを呼んでやれ」

リアがどうしていいかわからず立っていると、ギルドマスターらしいおっさんはてきぱきと指示を出していた、なるほどギルドマスターというのは本当らしい。

リアはとりあえず指示された応接セットのソファに座った。程なくレイハとケイトさんも案内されてくる。

レイハはリアの隣に座り、ケイトさんはリアの後ろに控えるように立つ。

ギルドマスターのおっさんは対面のソファに座ってきた、いったいどんな事を聞かれるのやら。

「さてと、もう判っているだろうが、儂がギルドマスターのゲオルグだ。なに、ちょっと話を聞かせてもらいたいだけなんだが、大分落ち込んでいるようだな」

ギルドマスターのおっさん、いやゲオルグはリアを一応気遣ってくれるようだ。そういや名乗ったのもこうやって気遣ってもらえるのもリアが冒険者となったからか?


「負けたから……」

「ハハハ、まぁお前さんは力を持って浮かれてたんだろう、足元を救われたらそうもなるわな。

 だがな、むしろそれを幸運と思うべきだぞ?もしもああいう経験をせずに、いきなり魔獣討伐や迷宮探索に行っていたら、下手をすると命を落としていた」

「うん……」

落ち込むリアの表情を見るゲオルグの顔は優しい、つーか年齢的にも孫を見るお祖父ちゃんの顔なんだが、言ったら怒るだろうな。


「ふふ、素直なのは良い事だな、どう見ても貴族令嬢なんだが。さて、説教をする為にここに呼んだわけじゃない。お前さん、あの『デコトラ』をどこで手に入れた?」

「!?  そう言えば、どうして『デコトラ』を知っているの!?」

「普通は、あんな代物は世界に2つと無いと思うわな。だがそれは表向きの話でな、この世界には何体もの『デコトラ』がいるし、いたんだ」

あのバカ、本当に何両もデコトラを送り込んでいたのか、何考えてるんだ。文化も技術レベルも全く違うこの世界にあんな異物を放り込んだらどうなるかわからんだろうに。

「お前さんの『デコトラ』、意思があるんだろう?話をさせてもらえんか?」

「ええー」

俺様に意思がある事まで知ってるぞ、デコトラについてどこまで知っているんだ?

いや前世でのデコトラの事じゃなく、この世界に転生させられた『デコトラ』についてなんだろうけど。


俺様は驚かされっぱなしというのも少々シャクなので、あえてデコトライガーの状態で実体化した。

とはいえ、相手はそれを見てもちょっと眉を動かす程度なんだけどな、ちっ。

「呼んだか? 俺様がリアのデコトラ、ジャバウォックだけど」

「おお、やはり意思を持っていたのだな、すまんが色々と話を聞かせて欲しい。というのも我々は『デコトラ』を知らねばならんのだ」



「……なるほど、異世界から転生してきた、と。にわかには信じられんが、明らかに外観の様式や技術体系が我々の世界と異なるのはそういう事なのか」

「俺様はそれ以上の詳しい事情は何も知らないんだよ、前世で死んだら突然『デコトラ神』なんてものに言われてこっちの世界に転生させられて来ただけだからな」

「その前世、というのは我々の上位世界とかそういうのでは無いんだな?」

「上位世界っていうと、神々が住む世界とかか? いやー、無いだろ、あっちでも神だなんだと崇めたりそれで戦争起こったり。こっちの世界とそう変わらんと思うぞ? 魔力も魔法も無かったから」

「魔力が無いと、人はそのようなものを作り出すのだな、興味深くはあるが」

俺様が異世界から転生してきたというのは一応はゲオルグに受け入れられたらしい。そういえば細かい事情を話していなかったレイハも同様に興味深そうに聞いていた。


「けどこの獣形態もだな、さっきも言ったDPを消費して自分で作り出したものであってだ、俺様は本当に元々はただ物を運ぶだけの輸送手段でしかなかったんだよ、あのデコトラの姿で」

「その輸送手段を作り出すだけでももの凄い技術に思えるがな。ドワーフ達ですらまだそこまでの技術に達していないはずだ」

「時間の問題な気もするけどなぁ。この世界には魔法が存在するし、それだけでもとんでもない優位だぞ? さっきの昇降機とかもあるし、いずれそういうのを作り出すだろ」

「いや、我々の技術は我々が作り出したとは言い切れないんだよ、あの昇降機も遺跡から出た技術の応用でな、我々はとりあえず模倣する事でしか物を作り出せていない」

「昇降機があるなんて、かなり技術が進んでたんだな、その古代文明か何かの遺跡って」

「うむ、正直に言うとこの世界には少々早すぎる技術が多いのでな、中々扱いには苦心している、そもそも古代デコトラ文明の技術はまだ大半が不明なん「ちょっと待て、古代、デコトラ、文明!?なんだそれは。俺様の聞き違いか?」

俺様は真面目に話を聞いていたんだが、どう考えてもスルーできない単語が出てきたので思わず言葉を遮ってツッコミを入れてしまった。

普通するよな? ……けどリアもレイハもケイトさんもゲオルグも不思議なものを見る目で俺様を見るだけだった、つらい。


「いやそれで合っている。古代デコトラ文明だが、それがどうかしたか?」

「……いや、聞き慣れた単語にデコトラという単語が混ざると、こうも違和感がもの凄いとは思わなかっただけだ。そもそもどうしてデコトラなんだよ」

「我々の世界は1000年前に一度崩壊している、それは聞いたことがあるか?」

そういえばそんな話を聞いた事があるな、あのバカ王太子がその時代に飛んでいったらしいが。うなずくのを確認するとゲオルグは言葉を続ける。


「ではその崩壊以前の文明がどのようなものか、というのを考えた事は無いか? まぁ無いわな、1000年も前では。

 古代デコトラ文明というのは、古のデコトラ達により成り立っていた文明だと言われる」

言われる、と言われましても、文明の名前どうにかならないかなー。


「その古代デコトラ文明では『デコトラ』と呼ばれる鉄製の魔物達が何体も存在しており、その技術を解析する事で高度な技術の文明が栄えていた、らしい」

なんだろう、創作で良く聞くパターンの話なのに、デコトラが混ざるとどうしてこうもうさん臭くなるんだ。

文明の外観もファンタジーっぽいロマンとは真逆の、デコトラ的なゴージャスなのを好まれてたとしたら俺様もうどうして良いかわかんねーよ。


次回、第35話「悪役令嬢トデコトラ、『ギルドマスター』トノ面談ガマダ続ク」


古代文明=ロマン、デコトラ=ロマンなのに、ロマン+ロマン=意味不明わけわかんない。何故だろう……。

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