第35話「悪役令嬢トデコトラ、『ギルドマスター』トノ面談ガマダ続ク」
「なるほど、古代デコトラ文明、のう。儂の国でも意味不明な遺跡や異物が出る事があるが、それがデコトラ文明じゃったか」
「うーん、授業で古代デコトラ文明なんて聞いた事無かったなぁ。初めて聞くよー、デコトラ文明なんて」
「お嬢様がその古代デコトラ文明というのをご存知無くても仕方が無いでしょう。この世界は大襲来以前の記録があまり残っておりませんから。
しかしなぜその古代デコトラ文明の名が一般に知られていないのでしょうね?」
お前らもうわざと古代デコトラ文明を連呼してないか?
俺様達は冒険者ギルドのギルドマスターと話をしていて、1000年以上前に「古代デコトラ文明」なるものが存在していたと教えてもらったけど、正直もう帰りたい……。
「何者なんだよそのデコトラ達って、少なくとも俺様の前世ではただの飾り立てられたトラックという種類の、自走できる車ってだけだぞ?魔法が使えるわけでもない」
「儂等も先ほどの話でようやく色々とつながったくらいだからな。その時代には何体ものデコトラ達が国ごとの守護神みたいな位置づけになり、何度も戦争の決戦兵器となっていたそうだ」
「ふむ、ジャバウォックの強化されていく姿を見ていると、いずれは国を相手にできるくらいの戦力となっても不思議は無いがのぉ」
「ちょっとレイハさん!? 俺様別にそういう事はしたくないんだけど……」
兵器扱いなんてデコトラの美意識もロマンも何も無いなぁ、何してんの古代に送り込まれた同胞達……。
「とはいえ望むと望まざるとに関係なく、このままではいずれそういう事に巻き込まれる危険性はあるぞ。
ついこの間、テネブラエ神聖王国の王宮で大暴れした正体不明の巨大な金属製の箱、というのはお前だろう?」
「……はい」
やらかしてるのは俺様も人の事言えなかったー! ギルドマスターの情報網か何か知らんが、遠く離れた土地であろうが思い切りバレてた。一国のど真ん中の城であんだけの騒ぎが起こったらそうもなるわな……。
「まぁ、やらかしてしまった事は仕方無いとしてもだ、いずれ各国はお前の力を我が物にしようと取り込みにかかるぞ。
そうなったらデコトラを巡って争いが起こりかねない。古代ではその果てに世界デコトラ大戦なんてものまで勃発したからな」
本当に何やらかしてんの古代に送り込まれた同胞達―――!?
「しかし、一通り話を聞かせてもらってもわからんのがデコトラ神という存在の意図だな。
神というからには我々人が思し召しを推し量るべきではないんだろうがな、またそんな戦争が起こっても困る」
デコトラに対して情報を欲しがったりする理由がわかったぜ、それでなくても俺様を狙って軍隊が来そうだもんなぁ。
「良い機会なので教えてくれぬか? 噂で聞く『デコトラ聖女』というのも、同様に異世界からやって来たデコトラを使役しているという事なのか? その者は今現在どこに所属しているというのじゃ?」
「『デコトラ聖女』に関しては光翼教の管轄だな、既に聖女認定もされていると聞くが、これは国々に彼女を取り込ませまいと牽制しているからだろう。彼女は我々の招聘にも応じないので事情は一切聞けなかった」
レイハの質問にもゲオルグは答えてくれたけど、実在したのかよ、デコトラ聖女……。
光翼教ってのは過去に降臨した救世主たる天使を崇めているという、この世界で最も信者数が多い宗教なんだそうだ。しかも各国の国政にも強く影響していて無視できない存在なんだとか。
俺様達は冒険者ギルドの所属になったという事なんだろうけど、ギルド側はどういう思惑があるんだろうな?
「ギルドマスター、あんたは結局、俺様達をどうしたいんだ? 俺様達が世界にとって危険な存在というのは理解したけどさ。俺達、邪魔か?」
「いや、よくぞ真っ先に冒険者ギルドに来てくれた、と言わざるを得ない。他の国や、場合によってはこのダルガニア帝国にでも召し抱えられたらややこしい事になる所だった。」
いわく、冒険者ギルドは大陸・他大陸全土にネットワークを張り巡らせており、国といえどもうかつに口出しはしにくい存在なのだそうだ。そこの冒険者として登録されてしまえば、どの国にも属さない中立になる事もできるんだとか。
「はぁ……、リアの思いつきで冒険者になろう、っていうのがまさか一応の正解だったとは思わなかった」
「で、リーリア嬢は貴族なのか? 冒険者なぞになろうというからには何か事情があるのだろうが、テネブラエでの騒動と照らし合わせると、失踪したというドラウジネス公爵家のご令嬢という事にしかならんが」
情報に詳しいだけあって分析能力も高いなこのおっさん、さすがギルドマスターだぜ。
「……テネブラエとの関係にも今後気を配らんといかんな。当面は偽名のリーリアで通した方が無難だろう、ましてデコトラなんて目立つものを従えているのだからな」
俺様達の沈黙が答えだったのか、もはや偽名というのも見抜かれる以前の話だな。ギルドにしたらリスクを背負ってくれているようなものなんだろうから感謝するべきなんだろうけど。
「あの、私は国元ではどういう扱いになっているのですか?」
「リーリア嬢……。面倒だな、儂もリア嬢と呼ばせてもらうぞ。婚約破棄をされたショックで消息不明といった所だな。
まずあの国の王太子が行方不明になっているので詳細がはっきりと掴めていない。調べていくとその日の夜会に『デコトラ』が出現していたので各国の注目が集まったんだ」
王太子が行方不明というのには俺様達には心当たりがありすぎる、というか心当たりしか無かった。
俺様達の様子がおかしくなったのはお見通しだろうが、それについてゲオルグはため息まじりにスルーしてくれた。何しろ今の俺様達は「リーリア様ご一行だもんな」
「私、これからどうしたら良いんですか?」
「逆にこちらが聞きたいくらいだ。リア嬢は今後どうするつもりなんだ?」
まぁそうなるわな。冒険者になるっていうのはあくまでお金を稼ぐための手段であって、リアがどうするかとは別問題だもんな。一度リアの本心を聞いておきたいのは俺様も同様だった。
「どうする、と言われても、とりあえずお金を稼いで、ケイトへのお賃金くらいなら払えるようになって、あとは家でも買ってそこで暮らそうかなぁ、って」
「い、意外とお主、堅実じゃの……、まぁろくでもない目に遭ったらそうもなるか」
答えを聞いてレイハが少々面食らっていた。リアはどういう目で見られていたんだ、俺様もちょっと驚いたけどさ。
「例えば、冒険者としての功績で爵位を得て、また貴族となる事もできなくはないが、それは時間がかかるだろうな。どこかの貴族の養子にでも入る方が早い」
「えー、貴族なんてもう嫌だなぁ」
「そうなってくれる方が儂等としては助かるがな、貴族になるという事はその国と深いつながりができるという事だから、さっきの話と相反する」
ゲオルグはそれなりに親身に相談には乗ってくれるが、立場からかあくまでギルドを軸にして考えている。
この子はどうしたら良いんだろうな。貴族から平民として暮らすのは簡単な事じゃないし、かといって簡単には貴族にも戻れないっていうなら、俺様の存在はむしろ邪魔じゃないか?
「おい、おかしな事を考えるなよ。お前さんがいなくなったら、この子の人生はそれこそ詰むぞ。お前さんがいるからまだ様々な可能性があるんだ。
まだ15というなら、数年は嫁ぐだのどうのまで時間がある。そういうのはその時まで先延ばしにしても良かろう。」
俺様の表情でも読み切ったかのような事を言ってくるな。もしかしたら牽制かもしれないけどさ。やっぱ怖いわこのおっさん。
「さて、色々と話を聞かせてもらってすまなかったな。そちらからも何か質問は無いのか?」
「んじゃ俺様から、何だって冒険者ギルドは『デコトラ』についての情報に詳しいんだ?」
「主に迷宮に関わる事が多いからだな。この国は国策として迷宮探索を推し進め、デコトラ文明から得た知識で技術を発展させている。冒険者ギルドはそれに密接に関わっているんだ」
「あー、そういう事か。それじゃその技術はこのダルガニア帝国が独占しているって事か?」
「独占というと人聞きが悪いな、この国は人も資金も費やしているんだ、美味しい所だけ持っていかれるのはだれだって嫌だろう。とはいえ他国に技術を売って商売にしたりはしてるぞ」
「あの、私の国ではああいう昇降機のような装置は見た事無いんですけど、お城とかでも」
俺様とゲオルグの答えにうなずいていると、リアが割って入って来た。そういや王城くらいならああいう設備があってもおかしくないわな。
「いや、他国にも技術を売ったりはしてるが、そう簡単でもない。テネブラエはいわば狭間の国でな、はっきり言うと利用価値があまり無い国なんだ。だから売り込んでもいないはずだ」
「「え?」」
ゲオルグの言葉にリアと俺様は思わず変な声を出してしまった。レイハとケイトさんは特に反応は無しって、もしかして知ってた?
「テネブラエは東にこのダルガニア帝国、西に魔法大国のグランロッシュ王国に挟まれていて、流通の要としては極めて重要で、それで発展してきた。
とはいえそれ以外の強みは無いといって良い。例えば昇降機だが、グランロッシュ王国では魔法で似た設備を作れてしまうが、テネブラエは魔力を持つ人材に力を入れているわけでもない」
ゲオルグの言葉にリアも心当たりがあったようだ。そういえばリアって魔法の授業とか受けていなかったな。
「あの国は様々な偶然で護られているようなものなんだよ。例えば魔物だが、グランロッシュ王国には『神王獣』と呼ばれるこの世で4柱しか存在しない原初の魔物の一柱が生息しており、
それを嫌って強力な魔物が寄り付かないんだよ、だからテネブラエ・グランロッシュでは冒険者の数も少ないし、冒険者ギルドも力が弱い」
『神王獣』ってのはその名の通り、神代の時代から精霊力の
「あの国は、自分達は流通の要に位置しているから重要視されていると思っているが、ダルガニアにとっては単なる通路程度にしか思われてない。
周辺に強力な魔物も生息していないので自然と軍備に力を入れなくなっており、国全体が世の中を舐め腐ってる状態だな」
「ええー」
リアは一応の祖国をボロカスに言われて微妙な顔をしている。色々危ういってのは本当だったのか。そういやあの国の兵士って妙に弱かったなぁ。
「このダルガニア帝国は『デコトラ』で得られる技術で軍備を固め、グランロッシュ王国は魔力を持つ者が貴族階級を形成して国自体が強力な魔法使いと言って良いが、テネブラエはそういう所が全くない。たまたま平和だったせいで長い伝統くらいしか誇れるものが無いと言っていいな」
他国からの評価も本当に散々だなあの国は。王妃様が「もうこの国は長くない」と言うだけあるぜ……。
「さて、テネブラエには色々思う所があるだろうが、今からは冒険者として色々と動いてもらわないといかん、指示には従ってもらうぞ」
「ちょっと待て、俺様達は自分で依頼とかを選べないという事か?」
「好意で言っているんだ。はっきり言ってデコトラを従えているというだけの貴族崩れのお嬢様だぞ。
確実に野営もできない戦闘もできないし探索も無理。そんな状態でまともな訓練も無しに依頼をこなせるわけ無いだろう。こちらの指定する依頼で徐々に冒険者として育ってもらわんとお互い困るんだ」
返す言葉もございません。物凄く真面目に心配してくれておりました。
ここに来るのだってデコトラの中に貴族部屋作って、お屋敷にいるのと同じノリで旅続けてたからな。
「その辺はウチも色々教えちゃるから心配するな。とりあえずは自分の身を守れるくらいにはなってもらわんとの」
「ひとまずは、この依頼をこなすんだな。金を貯めない事にはどうする事もできんだろう。実績を積めばこの街への入街料も免除される、しっかり働け」
眼の前に一枚の紙が置かれた。レイハはああ言ってるし、ギルドマスターからの指定なら断れないんだろうなぁ。
次回、第36話「悪役令嬢、冒険者トシテ活動開始ス」
「1000年前の大襲来」「神王獣」に関しては、前作『乙女ゲームの悪役令嬢に異世界転生って……、私、ただのギャルなんですけど!~』での要素です、
今のところ関係は薄いので、そんなものがあるんだな~程度に思って下さい。
尚、本作は前作の約20年前の世界です。レイハは前作にも登場しておりますので、興味あればお読み下さい、グランロッシュ王国でのお話です。
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