第36話「悪役令嬢、冒険者トシテ活動開始ス」


「冒険者って楽じゃないのねー」

「働いてるのは俺様だけどなー。」


冒険者として登録したリアは、さっそくギルドマスターから与えられた薬草採集の依頼をこなしている所だ。

とはいえ貴族のお嬢様が何時間もしゃがんで草を探し回るなんて労働ができるわけもない。

今の俺様はごつい車椅子形態に変形し、両サイドから長い機械の腕を出して薬草を採取している。採った薬草は背中側のカゴにどんどん収納していくぜ。

なおリアは一応仕事してもらわないといけないので、車椅子に座って本を読んでいる。日傘もサービスにつけてるし、アームレストの横にはドリンクも完備だ。

横ではケイトさんがでっかい団扇でリアを扇いでいる、どこの王侯貴族だ。あ、貴族だったっけ。

誰がどう見ても働いているようには見えないが、まず労働の経験が無い子にいきなり重労働させたって嫌がらせ以上の意味は何一つ無いのだ。


端から見たら労働をなめとんか、と怒られそうだが、これでもケイトさんやレイハとさんざん協議して決めた働き方なのだ。働き方改革ばんざい。

Z世代の若者たちに仕事をさせる、いや、していただく為には、相手と同じ目線である必要があるのだ。へりくだるわけではなく、あくまで同じ目線な、ここ重要。


「いやいくら何でも仕事をナメすぎじゃろこの状態。ウチが代わって欲しいくらいじゃ。つーか代われ」

一応のお目付け役としてレイハも同行してくれていた。彼女もまた冒険者になりたての頃はこういう細かい事をちまちまとこなしていたそうだ。

とはいえこの仕事もバカにできないんだぜ? 薬草といっても野草だから大きさもふぞろいだし、扱いがまずかったら使い物にならなくなったりする。

そういう採取物を丁寧に扱うという事で、こういう仕事はとても大事なのだ。


「だからそういう事をまずリアにさせろ、と言うとるのじゃ。お主が冒険者としての腕を上げてどうする」

「まぁ俺様はリアのしもべだし? 回りまわって主の修業に、ならない?」

「そんなわけあるかい、まったくどやつもこやつもリアは甘やかしおって。ほれリア降りて手伝え」

「ええー、この本読み終わるまでダメー?」

「お主なぁ、冒険者を何と思うとるんじゃ」

「いや、そうは言ってもさぁ、一旦俺様の中に収納されると素材に分解されるんだよ?出す時には長さも鮮度もそろった状態でお出しできます、ほらこんな感じに」

冒険者になりたての頃は小動物や草花を採取した後、素材として活用できるように毛皮や内臓の処理等、細かい作業の習熟がとても重要になるんだそうだ。まぁ俺様の場合、収納してしまえば一発で素材に解体できるんだが。

俺様はついでにレイハが採取してきた二羽の角兎を車椅子内に収納して、眼の前で素材に解体して取り出してみせた。それを見たレイハはがっくりと肩を落としたものだ。


「つくづくやる気が失せるの、その万能さは。ウチがどんだけ苦労して獣の捌き方を覚えたと思っとるんじゃ」

そういやレイハも元々は育ちが良さそうなんだよなぁ。ヒノモト国での事を聞いてみたくはあるが、冒険者はお互いの事情を詮索しないってのが暗黙の了解らしい。

この街に来るまではリアは冒険者ではなかったのでそういう事を話す事もあったが、

冒険者となって以降、レイハは明らかに態度を変えてきた。リアが冒険者として生きていくならという事であれこれと教えようとしてくれるんだが、俺様がそれをことごとく台無しにしてる気がするなぁ。


「けどレイハもこういう細々とした採取とかするんだな?B級冒険者なんだから魔獣討伐とかの依頼とか行かなくて良いのか?」

「魔獣討伐の依頼と簡単に言うとるが、例えば街に被害を及ぼすような巨大な魔獣の討伐なんてものは滅多に発生せんし、むしろ角兎アルミラージ等の生活用品に使われるような小魔獣の採取の方が多いからの」

聞けばそういう強力な魔物の討伐はA級冒険者とか、更にはその上のランクであるS級冒険者なんてものが担当するらしい。レイハでもかなり強そうだったのにまだその上がいるんだよな。

「あのギルドマスターとかがS級なのか?」

「いや、A級じゃ。年齢ギリギリまで粘ったが寄る年波には勝てず引退してギルドマスターになったとか」

あれでもまだA級かよ……、あのおっさんデコトラ状態の俺様を投げ飛ばしたし、上位冒険者はモンスターを投げ飛ばすのがデフォルトなんじゃなかろうな……。



「はい、では薬草で、毒消しに使えるドトチアの葉と、傷薬に使うメデブハの葉をどっちも100束ね、ご苦労さまです。リーリアさん綺麗に採ってきてくれるんですねー、まるでどこかで栽培したみたいに長さも品質も揃っているわー」

冒険者ギルド受付のシンシアさんが上機嫌で採取物を受け取ってくれている。

どっちの薬草も栽培がなかなか難しく、まとまった数を揃えるにはこういう採取に頼るしか無いそうなんだが、俺様に収納されると素材化されてしまうからねー。

「ほれ、ウチも角兎を20羽な」

「レイハさんもさすがですねえ。毛皮が全く傷ついておりませんし。骨や肉、内臓に至るまで完璧ですわー」

「……そうじゃなー」

なおその角兎も俺様が一旦収納して素材として出した奴だからな。よく見たらどれも全く同じ大きさだというのに気づくだろう。

レイハは複雑な顔をしていた、そもそも最初は獣の捌き方とかまでリアに教え込むつもりだったらしい。


「何か釈然とせんのぉ。ウチはリアを徹底的に鍛えたいんじゃが……」

「えー、でも毎日お外で働くのって結構大変だよ?」

苦労知らずのお嬢様はこれだから……。俺様とレイハは肩を落としたが、レイハはリアのネックレスになってる俺様にデコピンしてきた。何故だ。

何だかんだと数日はそんな感じで依頼をこなしては日銭を稼いでいた。DPもそこそこではあるが溜まっていっている。

このままもう少し上の依頼をこなせたらなーとか思っていたら、ギルドマスターのゲオルグのお呼び出しだ。


「思ったより仕事の手際が良いな? もしかしたらデコトラの能力を使ったのかも知れんが、上手く使いこなす分には何も言わん。こちらにも上質な素材が来るからな」

見抜かれてるなー、まぁあれから数日だ、そういった技術がそうそう身に付くはずもなし、むしろ俺様を使いこなす方向で今は冒険者としてのスキルを磨いている所だ。

「ねぇ、素材収集や弱い魔物ばかりは飽きてきたわ、他に何か無いの?」

リアさんは基本座ってただけでしょうに……。ギルドマスターの部屋で同席してるレイハも少々あきれてるな。なんとあきれているのは目の前のギルドマスターもだ、管理者ってのは苦労するなぁ。

「お前さんの為を思って段階的に進めてもらっとるんだがなぁ、まぁ実力というか持ってる力に見合わん仕事だというのは理解しておる。とはいえそろそろ次の段階に行っても良いだろう。次はこれだ」



「……で、いきなり迷宮かよ、大丈夫かな」

「心配せんでも良いジャバウォック。この迷宮はこの辺りでは簡単な方じゃし、D級冒険者でも普通に踏破できる。リアの練習には丁度良い……、とはいえ何とかならんのかその格好」

リアはギルドマスターから命じられた迷宮探索なのに、「どうせデコトラアーマー着るから」と、普通にドレスを着ていたのだ。

いや俺様もそう思うんだけどね? お貴族様が平民の服を着るのって物凄く抵抗あるんだってさ。

「足が丸見えなんだもの、あんなの着たこと無いわ」

露出の問題らしい、貴族女性のドレスは肩や胸周りが思い切り見えてるのもあるというのに、脚は駄目ってのはつくづく不思議な価値観だぜ。

「……いやもうお主はそれで良いわ。さっさと行くぞ」

本日はケイトさんがいない。さすがにこういう危険な探索にまではメイドである彼女を連れてくるわけにはいかなかったのだ。

そんなわけで俺様達は迷宮の前までデコトラで乗り付けた。

「どうも迷宮まで自分の足で歩かんと、これから探索するぞー的な心構えができんのう……。まぁ良い、これが今日潜る自己再生・自己生成型迷宮『主無キ創滅ノ墓所』じゃ。

「ねぇレイハ、自己再生とか、自己生成型って何なの?」

「まぁまずは自分の目で見て覚えよ」

大丈夫かな……。


次回、第36話「悪役令嬢、迷宮探索ス」

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