第37話「悪役令嬢、迷宮探索ス」


俺様達が訪れた迷宮『主無キ創滅ノ墓所』の入口は石造りの門のようだった。周辺には特に人もいないので本当に訓練用の迷宮らしい。

「ウチが聞いた話では、この迷宮は1000年以上前に王墓として建造されたようだがの、途中で放棄されたものらしい」

「未完成って事か?」

「いや、どうも思ったような仕様にならなかったのか、結局使われずじまいなようじゃな。発見された時は盗掘された跡も無いのに空っぽだったとか」

それで初心者の訓練用に使われてるって事か。迷宮の前には誰かが見張っているという事も無い事から、本当にこの中には特に何も無いらしい。

「さてリア、迷宮の中に入るんだからドレスのままじゃまずい、デコトラアーマーに着替えるんだ」

「はぁい」


さ中はどんな感じか、と入ってみると意外に明るい。さっきの話だとデコトラ文明時代の遺跡だそうだけど、石造りの壁や床は建造当時のまま綺麗なもんだ。

壁に彫り込まれた紋様やレリーフなんかもまるで新品だぜ。よくこんな良い保存状態で残ってたものだ。

そして最大の特徴は青白い光を放つランプのような照明器具だろう。一見普通の油ランプのように見えるが自然の炎とは思えない光を放っていて、それがずーっと奥まで続いている。


「迷宮の中って暗いと思っていたのにそれなりに明るいのね? この灯りってどうなっているの?」

「わからぬ、何しろこれも古代の技術じゃからな。このランプが魔力で光っているのか、それとも何らかの油か何かを燃やしているのか、それすらもわからぬのじゃ。

 このランプのようなものを取り外して自宅で使おうとした奴もおるが、どうにも使えず、また戻せば元通りに灯りがつくそうじゃ。そもそも破壊しても修復されるからの」

「修復って、そういえば自己修復って?」

「つまりの、こういう事じゃ」

レイハがいきなり質量のある斬撃を飛ばしてその辺の壁を破壊した。簡単にやってるけどこれって以前見た魔力を物質化する技か?

彼女にしては珍しい乱暴な行為なので驚き、良いのかなーとか思っていると、突然破壊された壁が生き物のようにうごめき、破壊された部品は床に溶け込むように消えていく。

後には元通りの壁とランプが並んでいる。全くの無傷と言ってよかった。自己再生ってそういう事か、迷宮の中がやけに小綺麗なのもそれが影響してるんだろうか?

「よって、目印として壁に落書きをしてもいつの間にか消えていたりして目印にならぬ。ならばと壁を破壊してもすぐに修復が始まり、下手をすると壁に閉じ込められてしまうぞ」

「おっかねぇー。そんな死に方嫌だなぁ」


とはいえわざわざ壁をぶっ壊しでもしなければそんな心配も無いわけで、俺様達は迷宮の奥を目指す。

「この迷宮への挑戦はリアの訓練の為じゃからの。ウチは基本助言のみじゃぞ」

「と言っても、私は何をすれば良いの?」

「まずは迷宮探索の訓練じゃな、とにかくありとあらゆる事を覚えねばならぬ。まずは、あれじゃの」

レイハが指差す先から、壁や床から地響きのような音が聞こえてくる。

「あっちじゃな。ちょっと行ってみよう、いい機会じゃから見ておけ」

音のする所に小走りで行ってみると、なんと壁が動いていた。というか壁の中から新たな壁が生えて、眼の前の通路を塞ごうとしているのだ。

ズンッ、という音と共に通路の閉鎖が終わると、今度はすぐとなりの壁が崩れ落ち、新たな通路がそこに見えていた。これまで一直線だった通路が曲がり角になったって事か。


「これが自己生成型と言われるゆえんじゃな。絶えず迷宮内が変動し続けておるのでマッピングも役に立たぬ。目に見える道よりも迷宮内での今現在の立ち位置を意識する事が重要となる」

「おいレイハ、これで初心者向け?大丈夫なのか?」

「問題ない。この迷宮には魔物がほとんど出現せんからの、フロア数も3と少ないし、むしろ迷宮をどう通るかの練習になる。だからこそ初心者向けなのじゃ」

一応の安全は守られた上で、迷宮内をどう移動するかの練習になるわけか。とはいえこんな所にずっといたくはないなぁ。


「ほれ、眼の前の石畳のそこだ、何かあるぞ。どれかわかるか?」

とかレイハに言われても、俺様の目にも同じ形で同じ大きさの石畳がずらっとならんでいるようにしか見えない。

「うーん……?」

「わからん」

これも訓練なんだろうけど俺様もリアもマジでわからん。

【ご案内します。左前方、足元から6枚目のタイルに他との差異が見られます。何らかの機構が床下に存在する可能性、98%】

【ガイドさん】がそう言うと、俺様の視界に重なるようにして▢マークが出現し、怪しいというタイルが示された。それはデコトラアーマーのリアにも見えているらしい。


「レイハー、これ?」

「……何故判る」

「えー?【ガイドさん】が教えてくれるんだけど」

【ご案内します。それでは皆様にも判るように表示させていただきます】

ガイドさんの声が響くと、デコトラアーマーの電飾から光が放たれ、迷宮各所に立体映像のような文字や絵が浮かび上がった。

⇐『注意:罠のスイッチ有り』 ⇒『警告:2分15秒後に壁が出現』 ⇖『第2フロアへ通ずる階段の方向』等など……。

「納得いかぬ……、ズルじゃろそれ、こんなのが表示されたら練習にならんぞ」

ズルと言われても、冒険者はそういう分析能力を鍛錬で手に入れるんだろうけど、俺様といっしょだとあっさりわかっちゃうんだよな。

「えー? わかっちゃうなら練習しなくても良くない? じゃばばの力があれば立派な冒険者になれるでしょ」

「いやリア!? そういう事ではなくてだな、これはお前の冒険者としてのだな」

うーむ、リアの中の冒険者の概念がだんだんとおかしくなってきた。とはいえ俺様も元はデコトラだから便利ならそれで良いんではと思ってしまうのだが。


「でもレイハ、この罠って、触ったらどうなるの?」

「うんまぁそれは知っておくべきだな、致死性の罠は少ない。例えばそこのを動かしてみると」

レイハが小刀を抜き、軽く剣を振って剣撃を放った。石のタイルにそれががぶつかると、そのタイルを中心として1m四方の床が1m程陥没した。

「これは落とし穴ではないが、突然このように床が抜けると穴の角や壁でケガをする事もある。半ば嫌がらせの罠じゃな」

フロア最初の方だからか、いきなり死に追いやるような罠ではないって事か。半ば嫌がらって言うけど、もう半分は悪意だな。


しかし【ガイドさん】の表示してくれているものを見ると、そういったものが1mおきに存在しているようなものだ。中には壁や天井に仕込まれているものもある。

「これを全部避けていく事になるのか、かなり面倒だな」

「罠に引っかかってしまえばケガをする事もある、その時は探索を諦めて引き返す事も判断せねばならぬし、本来は一瞬たりとも気が抜けぬのじゃが、なぁ。」

「だよなー」

何しろ最初から罠の位置がわかってしまえば何の意味も無い。【ガイドさん】は壁の向こうの通路も立体映像のようにワイヤーフレーム表示してくれるので、この先がどうなっているかも筒抜けなのだ。

「ねぇ、もう迷宮の中を歩くだけになってるんだけどー」

「仕方無いじゃろ。そもそもこんなチート使われたら初心者向けの迷宮どころか、単なる歩くだけの通路になってしまうわ」

リアは既に飽きてきたようだ。最初は少々興味深そうな顔はしていたのだが、結局代わりばえのしない石壁やらが続くだけだもんな。

「ねぇ、この迷宮って、破壊しても直っちゃうんだよね?」

「そうじゃが、それがどうした?」



「あはははははははははは!」

「リアー! お主はどう考えても迷宮探索の仕方を根本的にまちごうておるぞ!!!」

俺様達はリアの運転するデコトラ(小)で迷宮内を爆走していた。眼の前の壁はデコトラドリルでぶち抜いて行き、一直線に上のフロアへ通ずる階段に向けて走っている。レイハの言う通り、迷宮探索というより土木工事だよなぁこれ。


「お、見えた、あれが上のフロアへの階段だね!」

リアは眼の前に見えた階段に迷う事無くデコトラを突っ込ませた。強引にタイヤで階段を登り、踊り場のようになっている所もドリルで車体をねじ込ませ、強引に登っていっていた。

「せめて階段くらいは普通に歩いて登らんかー!」

が、強引過ぎたのか車体が引っかかり、俺様の車体は身動きが取れなくなってしまった。

「言わん事無い……、ほれ、降りろ」

【ご案内します。現状の打破の為に『装備:無限軌道クローラー』を取得いたしました。問題なく階段を走れます】

ガイドさん!? どうしてそういう事するかなぁ!?

俺様の車輪がゴム製のそれから、鉄製の戦車のようになって一気に踏破力が上がる。フロントに付いてるドリルといい、どう見てもこれサ◯ダー◯ードのドリル戦車にしか見えんぞ……。無限軌道はけたたましい音を立てながら階段に食いつき、苦も無く車体を押し上げ始めた。

「さぁ! 次! 行ってみようか!」【行け行けー】

「お主らなー! だから迷宮探索のセオリーをだなー!」



階段先の第二階層も似たような石壁が続く通路だった。この調子だとまた同じように走っていく事になるのか?

だがリアは上フロアに続く階段に向けて壁をぶち抜いて行くかと思ったら、今度は大きく弧を描くように走り始めた。

「おいリア、こう言うてはなんじゃが、階段はあっちじゃぞ?」

「よくよく考えたらわざわざ階段を通る必要もないかなぁ、って!」

リアはデコトラを渦巻きのように迷宮のフロア中心に向けて進ませていた。渦巻きの円が小さくなっていくとデコトラをは遠心力の為か徐々に徐々に車体が天に向けて傾き出す。

時に壁を走り、壁を駆け上がり、少しずつ少しずつその角度は天井に向けて持ち上がっていく。

「おい……リア、ちょっと待て、待てというに!」

「さぁ最上階だよー!」

ついにデコトラは渦巻きから竜巻きとなり、天井にドリルを突き立て、強引ともいえる体勢で天井に穴を開けながら登り始めた。

「意味のわからん事するなー!」


ついにドリルは天井を貫通し、そのまま上のフロアの床を突き破る形で第三フロアへと到達した。意外と薄いんだな天井って。

「あれ? 何も無いよ?」

「人の話を聞けー! ここはボス部屋じゃぞ!」


次回、第38話「悪役令嬢トデコトラ、迷宮ノボスト対戦ス」

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