第38話「悪役令嬢トデコトラ、ボスト対戦ス」


デコトラドリルで迷宮の天井をぶち破り、最上層に上がった俺様達が見たのは、だだっ広く何も無いフロアだった。

とはいえ、100m四方はあろうかという広いフロアの上、遠くの方は灯りが届いていないのか暗くて何も見えない。

「ボス部屋って、ここが?何も無いよ?」

「本来はあのドアから入ってくるらしいな」

背後はと言うと、扉があった。が、俺様達の視線を感じたのかどうか突如音を立てて閉じてしまった。

「あれ、もしかして出られなくなった?」


「いかん、そろそろボスが来るぞ、準備しろ」

レイハは少々緊張感のある声で俺たちに下車を促してきた。けどここ初級冒険者向きの迷宮なんだろ?ボスといっても楽勝なんじゃないの?

「空気感がおかしい。このような圧迫感を感じるような迷宮ではないはずじゃ。明らかに何らかの異常が起きておる」

レイハによると、本来この迷宮のボスは高さ2mほどの石製ブロックで、体当たりをする程度の攻撃しかしてこないはずとの事だ。


デコトラに乗っていて一網打尽というのも嫌なので、俺様達はデコトラを解除してデコトラアーマーの状態になった。

レイハも珍しく腰の小刀を抜刀して最初から戦闘準備に入っている。

「ねぇ、雰囲気がおかしい、ってどういう事?私には何も感じないけど」

「だからお主はまだ初心者だと言うとるんじゃ。この場の雰囲気が明らかにおかしい事を感じ取れぬようではこの先危ういぞ」

「とは言っても、デコトラの俺様にはもっと何も感じないんだけど」

【ご案内します。この場の魔力密度が下の階層に比べて明らかに高い上、上昇し続けております】

魔力の乱れを空気感で感じ取っていたって事か?とはいえ魔力が多少高い程度でそんな警戒すべきかね?とか思ってたら、フロア中心部の石畳の一部が持ち上がった。

それは石のタイルというよりは一辺が2m程の直方体のブロックだった。ぐるんと回転すると底面がこちらを向き、そこには真っ赤に光る丸い目のような丸い文様があった。これがボスって奴か?

同時に、壁の青い光の灯りが真っ赤に変わり、パトランプのように回転しながら明滅し始めた。


【警告いたします。『デコトラ因子』を感知いたしました。注意すべき個体です】

「え、何?デコトラ因子?」

突然【ガイドさん】が妙な事を言い出した。何のことか聞こうかと思うと別の声がフロアに響き渡った。

《警告、警告、迷宮破壊者に告グ、本フロアより退去セヨ。警告二従ワヌ場合、迷宮防衛之為、最大級之防衛手段ヲ取ル》

と、感情の籠もらない機械音声のような声が聞こえてきた。


「迷宮破壊者というのは、先程の迷宮を破壊しながらここに到達した事に怒っておるようじゃの。ボスを怒らせた状態からのボス戦か」

「ええー、もしかして私のせい?」

とか何とか言ってる場合じゃ無いんだろうな。何しろ床の穴は既に塞がっており、退路となる扉は既に閉まっている。

ゲームならあの赤い目のあるブロックを破壊すれば良いんだろうけど、怒っているという事は普段より動きが速いのか?

その程度なら、という考えは甘かった。そのコアブロックは周辺から生成されるブロックをどんどん自分に取り付かせ、何かの形を取り始めた。

ん?何か見覚えあるような……。

「石の、デコトラ?」


ボスが周辺から生成されるブロックから作り上げたのは、どう見ても石製のデコトラだった。なんで?

「おそらく、奴らにとっての最大級の強さを表す形態があれだと言う事じゃろう。最も攻撃的という事かも知れんが」

人間が強いモンスターをイメージしようとするとドラゴンになったり、日本人ならライオン、アメリカ人はゴリラだっけ?になるようなもんか。

つまりガチの本気になったという事で、ちょっとそれヤバくない?逃げるべきだよね?


「くく、ウチも迷惑したと思うておったが、このような強敵に出会えるとはのぅ。往くぞ、リア。」

ちょっとレイハさん!?逃げるどころか喜々としてません!?そういや戦闘愛好家の側面あったっけ?

「良いよー!私の初陣だね!【ガイドさん】!」

【ご案内します。主の剣を殺傷モードに移行、移行は戦闘管制としてサポートさせていただきます】

いや、あのさぁ、あの扉ぶち破って逃げた方が良くない?相手にする事無いと思うんだけど。

「甘いぞジャバウォック。あやつは下での我らの破壊行為を認識しておった。つまりあやつは迷宮全体に等しい存在という事になる。このまま退避したら今度は迷宮そのものが本気で我々を排除してくるぞ」

もう引くこともできないって事かよ!


―迷宮のボスがあらわれた!―


敵のストーンデコトラ(仮称)はフロントランプを点灯させると、一丁前にエンジンを空ぶかしするような音を立て、キャビン後方の煙突マフラーから排気ガスのような煙を吐き出した。

デコトラとは言ってもベースはアメリカントラックか。どこからそんな意匠が流入したんだろ。これもかつての同胞たちがもたらした技術の成れの果てかねぇ。と思っている余裕はあんまり無かった。

ストーンデコトラはこれまた石でできているタイヤをホイールスピンさせ、もの凄い音と共にこちらに突進してきた。床まで削れてるぞこれ。


「リア!逃げろ!」

「大丈夫!」

デコトラアーマーをまとっているリアは、通常の人間以上の反射神経や筋力を持っているので、これを避けるのは問題なかった。

空振りしたストーンデコトラは壁に激突してめりこんでしまった。しかしその姿が壁に溶け込むように消えてしまう。いや、コアらしき赤い文様のブロックは壁に残ったままだ。今度はあそこが弱点?って事か?

だが俺様達がそこに向けて攻撃しようかと思った瞬間、その模様は壁にめりこんだまま、壁や床を滑るようにして移動し、再びフロアの中枢まで移動すると、またそこでデコトラ形態へと盛り上がり始めた。


「少々面倒じゃの、多少のダメージを与えたところで効果は無さそうじゃし、一撃で決めねばまた同じ事の繰り返し……、いや違う!」

なんと、今度は石でできたミサイルを撃ってきた!レイハが斬撃で迎撃するとそれは爆発する事も無く床に落ちるので、本当に打ち出しているだけのようだ。だがあんな速度のものを直撃をくらったらかなりまずい。

ミサイルを打ち尽くしたストーンデコトラは、今度はフロントのグリル部分が開き何かがせりだしてきた……。見覚えあるなあれ、ドリルだ!

今度のドリル攻撃は単に一直線に突進してくるだけではなかった。ドリフトのように無理やり方向を変えてきては何度も何度もこちらに突っ込んでくる。これでは竜巻の中を逃げ回っているようなものだ。


「リア!当たるなよ!当たればただでは済まん!」」

「まだ大丈夫!でもこれどうしたら良いの!」「これでもくらえ!」

試しにデコトラレーザーを何発か命中させてみても外装の一部が焦げる程度で、どう見てもダメージを与えているようには見えなかった。

ならばとデコトラミサイルを、でもそれは変わらない。相手が堅く、巨大過ぎるのだ。おまけに弱点らしき赤いマークは今は見えなくなってしまっている。

「リア!何とかならぬのか!ウチが倒してしまっては依頼失敗とみなされる!もう少し攻撃力のある武装は無いのか!」

「とは言っても、俺様も今のところの武装ってこれだけなんだよ!【ガイドさん】!何か無いのか!」

【ご案内します。中途半端な攻撃では効果は薄いでしょう。対象から敵性デコトラ因子を確認、排除の必要性83%、『対デコトラ用決戦武装:ヴォーパルソード』の使用を許可いたします】


次回、第39話「悪役令嬢、抜剣ス」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る