第39話「悪役令嬢、抜剣ス」
「何だって? 『対デコトラ用決戦武装』? なんだってそんなものがあるんだ?」
「おい、何をする気か知らんがウチが足止めするから早くしてくれ」
俺様が【ガイドさん】と少々揉めていると、レイハがストーンデコトラを挑発して引きつけてくれていた。しかしリアが討伐する必要があるせいか、自分から攻撃する事は無い。あんまり長くはもたないだろう。
【ご案内いたします。説明している余裕はありませんので主の持つ剣を因子変換させます。ヴォーパルソード、顕現率:5%にて起動、抜剣いたします】
【ガイドさん】の言葉と共に、リアの構えている剣が突如細かい破片に割れるように分解し、まるでパズルのように組み替えられて形状が変化していく、それと共に剣は巨大化し形状が追加されていくのだった。
完成した剣は5mあまりと大振りで、普通はとても人の手で扱えるような大きさではなかった。柄は両手持ちになるほど長くなり、鍔部分は半球状になって手を守るような形状になっていた。
大振りで両刃の剣身はともかく、特異なのは真っ二つに割れた剣身を貫くように追加された機構だ。その機構の先端には巨大な杭が突き出ている、なんか工事現場で見た事あるなぁこれ。剣の外観は剣身自体の長さとと、鍔の半球形状も相まってむしろ馬上槍と言って良かった。
【ご案内します。『武装:ヴォーパルソード』は『デコトラコア』を貫く事に機能特化した装備です、叩き斬ってもかまいませんが。基本は剣身の間に装備されたパイルバンカーで至近距離からコアを刺し貫いてください】
見た事あると思ったら道路工事とかで地面を砕くあれに似た武器か。とはいえ剣にそんなもの組み込むのは正直どうなんだろう。これのせいで剣がすんげーでっかくなってるけど。
【ご案内します。問題ありません、この剣は主の腕の一部のようなものですから、少々重くても自分の腕を振り回すように軽々と動かせるはずです】
だがリアは、その掲げている巨大な剣の重さに耐えかねたのか、掲げているままでいられずに、ズン、という音と共に床に降ろしてしまった。
「お……、重い……。」
「あー、【ガイドさん】? 自分の腕を上げるのも疲れるくらいひ弱な場合はどうしたらいいの?」
【……なんとかしてください】
こっちに丸投げしたー!? 何だよおい! 性能は良いかもしれんけど現場での運用を考えてない武器そのものじゃねぇか!
「おーい、まだかー? その武器を早く使ってくれー。いつまでも逃げてばかりは無理なんだがー」
ストーンデコトラの相手をしてくれているレイハがしびれを切らして俺様達に叫んでくる。実際俺様もいつまでも現実逃避をしているわけにもいかなかった。
「おいリア、頑張ってその剣を構えろ!早く!」
「そう言われても、かなり、重いんだけど……。じゃばば、手伝って!」
リアは何とか持ち上げようとしているがやはり重すぎるのか足元がふらふらしている。身長の3倍はあろうかという剣を持ち上げようとしたらそうもなるか。
「俺様がデコトラアーマーを制御しても良いけどリアの動きを邪魔したらヤバくならんか……? あ、そうかこうすれば!」
俺様はデコトラアーマーの背中から一対の巨大な機械の腕を生やした。二人羽織みたいな事をするよりは、リアの腕と俺様の腕を分けてしまえば良いだけの事だ。
「リア! 剣を貸せ!俺様が剣を振り回すから、あっちに走って近づくだけならできるだろ!」
「うん!」
「うおおおおお! レイハ! 来たぜえええ!」
「やあああああああ!!」
「おお、来たか……、ええー」
俺様達の姿を見てレイハはドン引きしていた。まぁリアの姿が突然四本腕になってるからな。
ちなみにリアの本来の腕の方は、俺様の邪魔にならないよう腕組みしているので物凄く偉そうだ。
「まずは斬ってみるか! おりゃああああああ!!」
俺様がヴォーパルソードを振り回すと、ズカッ!という音と共に、ストーンデコトラの一部を切り落とす事ができた。恐ろしいなこれ、全く抵抗が無かった。
「効いてるようだな! おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃ!」
俺様はヴォーパルソードを振り回しまくり、相手を切り刻んでいく。とはいえ順調というわけでもない。
俺様の動きとリアとが完全に連携が取れてるわけじゃないからな。たまに空振りもするし、そもそもリア自身が相手の動きについていくのがやっとだ。
「リア、大丈夫か?」
「……あんまり」
リアの息が上がっていた。やっぱりか、デコトラアーマーを装着してもリア自身の体力が底上げされるわけじゃないからな。
貴族令嬢の体力では普通に飛んだり走ったりするのも長くは続かないだろう。ならば!
俺様はデコトラアーマーの背中からデコトライガーの下半身を出してリアの代わりに走り始めた。
デコトライガーになりたての最初は歩くのもおぼつかなかったが、今ならそれなりに走れるぜ。
「いやいやいやいやいや待て待て待て待て」
レイハ、何も言うな。今の俺様はリアの代わりに獣型の下半身を構成しており、リアはそれに体育座りの状態。邪魔にならないよう腕組みしてるから、ほぼ俺様が四つ足に2本の腕を振り回してる状態だな。
「だから、お主らは気安くバケモンになるなというに! もはや人の形すらしとらんぞそれ」
いやレイハ、そうは言われても、俺様デコトラだし人の形にはあんまこだわり無いのよね。それよりもこの四つ足なら安定して走れる!後ろ足でジャンプして前足でキックなんて事もできるぜ!
「おりゃあ!」
俺様は相手がドリフトでほんの少しバランスを崩した所を狙って思い切り蹴りつける。相当な重量でもバランスが不安定な時は誰だって弱い。
轟音と共にストーンデコトラは横倒しになった。腹の所の赤いコアが無防備に見えている。
【ご案内します。あの赤いコアがDEが結晶化した『疑似デコトラコア』です。それを破壊してください】
「よし! 今ならいけるな!」
俺様は両手でヴォーパルソードを馬上槍のように構えて一気に突進した。
が、相手は俺様が近づくのがわかるのか、明らかに何かのエネルギーを溜め始めていた。赤いコアの模様の光が強くなり始めている。
【警告します。目標内部に高エネルギー反応を確認。何らかの熱光学兵器が使用されるものと思われます】
アニメでしか聞かないような警告もやってきたぜ、言われなくても見りゃわかるけどな。そもそも何だよ高エネルギー反応って、何を見てるの?【高エネルギー反応は高エネルギー反応です】
俺様はサイドステップで思い切り避けた。そこを赤い極太のレーザーが通り過ぎる。危ねっ、予備動作も無しかよこれ。
「おかしいの、ウチが攻撃する時はそんな攻撃は使わんかったぞ。おいジャバウォック! こやつはお主が近づくと過剰に攻撃するようじゃ! 何かこやつと因縁でもあるのか!」
「いやレイハ、いくら似たような見た目だからってこんな奴知らんよ。そういやさっきもデコトラ因子がどうとか……。いやもう良い! さっさと倒すぞ!」
こいつは俺様が近づくと過剰反応するって事は、俺様の存在を何らかの方法で知ってるって事だよな。ならやりようもある!
「リア、次で決めるぞ。今から俺様の言う通りにしろ!」
次回、第40話「悪役令嬢とデコトラ、迷宮ノ最奥ニ到達ス」
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