第40話「悪役令嬢とデコトラ、迷宮ノ最奥ニ到達ス」

さて、ここからはリアとタイミングを合わせる必要がある。ダラダラ戦っても良いことなんて無いからな。

「よし、行くぞリア!」

「うん!」


俺様は先程と同じように、ストーンデコトラの横っ腹を狙って蹴りに行った。とりあえずひっくり返さないと意味が無いからな。

が、向こうは俺様の存在を最初からなんらかの方法で認識しているらしい。なら何らかの反応があるはずだ。

そう思っていたら案の定動きがあった。相手は左右の車輪を逆方向に回転させ、戦車とかがやるような高速回転運動をし始めた。超信地旋回ってやつか? デコトラでやるなよ!


「回転したいならもっと回転させてやるよ! 【ガイドさん】! タイミングを頼む!」

俺様は相手の回転を見ても足を止める事無く、分析をガイドさんに丸投げして、相手の回転に逆らわずさらに回転を加速させるタイミングで蹴りつけた。

当然、自分の実力以上の速度で回転してしまったストーンデコトラは回転の軸がブレてしまい、その回転力自体で己の身体が振り回されて横倒しになる。


「よし! 今だ!」

俺様とリアは再度ヴォーパルソードを構えて突進する。だが相手は先程と同じようにレーザーか何かで迎撃すべくエネルギーを溜め始めたのか、コアが赤く発光している。

それも計画のうちと一気に赤く光る疑似コアめがけて飛びかかった。が、間に合わず相手のレーザーは発射されてしまう。

「おいリア! ジャバウォック!」

レイハの声が響き床に下半身だけとなった俺様が叩きつけられた。だが撃たれたわけじゃねぇぞ!

俺様は再度相手に向かって飛びかかった。だがストーンデコトラの方は明らかに困惑している。そりゃそうだろうな、今の俺様は1人じゃないから。


「リア! 剣を構えろ!」

リアはストーンデコトラの上空で剣を下に向けて構えていた。さっき撃たれた瞬間に上空に向けて射出したのだ。下半身の方の俺様はその反動で床に退避してレーザーを避けたわけだ。

そして、相手が認識しているであろう『デコトラ』の反応は今2つに分かれている。どっちを相手にして良いのか一瞬混乱して動きが止まった。

がそれも一瞬の事だった、上のリアの存在を察知したのか、荷台部分を開いて攻撃の準備をしてきた。ミサイルかレーザーか何かを撃つつもりか?

「何をするつもりか知らんが、俺様を忘れるなよ!」

俺様は伏せの状態からデコトライガーの姿でストーンデコトラへと再度突進する。と、相手の疑似コアがエネルギー充填の為の発光を始めた。おいおい、俺様だけを狙ってて良いのか?

「【ガイドさん】! ダミー放出!」

俺様の身体から分身の用に一体、もう一体とデコトライガーが出現する。どれも寸分たがわず俺様と同じ姿だ。

とはいえただのガワなので動く事は無い。今の俺様もさすがに何体もの自分を動かすなんて事は無理だ。だが相手はデコトラである俺様の存在がさらに何体も増えたので先程以上に混乱したようだ。さっきよりも隙が大きい!


「ひっくり返すぞ!」

俺様は横倒しになっているストーンデコトラの車体を蹴りつけてひっくり返して仰向けにさせた。リアからは赤いコアが丸見えだ。

迎撃しようとエネルギーを貯めているようだがリアの剣が突き立てられる方が早く、深々と剣身が突き刺さる。

いくらリアがひ弱だといっても、剣を構えて落ちてくるだけならできるからな。そして、ヴォーパルソードのトリガーが引かれ、パイルバンカーが作動してコアは貫かれた。

とりあえずここは格好良く決めポーズで咆哮しておくか、がおー。



「【ガイドさん】、これでどうだ、まだあいつは動くか?」

【ご案内します。問題ありません、正確にコアは破壊されました。ではこれから回収に入ります】

へ? 回収?

突如リアの持つヴォーパルソードが赤い光を発し、ストーンデコトラの方の赤い光を吸収し始めたように見える。いったい何が起こっている?

【報告します。DPデコトラポイントを50000獲得】

はぁ!? エルダーワイバーンより強いとは思えないのに何だその数値!?

【ご案内します。と言いたい所ですが、現状の私の権限ではご案内いたしかねます。今はDPを獲得できた事でよしとして下さい。】

えっちょっと待って【ガイドさん】、さっき何か凄い重要な事言いかけてなかった? ……まぁ今はリアの方が先決か。


「おーいリアー、大丈夫かー?」

「痛いー、膝打ったー!」

「むちゃくちゃな戦いじゃったな……、およそ冒険者というか、人間の戦いではないわ」

まぁ途中から俺様が分離とか増殖したもんなー。あんな事できる冒険者いたら回れ右して逃げるぜ。


「それにしてもジャバウォック、さっきDPが50000とか言わんかったか? かなり多いように思うが」

「エルダーワイバーンが12000だったしなぁ、こいつ確かに強かったけどそこまでか……? 【ガイドさん】、もしかしてデコトラと何か関係あるの?」

【ご案内します。やはり私の権限ではこれ以上の説明はいたしかねます。】

「……だとさ」

「大丈夫かこやつ……、何か恐ろしい事とか隠しとらんかのぅ」


「まぁ良いじゃん。DPを思い切り稼げたんだから」

「はぁ……、リアは呑気じゃの。まぁいい、何もわからんのでは考えるだけ無駄だ。とりあえずダンジョンコアに登録しに行くぞ」

「へ? ダンジョンコア?」

ついて来ればわかるというレイハの案内で俺様達はフロア奥へと向かうと巨大な扉があった。こちらの扉は石造りではなく金属なのかよくわからん材質でできてるな。妙に近代的に見える。


「ここがダンジョンコアの間だ。リア、近づいてみろ。一応ボス倒したから反応があるはずじゃが……」

どうもドアかなにかに認められないと中に入れないらしい。一応ラストのトドメはリアが刺したけどなぁ。

鈍い音と共に両開きのドアが開き、最奥の部屋に入れるようになった。そこもまた迷宮の通路と同じ用に青白い光で満たされている。もしかして1000年の間ずっと灯り続けてるのか?

そこに『ダンジョンコア』があった。

10m四方くらいの部屋の中央で、円筒状の台座に載せられ青く光る直径1mほどの巨大なその球体はまさにこのダンジョンの中枢なのだろう、表面には無数の紋様が明滅して脈動する青白い光が血管のように地面や床へと流れ込んでいる。


「これが『ダンジョンコア』じゃな。この迷宮の動力源、らしい。詳細はわからぬがこれまた破壊しても修復されるし、どうやってもここからエネルギーを取り出せんのだ」

「って事は、実質このダンジョンって無限に稼働し続けてるって事?どこからそんな力を?」

「ギルドも王家も血眼になってそれを探しておるんじゃがなぁ。そもそもこのダンジョンコアはあくまで動力源であって、中枢はまた別にあるのかも知れんとか……」

レイハが色々説明してくれているが、今まで見てきたこの世界の技術力とは桁違いなようだ、これがデコトラ文明の遺産というわけか。

「この迷宮の中枢がいくら探しても見当たらないって事か?」

「うむ、ここの壁を破壊しても床を掘り返してもそれらしいものが見つからず、結局元に戻るだけなのでな。あ、リア。ダンジョンコアに冒険者の身分証を当てろ。そうすれば踏破したという登録がされる」


リアが言われた通りに身分証を当てると、カードが青く光り、周辺からそのカードの中に光が吸い込まれて消えた。

「これで、終わりって事?」

「そうじゃ……、なんじゃその光は」

青白く光っていたカードが、今度は赤く光り始めた。これってさっきの怒ったボスが出てきた時の光の変化と似ているなぁ。


『デコトラマスターの存在を承認。開錠いたします』


「何だ? 実績解除でこのような事が起こるとは聞いておらんぞ」

【ガイドさん】に似た口調の声がした後、部屋の奥側、俺様達が入って来た扉とは真向いの壁がパズルのように組み替えられ始めた、あたかも元々は存在しないものを組み上げるかのように。

俺様達が見ているうちに壁には新たな扉が出来上がったんだけど……。あそこに入れって事?

「おいレイハ、奥に部屋でもあるのか?扉ができたんだけど」

「ウチに聞かれても困る。こんな仕掛けなど初耳というより、こんな所に部屋なんて無かったはずじゃが」


「んじゃ、入ろ」ガチャッ

リアさんんんんん? 一応罠の可能性もあるんだからいきなり開けないでくれる!?

扉を開けるとそこは何も無い小部屋だった。いや、すぐ目の前の壁がガラス状の素材で出来ているので厳密には何も無いという事は無かったが。

不意に目の前のガラス状の壁が光り始め、様々な模様や図形が浮かび上がり、先程と同じような音声が聞こえてきた。


『ポータルへようこそデコトラマスター、ここではLv:1までの機傀神之大戦デコトラノマキアに関する情報を開示する事ができます。また、現在のデコトラの進化の方向性を設定し直す事ができます。情報をお望みですか?』


……ちょっと情報量が多くない?


次回、第41話『悪役令嬢トデコトラ、機傀神之大戦ノ情報ヲ開示ス』

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