第41話『悪役令嬢トデコトラ、機傀神之大戦ノ情報ヲ開示ス』


「何だよ機傀神之大戦デコトラノマキアって……」

「ここは古代デコトラ文明の遺跡だからの。ギルドマスターの言っておったデコトラ大戦とかいう奴かのぅ。大層な名前が付いとるものだ」

「本当にデコトラ同士が戦争をしてたのかよ。良いのかなぁ、見ない方が良い気がするなぁ」

「見せて」


リアは本当にこういう時は即決なのね……。

ガラス製の壁は前世でいうモニターのようなものらしい。映し出されていた紋様や図柄が消えると、そこに何かの映像が映し出された。

映し出されたのは荒野で向かい合う大群と共に戦う巨大なデコトラ達だった。


「なんじゃこのガラス窓は、幻影魔法か何かを使っておるのか?それにしては魔力を感じぬが」

レイハも知らないという事は、魔法とは無関係の科学的な技術によるものか?

そこに映し出されたのは、もはや車とかトラックとは呼べそうにないくらいまでに巨大化・強化・進化したデコトラ達の戦いだった。


時には荒野で、時には森林を踏みつぶしながら進むその威容は守護神扱いされるのも当然だろう。

大勢の兵たちが走り、騎馬兵たちが突撃する更に後方を走る巨大なデコトラからレーザーが放たれ、一瞬で数百の兵士を薙ぎ払っていく。

相手側のデコトラも対抗して巨大な防御壁のようなものを張って軍そのものを防いだりしていた。やがて歩兵は歩兵と、騎馬兵は騎馬兵と、デコトラはデコトラとで戦い始める。

絢爛豪華な走る宮殿のようにも見えるデコトラが全身からレーザーを放つと、相手は逆に荷台を展開するとそれが鏡のようになって逆にそれを跳ね返していた。

車体下部から何本もの脚を生やして走り始め、跳躍してからの踏みつぶし攻撃をするデコトラもいれば、とあるデコトラは荷台からロケットブースターのようなものが飛び出すと、飛んだ……。


彼らデコトラ達は機傀神キカイシンと呼ばれ、それぞれの属する国の決戦兵器のように扱われ、また信仰の対象でもあった。

場面が変わると、祭壇のようなものの上に鎮座する巨大デコトラの前に大勢の人々が整然と並んでひざまずき、崇め、祈っていた。

中には天空に浮かび、無数の羽根のようなものを広げた巨大な天使のような個体もいた。ふらりととある街の上に浮かんでは地上に天罰の光を降り注がせては焼き払っていた。

巨大化が極限にまで進み、宇宙空間で人工衛星というか、スペースコロニーのようになって車体内に人を住まわせているデコトラまでいた。もう何でもありかよ。


『機傀歴1263年、テネブラエ王国のロッシュ王国への軍事的侵攻を発端とする争乱は瞬く間に周辺諸国の軋轢を吸収し、三派に分かれての世界的戦争へと発展した。これを機傀神之大戦デコトラノマキアと呼ぶ』

映し出されたのは妙に近代的なビル群の国だった。いや、一応石造りなので完全な近代ではないが、その高さが尋常ではなかった。石造りの建物で数十mのビルなんて建築するのは困難だろう。

だがそこに映し出された映像は俺様の前世の世界に匹敵するくらい技術的に進歩した世界だった。

「リア、テネブラエ王国というのは、お主の生国の前の国か?」

「ええ、ロッシュ王国というのもグランロッシュ王国の前の王国だわ。この頃はまだ国力が弱かったのね」


『しかしテネブラエ王国もまた、軍を動かした事により王国の防備が薄くなった所を近隣諸国からの侵略を受ける事なり、余談を許さない状況となった。

 かかる事態に、テネブラエ王国のエストマノワール王子は国家総動員体勢を敷き、自国防衛を』


「はぁ!?」「ええ!?」【!?】

「な、なんじゃお主ら突然!?」

映像に映っていたのは異様に豪華な衣装に身を包んでるがどう見てもあのアホ王太子だった。だよな?間違い無いよな?

「い、いやこいつ、見間違えじゃなければ、リアの婚約者だった奴だ」

「そんなわけあるか、この動く絵は1000年以上前のデコトラ文明のものであろ? 他人の空似であろうよ」

「いや、どう見ても、なぁ」

「うん、あいつの顔忘れるわけがない」


『また、エストマノワール王子はかねてより婚約をされていた聖女との婚礼を』

「……あの女、生きてんのかよ。何が聖女よ」

怖っ。たしかエステル?だったかな? 子爵令嬢の。なんだかんだで生きてたのか、意外とたくましいんだなあいつら。

『これによりテネブラエ王国の士気は最高潮に達し、その勢いのままロッシュ王国の国土の大半を……』

なんかもう戦争だらけだなぁ、デコトラがいるからなのか、いなくてもやってるのか、人間ってのは変われないものなのかね。

『しかしそのさなか、突如テネブラエ王国にて異常が発生。城が消失し、王族の大半が道連れとなった不可解な消失事件が発生した。これによりエストマノワール王子は国王として即位し、国難に立ち向かう事となる』

なんか色々起こってる……。クソムカつく奴だったけど、もの凄い苦労してないか?同情はしないけど。


『だがその最中、突如第四勢力ともいえる存在が現れた。ただし軍勢と呼べるものではなく、たった一人である。次元を超えて訪れた』

あれ?映像が止まっちゃった。


-権限不足により閲覧を制限させていただいております-


今のリアで見れるのはここまで、って事か。最後なんかとんでもない事起こってたみたいだけど、まぁ今もこの世界が存在してるし気にしない事にしよう。

「最後のは魔王女の大襲来の事か? 物凄く貴重な記録な気がするのぉ、これ。

 なぁリア、ジャバウォックよ、さっきのエストマノワールとかいうの、テネブラエの王太子とか言うのは本当か?」

「うん、多分……。私達がこの国の近くに飛ばされて来た時、あの二人は1000年前に時間を飛ばされたって言ってた」

「にわかには信じられぬ話じゃな……、とはいえお主とジャバウォックの2人が同じ事を言うておったら信じぬわけにもいかぬが」


「なぁ【ガイドさん】、あの二人が飛ばされた先って、この映像の時代で合ってるか?」

【ご案内します。申し訳ありません。私の権限では答える事ができません】

またか……、【ガイドさん】でも説明できない事あるのか。他にも色々怪しいし、便利な人(?)だなーと思ってたけど、そんな上手いだけの話は無いのね……。

とりあえず閲覧できる情報はこれくらいらしい。あと気になるのは俺様?デコトラ?の設定を変更できるとかいうやつだな。

レイハも気になるのか画面を撫でたり触ったりしてみるが特に反応は無い。


「他にもデコトラの設定がどうとか言っておったの。このガラス板でどうにかできるという事か?」

「多分タッチパネルじゃないか? 画面に触れたらいろんな事ができるやつ」

「いや、ウチが触ってもどうもならんぞ。もしかしてリアか? デコトラマスターがどうのというのは」

「え? 私? この画面触ったら良いの?」

リアが画面を触ってみると映像に変化があった。


『ようこそ、デコトラマスター。ここではあなたの使役するデコトラの設定を確認・変更が出来ます。

あなたの現在のLvは2ですので、進化系統を確認・変更する事のみできます。』


◆現在の育成での育成ルートとその究極形態◆

 属性:地…神傀城デコトラストゥルム

 属性:水…神傀樹デコトラシル

 属性:火…神傀竜デコトラルズオルム

>属性:風…神傀獣デコトラシンハ


「おお、何か出た」

「なんじゃこの名前……」

「属性はともかく、後に続くのはデコトラの究極形態というやつか?何か物騒な名前が並んどるが……」

俺様はこの世界の文字はまだ読めないはずが、これだけは俺様の意識とつながっているのか文字が読めるようになっていた。

さっきからこの遺跡の装置ってデコトラと関係が深いように見えるな。それにしても何だこの究極形態って。


「この神傀獣というのに>印があるという事は、今現在のお主がここを目指して進化しているという事ではないのか?」

「え、獣ってあのデコトライガーの事か? あれは単に前世で見た事のあるものを参考にして適当に身体を作っただけだぞ?」

「むしろ身体を自分で作ったからこそ、その形に引っ張られておるという事かも知れんぞ。という事はこの設定を変えたら違う方向に進化するという事かのぅ」

「ちょっと待って、神傀城ってのは最終的に城に進化するって事? 辿り着きたくないなぁそれ」

「えー? 良いじゃんじゃばば、お城になってよ」

「嫌だよ、俺様は道路を走るのが好きなの! 城ってさっきの空とか宇宙でふわふわ浮いてる奴だろー」


その後、あれこれ触ってみるが今のレベルではたいした事ができるわけでも無いっぽい。俺様達はそろそろ迷宮から引き上げる事にした。

「この遺跡は極めてデコトラと関係が深いようだの、一応ギルドマスターに報告が要るのではないか?」

えー、またあのおっさんと面会するの?


次回、第42話「悪役令嬢ト初メテノ依頼」

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