第33話「悪役令嬢、最終試験ヲ受験ス」
今まで黙って見ていた試験官のおっさんが出てきて、最終試験は自分だ、と言うけど、このおっさん『デコトラ』を知ってたぞ!?
たしかににデコトラを興味深そうに見てはいたが驚いた様子は無い。油断できないなこりゃ、しかもメチャクチャ強そうなんだけど……。
あらためて見ると年齢は50~60くらいか? とはいえ2m近い身体に衰えた様子は見られず、全身筋肉の塊っぽい。
金属鎧でこそないが丈夫そうな革鎧を着ていて、ご丁寧に最初から臨戦態勢だった。どう見ても歴戦の戦士って感じで見た目からして鬼教官感が凄い。
さっきの戦闘で小回りの効かないデコトラは、思ってた以上に多数の相手に苦戦するというのを思い知らされた。
相手が逃げ回るだけならまだ良いのだが、こちらに立ち向かって来られたら持て余すのだ。
もしも訓練された軍隊ならどうなるか、とか思っていた所に、どう考えても熟練の戦士が相手って大丈夫だろうか。
「ルールは至って単純だ、儂が納得するまで戦え」
このおっさん、さっきのデコトラでの戦いを見ても戦うって、かなりの実力者なのか? 全くこちらを怖がっていない。
しかもこっちがデコトラ乗ったままで構わないとかどうとか以前に、自分が負ける事が計算に入ってないし……。
「良いの? やっちゃうよ?」
リアさんんん!? 相手よく見ようね!? 明らかにナメてかかってるよね!?
しかし試験官のおっさんは、そんなリアの様子にバカにするでもなく眉一つ動かす事無く言う。
「かまわん、相手が何であろうと選べないのが冒険者というものだ。では、始める」
おっさんは剣を抜いて構える。その瞬間、俺様達は明らかに気圧されていた。こちらが何十倍も巨大な体格のデコトラであるはずなのに、巨漢とはいえ人ひとりに圧倒されていたのだ。
見るからに隙も何も無いな、ド素人の俺様がそう感じるなんて相当だぞ。
「どうした、来い」
その巨体からは想像もつかない程静かに低い声が響いて来た。その声だけでまるで足が地面と縫い付けられたかのような圧迫感に押しつぶされそうになる。あのリアが気圧されて硬直しているのだ。
「リア、焦るなよ、落ち着いて行け」
「という事は、普通は思いっきり行かないって事よね!」
俺様が落ち着かせようとしているのに、リアは思いっきりアクセルをベタ踏みした。
どうしてこの子は普通の逆を行きたがるの!
案外良い手かも知れないと思ったが、相手に衝突する、と思った瞬間、相手の姿が消えた。
「え? え? え? どこ?」
「遅い! 戦闘中に相手を見失うな!」
何だ!? 突如、横殴りの衝撃が俺様の身体を襲った、信じられない事に俺様はふっとばされて何回転も地面を転がされてたのだ。
サスペンションを駆使してどうにか踏ん張って止まると、相手は剣を一振りしただけのようだ、その状態で動きを止めている。嘘だろ!? あの剣一本で!?
「リア、大丈夫か?」
「だい、じょうぶ」
運転席内は重力制御されているのでリアはイスからふっ飛ばされたりはしてなかった。
それでもフロントガラスに映る景色で状況は理解したのだろう、視覚と感覚の違いから軽く目も回っているようだ。今までの舐めプできていた相手とは次元の違う強さだからな。
「あれが、本物の冒険者ってやつか、とんでもないな」
「でもまだやれる! もう一度行くわよ!」
リアは果敢にも再度デコトラでの突撃を敢行した。いやこれ無謀って言わないかなぁ!?
「だから、遅い!」
おっさんは当然見切ってるのか一瞬で回避行動に移った。
だが、その瞬間リアはハンドルを思い切り回しながらブレーキを踏んだ。
「これでも、くらええええええええええ!!」
先程とは違い、あろう事かキャビンを支点としてデコトラ後部の貨物室部が浮き上がって旋回した。デコトラで回し蹴り!?
「!?」
これにはおっさんもびっくりしたのだろう、回避し切れず貨物室に何かが衝突した音がした。やったか?
しかし、おっさんは華麗に宙返りしてはるか遠くに身軽に着地してみせる。おいおい、ダメージ受けた形跡すら無いぞ。
【ご案内します。相手はこちらと接触する瞬間、足でその衝撃を受け止め、むしろその反動を利用して距離を取っております。与えたダメージは皆無のようです】
うーわ、マジかよ。あの瞬間にその判断をして回避してみせたのか、どんな反射神経だよ。
「次!」
だが、リアは今度はバックギアに入れて思い切り加速させ、今度はデコトラで殴りつけるようにおっさんに向かって猛ダッシュをかける。
「甘い!」
だがそのデコトラの拳はあっさりかわされた。直後、デコトラの後部ハッチ部分に一撃が撃ち込まれ、逆に押し戻し返された。パワーもトラック以上かよ!
「お、のーれー!」
リアはどっちがおっさんかわからない台詞を叫びながら、デコトラレーザーを至近距離で乱射する。
狙いも何も無いけど数撃ちゃ当たる……、当たらない! どんな目をしてるのかひょいひょい避けやがる。これじゃミサイル撃とうが当たらんな……。
「ちょこまかとぉ!」
「リア……、エレガントさを忘れないでね? とはいえどうしたもんかなこれ」
【ご案内します。実力が違いすぎます、レイハ様以上の実力者ですね。はっきり言ってこのままでは勝てません】
「ちょっと自信無くすぜ。やっぱり俺様って、ただのトラックなのかなぁ」
「……じゃばばは、ただのトラックじゃない。誰にも負けない!」
「気持ちは有り難いけどよ、このままじゃ勝ち目無いぜ?」
【ご案内します。今から私の指示通りにして下さい】
リアの運転でデコトラは何度かの切り返しの後に、再度おっさんと向かい合った。
おっさんはその隙を突くわけでもなくじっと待ってやがる。
負けるつもりは無かったが、それでも勝てる絵が全く思い浮かばなかった。これが実力者って奴か。
俺様達はおっさんと睨みあう形になり、しばらく沈黙の時間が流れた。
「往く!」
リアがアクセルを踏むと再びホイールスピンと共にデコトラは突進していった。普通なら先ほどと同じように避けられるだろう。レーザーも攻撃範囲は点なだけに見切られたら終わりだ。だが、
「デコトラミサイル!」
何発ものミサイルが相手に向かって飛んでいく。だが、狙うはおっさんではない、その周囲だ。相手を囲むようにミサイルが弾着し、周辺で爆発が起こる。
【ガイドさん】の作戦は、どうせ相手はミサイルも見切って避けてしまうだろう、なら最初から当たらなければ避けない。それで相手の行動を誘導できる。
そこへ、逃げ場を失った相手にデコトラは突っ込んだ。今度こそ直撃のはずだ、衝撃がボディに伝わってくる。
「はれ?」「え?」【!?】
次の瞬間、俺様の車体は宙を舞っていた、しかもひっくり返って。
地面ではおっさんが何かの武術の構えというか型みたいなポーズをしていた。
嘘だろ……、投げ飛ばされた!? 人に!? デコトラが!?
そのまま俺様は墜落する、貨物室の背中で地面を擦りながら滑って行き、闘技場の壁にぶつかって止まった。
「嘘……、負けた?」
「ああ、負けた、みたいだ。何もできなかったな」
【……】
「よし良いだろう!これをもって試験を終了する!」
俺様達がショックで何も言えないでいると、おっさんが試験終了の宣言をした。
元より戦意なんてもう無い、素直にそれを受け入れるしかなかった。
デコトラのままひっくり返っていては、どうにもならないので一旦消す事にした。
中にいたリアはドレス姿のままでへたり込んでいる。余程ショックだったのだろう。そこへ、おっさんが歩いてくる。
「なかなかの戦闘力だったが、使いこなせていたとはいえないな。力を持っていてもどう使うか、の鍛錬がまだまだというか、全くなっとらん」
リアのネックレスとなっていた俺様もリアも何も言い返せなかった。
巨大なデコトラの姿を己の力と勘違いし、ただ振り回せばなんとかなると思い込んでいたのを見抜かれたかのようだ。レイハにも似たような事言われたっけな。
だが、相手は己の身体一つで生きてきた冒険者だ。たったの剣1本、最後は何らかの体術か何かだけで俺様達をあっさりと戦闘不能にさせてしまった。
その敗北感はリアも同様だったのだろう。正々堂々とした勝負というか、明らかにこちらが有利な状態でボロ負けしたのだから。
「私、失格……?」
「いや、合格だ。とはいえ危なっかしいから、まずはC級冒険者からだがな。これでも上出来なのだぞ?普通はD級とかE級からだ」
俺様達で、C級……、レイハがB級と聞いていたからそれくらいにはなれるかと思っていたがこれが現実かよ。合格したというのにちっとも喜べなかった。
「おい、受付で冒険者登録証を発行してやれ、それと、後で上の部屋にこさせろ。昇降機使ってもかまわんから」
え、受付にいた人に何かしてるけどまだ何かあるの?
次回、第34話「悪役令嬢トデコトラ、『ギルドマスター』ト面談ス」
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