第32話「悪役令嬢、受験者ヲ蹂躙ス」


「わはははははは、リーリアも中々にあおりよるの」

レイハが爆笑しているのをさっきのでっかいおっさんが凄い目でにらんでいた。とはいえ一応はB級冒険者だからなのか特に何も言われない。

俺様達はおっさんの後について試験会場へと向かう。ケイトさんはレイハがいるから大丈夫だろう。


「(リア、メスガキ煽りは今後禁止だ。余計なトラブルを招きたくない)」

「(えー? なんでー?)」

「(とにかく禁止だ、リアはまだ戦闘に慣れてないんだから、相手怒らせても仕方ないだろ)」

「(はぁい)」

今は鎧着てるからわからんだろうけど、リアの中身が美少女だとわかったら、メスガキとして煽って欲しいとかいう変な趣味の奴が出てきかねないからな。

それにしてもリアって、ずっと閉じこもって勉強ばかりしてたからか、様々なものに影響されやすいんだろうか? あまり変な本とかに触れさせない方が良いのかなぁ。


試験会場はギルドの建物に隣接する中々に大きな建物の中の円形ホールだった、闘技場コロッセオみたいだな。

おそらくは普段は訓練や模擬戦を行うための施設なのだろう。おっさんはその中央に立った。

俺様達受験者はその周囲に立ってるが、ざっと30人くらいいるな。さっきの連中は俺様達を見つけて睨んできているが無視だ無視。


「これより、冒険者採用試験を始める! 本日は特に希望者が多いのでまとめて行うが、異論は認めん!」

でっかいおっさんが試験官なんだろうが、体格に負けずすげぇでかい声だ、周囲の受験者達の何人かはその声だけで怖気づいてしまってるな。

「これより志望者全員で戦闘を行ってもらい、上位5名を合格として2次試験の受験を認めるものとする。武器・魔法の使用については全てを許可する」

試験内容を告げられた受験者達の間から不満のどよめきが上がった。バトルロイヤル方式なのに何もでありってなると実力差の影響がありすぎるからなんだろうな。


「おい、刃物なんかで斬られたら死んじまうぞ、試験どころじゃねぇだろうが」

「何だ? お前は魔物に対して『今回は試験だから手加減してくれ』とでも言えば通じると思っているのか?」

「い、いや、そんな事は無ぇけどよ」

疑問を投げかけた受験者に向かっておっさんは呆れたような声で返す。そりゃまぁそうだろうなんだろうけど冒険者になるのも楽じゃないな。いや人ごとじゃないんだけど。

「安心しろ、この闘技場には特殊な設備が施されていて、『負け』と判定された時点で受験者の身体は自動で治癒される。これはこの近くで発掘された魔法文明の遺産によるものだから動作は確実だ」

凄い設備だな、部分的にタイムマシンのように時間を戻せるのか。そんなのが発掘されるなんて迷宮に挑む者が耐えないのも無理はない。


「ねぇ、質問なんだけど、召喚魔法は良いの?」

「何だ? お前魔法も使える剣士なのか? かまわん、全てを許可すると言った」

「おい、そんなのありなのかよ! 倒す相手増やされたら困るんだが」

リアもおっさんに手を上げて質問した答えに対しても不満の声が上がるが、おっさんはそれにも動じない。リアは俺様のデコトライガーを召喚魔法とでも言い切るつもりのようだな。


「だから頭を使えと言っている。何も自分一人でこの場の全員を相手する必要はない、周囲の者と協力して生き残れば良いだけだろう」

「あ、そういうのは良いのか?」

「もっとも、弱い相手と組んでも仕方ないがな、そういう時にこそ相手の実力を見抜く力が要求される」

その後もちらほらと上がる質問に答え終わると、俺様達は円形闘技場内でそれなりに散らばって立たされた。


「それでは! 一次試験を開始する!」

号令がかかった瞬間、その場の雰囲気が変わった。皆リアを見ているのだ。あれ? これってもしかして……。

あーさっきの奴だ。やっぱりおかしな恨みを買うとこうなるんだよなぁ、仕方ない、全員スタンボルトで眠らせるか、しかし数が多いなぁ。

「おい、さっきの報復だ、まずはこの場の皆であいつをやっちまうぞ! メスガキになめられたままで男をやってられるかよ!」

「男の誰もがメスガキに屈すると思うな!」

「このメスガキがぁ! さっきはよくもバカにしてくれたな! わからせてやるから覚悟しろ!!」

お前らさっきの煽りの主旨を理解してんじゃねぇよ! どうなってるんだ異世界人。


全員が相手という事で、さすがのリアも身構えるかと思ったが、リアは何を思ったのか鎧を解除した。当然中はドレス姿だ。

長い金髪がなびき、素顔が露わになるのを見て、冒険者もあっけに取られる。この場にはどう考えても似つかわしくない姿だったからだ。

「なんだ? 鎧なんか脱いで。怖気づきやがったのか?」

「やっぱ貴族崩れのお嬢様か何かか? 今更謝っても遅いがなぁ!」

「この人数差なら勝ち目無いわなぁ!」


周囲は当然、ここぞとばかりにリアをなじってくる。まぁ1対30じゃ気も大きくなるわな。しかも相手はどう考えても戦闘能力皆無の貴族のお嬢様だ。ここで俺様の登場なんだろうな。

「ジャバウォック!!」

はいはい、それじゃ俺様のデコトライガーであいつらを

「デコトラで召喚!」

はい!?

仕方なくデコトラ形態で闘技場の中央に姿を現すと、受験者達からどよめきの声が上がる。

リアは受験者達が動揺している隙にさっさと俺様に乗り込んで運転席に座る。

頼むから大人しくしてくれよ……、という俺様の願いも虚しく、リアはアクセルを空ぶかしして周囲を威嚇する。

「な、なんだありゃ……」

「箱? なんかを召喚する魔法なんてあったか?」

「怖気づくんじゃねぇ! ただのでかい箱だ! 近づかなきゃ何もできねぇ!」

突然現れたものが見慣れぬ金属の箱だったので、受験者達はどうしていいかわからんようだな。こちらに攻撃をしかけるわけでもなく見ている。



「来ないの?それじゃ、こっちから行くわよおおおおおおおおおおおおおお!!」

運転席のリアはしばらく待っていたが、相手に動きが無いので自分から突っ込む事にしたようだ。デコトラは土の地面をホイールスピンするタイヤでえぐりながら急加速する。

「何だ!? 動いたぞ!?」

「き、来やがったあああああああああああああ!!」

「逃げろ逃げろ逃げろ! 距離を取れ!」

「あんなのに巻き込まれたら死ぬぞ!!」

受験者達が蜘蛛の子を散らすように逃げる。まぁ逃げるわな、いつか見た光景だぜ。すまぬ、こうなると俺様ではどうにもならんのよ。


「おい! なんで馬車が馬にも引かれてないのに動いてるんだよ!」

「そんな事言ってる場合か! 逃げろ逃げろ逃げろ!」

「あ、あんなのに当たったら絶対死ぬぞ!」

「散れ! バラバラになった方が安全だ!」

「ぎゃああああああああ!!」

「ひ、ひでぇ! こんな死に方嫌だ!」

デコトラの突進から逃げ切れず何人かははねとばされていた。その無惨な様に近くにいたものは腰を抜かす。

すぐ生き返るからしばしの辛抱だ、衝撃治癒を発動しているのでダメージは与えられないが戦う意欲は失せるだろう。


「おい、まさかあいつ、『デコトラ聖女』って奴か? 与太話と思ってたんだが」

「どこが聖女だよ! あんなので轢き殺して回ってたらもっと噂になってるぞ!」

こいつらも『デコトラ聖女』の事を知っているのか、わりと知られた話なんだな。とか思っていたら、【ガイドさん】から警告がやってきた。


【ご案内します。周辺で魔力の高まりが検知されました。魔法攻撃にご注意下さい、この車体は魔法攻撃には比較的脆弱です】

さすが相手も冒険者を志すだけあって、轢かれるだけではなかった。そういやこの世界って魔法あるんだったな、手に光の弾を作り出してる奴がいた。

「リア! 前進しろ! 右後ろの方から魔法で攻撃してくるらしい!」

俺様は急いでリアに指示を出し、デコトラに回避行動を取らせた。

考えてみるとリアはこの状態では無敵なようでいて、見えるのはフロントガラスの範囲だけ。視界の大半は車体で塞がれているようなものだった。

相手が小さかったり多数存在すると、俺様のサポートが無ければ周囲の敵を持て余すな

「デコトラに乗ってても安心できないのか。実戦じゃそう簡単にはいかんって事を早めに知れて良かったぜ」


さすがに冒険者志望だけあって状況判断はできるようだ。このあいだの貴族達とは異なり広い闘技場内を最大限利用して無理に近づこうとせず、遠距離攻撃の武器や魔法攻撃に切り替えている。

これは1人1人相手していかないといけないかなぁ、とか思ってると、リアは突進した後、サイドブレーキでドリフトするように方向転換し、旋回するように薙ぎ払った。いつの間にそんなテク覚えたんだよ、しかもデコトラで。

「「「「「ぎゃああああ」」」」」

これで5人ほどお亡くなりになったか……。こうなっては相手にはどうしようもない、試験会場に戦車が持ち込まれたようなものだからな。

手が届かない相手にはデコトラレーザーやデコトラミサイルで遠距離射撃だ、もはやTVゲームとかのボス戦みたいな様相を呈してきたな、こっちがボス側なんだが。


「ひでぇ、こんなのありかよ!」

「悪魔だ……、あの女は悪魔だ!」

「極悪にも程があるだろ!」

考えたら上位5人は2次試験を受けられるって話なんだから、4人くらいは残しておけばよかったはずなんだが、リアはその場の勢いとはいえ全員を倒してしまった。


わずか数十秒で辺りは死屍累々だ。とはいえ俺様に轢かれた者はじきに治癒が始まる。

そして、デコトラレーザーで肩とかを撃ち抜かれた者も先程言っていた魔法装置の影響なのだろう。またたく間に治癒が始まり、服には穴も空いていなかった。

よろよろと立ち上がり、自分の身体を確認して先程のが夢だったのかとでも思ったのか立ち尽くしている者がいる。体育座りでしくしく泣いてる奴もいるな、怖かったよね……。

それでも自分の身体が無傷なだけに、何人かは落ちている武器を取って再度戦おうかと迷うようなそぶりを見せてはいる。


「何? もう終わりなの? もっとやろうよ」


「ひいいいいいいいいいい! 逃げろ! 逃げろおおおおお!」

「こんな試験、命がいくつあっても足らんぞ!」

「こんなのもう嫌だ! 田舎かえって畑耕す!」

リアの一言に、受験者達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。うむ、これ以上の無益な戦闘を止める為にあえて言ったんだよね? だよね? でないと俺様ドン引きなんだけど。

「あー、行っちゃった……」

「行っちゃったじゃないよリア……、正直やり過ぎだと思うぞ」

「えー、か弱い女の子相手に30人がかりだよ? 仕方無くない?」

デコトラに乗っていて、か弱いも何も無いと思うのだが。


「そこまで! 一次試験を終了する!」

黙って見ていた試験官のおっさんが手を上げて試験の終了を宣言した。どうにか終わったか……、大丈夫だよな? デコトラ使ったから失格とか無いよな?

「うむ、なかなかの『デコトラ』捌きだな。まだ不慣れなような印象も受けるがまぁ及第点だろう。」

え、このおっさん『デコトラ』を知っている!?


「では、このまま最終試験だ、特に疲れてもいないだろう? 相手は、この儂だ!」


次回、第33話「悪役令嬢、最終試験ヲ受験ス」

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