第31話「悪役令嬢、冒険者試験ヲ受験ス」


街中を歩いていくと様々な店が軒を連ねていた。ギルドでの用事が無ければじっくり見たい所ではある。

街を歩く人々の姿も様々で、普通の一般人からどう見ても貴族、冒険者風の人まで色々な人がいる。中にはどう見ても人間じゃない獣人系やらエルフといった亜人まで混ざっていた。

「リアは亜人が珍しいのかの?」

「うん、今までの人生で見る機会なんて無かったし。本とかでは読んだ事あるけど」

「お主はもう少し色んな経験を積んだ方が良いぞ」


などとリアとレイハが雑談していると、街の中央に建っている城らしき建物に続く大通りの途中が円形の広場のようになっており、ぐるりと様々な建物が建っていた。

レイハはそのうちの1つに向けて歩いていく。あの5階建てくらいの建物が冒険者ギルドか?

「あれが冒険者ギルド? 大きな建物ねー」

「街が大きければ建物も大きくなるからな。あっちには商人ギルドや鍛冶屋ギルドや、商人・工業系のギルドもある」

立ち止まったレイハの説明によると、冒険者ギルドが存在するのは魔獣の討伐等の依頼を1本化し、不当に高価な報酬を要求されない為であったり、勝手にそういう依頼を受ける、いわば押し売りのような荒くれ者が出てくるのを防ぐ為なんだそうだ。

なるほど、力さえあれば何をしても良い、というのでは国にとっても良くないだろうからな。

「あそこで登録さえすれば依頼を受けられるって事で良いの?」

「そういう事なんだが、この街は大きいだけあって冒険者を志す者も多くてな。ある程度選抜する為に実技試験が存在する」


「(え、誰でもなれるってわけじゃ無いのか?)」

「この街は大きいだけあって、近くにある迷宮やら魔獣がでてくる場所は危険なものが多くてな。下手な素人は近づく事もできんくらいなのだ。

 元々この街はそこから得られる素材や古代の遺物で発展したようなものだからな」

「そこに出入りするにも冒険者の資格が必要、という事なのですか?」

「察しが良くて助かる。まぁ勝手に入って命を落とすのは止めん、という程度のものではあるがな。さっそく入るぞ」


冒険者ギルドの中に入ると、1階はかなり広いホールになっていて奥の壁には窓口っぽい物が並ぶ場所が見えていた。

なるほど、あそこで諸々の手続きをするわけか。レイハはまっすぐその窓口に歩いて行く。

ホールにたむろしている荒くれ者達の視線がこちらに向いてきた。レイハはともかくリアやケイトさんのこっちがやたらに注目されてるようだな。

あまり離れてトラブルになりたくもない。俺様達はレイハの後ろについて受付に並んだ。

受付の女の子はレイハを知っているのか、ぺこりと頭を下げてから受け付けの仕事を始めた。

「レイハさん、お帰りなさい。今回はずいぶん時間がかかりましたね?」

「うむ、事のついででちょっと調べものをしておったのだがな、ちと遠出し過ぎて帰るのに手間取った。ほれ、これが今回の収集じゃ」

「あ、はい。それでは鑑定が終わりましたら換金させていただきますね。……あの、そちらの方は?」

「こやつも冒険者になりたい、というのでな。登録させようと連れてきた、さっそく頼めるか?」

「あ、ああー。そう、です、か」

何だ? 受付の子の表情が微妙な事に? 何か不都合でもあるのか?


「なんじゃ? 何か不都合でもあるのか?」

「いえそういう訳では無いのですが、ちょっと事情がありまして。ついこないだ地震がありましたよね?その際に新たな遺跡が見つかったんですよ」

「それ自体は別に珍しくも無かろう。それと冒険者登録に何の関係が?」

「大いにあるんですよ。この街から近い上にかなり危険な迷宮のようでして、一攫千金を狙うあまりの死者を抑制する為に、しばらくは登録基準を引き上げるとの事で」

ええー、このタイミングで? ちょっと間が悪いなぁ。おまけに危険な迷宮って、そんなのリアに攻略させるわけないんだが。

レイハが受付の子と話すのを見ているしかできない俺様達だったが、単なる順番待ちとでも思われたのか、数人の冒険者が何故か寄ってきた。

年齢はそこそこ若めではあるが、着ているものや武器も洗練されておらず、正直野盗とか盗賊と変わらない。


「おいおい、こんな所にメイド付きで貴族様でもいらっしゃるのか?」

「ちょうど良い、後で俺達の冒険者登録祝いで飲みに行く所だからよぉ、ちょっと俺達と付き合えよ?」

「ちょっと、お止め下さい」

「お止め下さい、だってよ。お断りのお言葉までお上品だぜこいつ」

「ついでにお前もだ、お貴族様のご令嬢様なんだろ?遠慮せずに付き合えよ」

こいつら冒険者じゃなくて、リアと同じ(同じとか言いたくないけど)冒険者の志望者かよ。

壁に貼られている依頼も見ずにやけに集まってるなーとか思ってたけど、こんなのが寄ってくるなら確かに誰でも彼でも登録させるわけにはいかんわな。


「よし、リア。いや表向きはリーリアだったか?やってしまえ」

レイハさん!? あれ? 受付の子がいない!? こんな所で喧嘩ってヤバくね?止めてよ!

「良いの?」

リアも!どうしてちょっと乗り気なんだよ!


「おい」

「あー? 何だお前は。さっきから妙な鎧で目障りだったんだけどよぉ、もしかしてお前がこいつの主か?女物の鎧のようだが」

「失せろ」

「あ?」

「お前と話をするつもりは無い。黙って失せろと言っている」

リアがケイトさんの手を掴む冒険者志望者(長いなおい)の間に割って入り、そのまま押しのけるように後ろに下がらせた。

のはいいけど、どこでそんな話し方覚えたの!?そんなのお父さん許しませんよ!


「てめぇ……」

相手は軽くキレたのかケイトさんから手を離すとゆっくりとこちらを向いてきた。嫌だなー、やり合いたく無いなー。とか思ってたらいきなり殴りかかってきた。

しかし今のリアは感覚が強化されているのでその動きはゆっくりにしか見えない。手練れのレイハとは全く比べ物にもならないものだった。殴りかかってくるのをよけるくらいなら簡単にできる。

あっさりと避けられたのが気に食わなかったのか。相手は腰の剣に手をやった。おい、いくら受付とかが見て無くてもさすがにそれはルール違反って奴じゃないのか?


「(おいリア、相手を怒らせたみたいだぞ。気をつけろ)」

「ああーら、もしかして今のって殴ってきてたの? 足がもつれたとかじゃなくて? そんなんじゃ止まってるアリも捕まえられなくない? そんなので冒険者になれるのかしらぁ?」

リアさんんんんんんんんん? だから喧嘩売らないで!? マジどうしたの!?


「んだとこらぁ……」

「ナメられてるぞおい。このまんまにしておいて良いのか? 冒険者になった時に格好がつかないだろ」

「さっきの話だと、こいつ冒険者でも何でも無いみたいだしな、ちょうど良いから競争相手を減らしておこうぜ」

「あらあらあらあらあらぁ、有象無象は寄り集まらないと何もできないザコなわけ? ざぁこ! ざぁこ! よわよわー! 根性無しー、ヘタレー。全員足しても半人前以下ー」

「て、ててててめえ!」


「止めろ馬鹿者共! 討伐対象になりたいか手前ぇら!!」

リアがさらに煽り倒したので一触即発かと思われたが、奥から出てきた体格の良い人がもの凄い大声で止めてくれた。助かったー。

「冒険者登録試験の前に全員失格にされたいか! まとめて試験してやるからさっさと来い!」

あ、試験官か何かの人だったのか、ギルドの偉い人か何かなんだろううけど、名乗りもせずに行っちゃった。まだ名乗るような相手とも見られて無いわけね……。そんな事よりリアだ。


「(おいリア、いったいどうしたんだ? 今までは特に人を煽るような事を言ったりしなかったのに)」

「(え? こないだ読んだケイトの本が面白かったから、真似してみようかな、って思って)」

「(……どんな本だったんだよ)」

「(タイトルは『断罪されて子供に生まれ変わった私は、言い寄る第二王子煽りまくって今度こそメスガキ悪役令嬢として幸せになります!』だったかな?)」

おかしな本を読むんじゃありません!! 何なんだよケイトさんの本の趣味!


次回、第32話「悪役令嬢、受験者ヲ蹂躙ス」

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