第30話「悪役令嬢トデコトラ、街ニ到着ス」
「デコトラ聖女って言ったか?」
「言ったかも何も、お主は何者じゃ。姿は無いのに声だけが聞こえよる。まるでこの部屋が喋っておるようじゃが」
俺様はうっかり話しかけてしまったのを開き直ってレイハと会話する事にしたけど、どう説明したものかな。
「あー、いや、俺様は」
「じゃばばは、このトラックだよ?」
「じゃばば? 部屋に名前が付いておるのか? トラックとは何ぞ?」
「口を差しはさませていただきます。この声の主は異世界より転生してきて、お嬢様を主としているこの車そのものの意思で、名前をジャバウォックと申します」
なんかリアってどんどん幼児化しとらんか……? 見かねたケイトさんが代わりに説明してくれた。
「なんと、物に意思が宿るとは、まるで付喪神じゃな」
「あれ?そういう概念がそっちの国にもあるの?俺様は前世で長い事使われているうちに意思が宿ったみたいでさ」
「まぁ世の中不思議な事はいくらでもあるものだ、馬の無い馬車に意思が宿る事もあるだろう」
同じ東方の国というだけだけあって文化も似てるのか、レイハはあっさり納得してくれる。それはそうと聖女の方だ。
「それはそれとして、デコトラ聖女、って何者なんだ? やっぱりデコトラに乗っているのか?」
「デコトラ、というのはこの箱の事か? 姿形の詳細はわからぬが、宮殿か大聖堂のように飾り立てられた白く四角く長細い箱のようなものに乗って、大陸中を走り回って人を癒す『聖女』がいるという噂を聞いただけじゃよ。最初はお前さんかと思ったがどうも違うようだの」
「人々を癒やして回っている、というからには悪意のある人ではなさそうですが、
噂になっている見た目は、まさにデコトラのように思えますね。この世界には他にもデコトラがいたという事なのですか?」
ケイトさんが不思議そうに首を傾げているが、俺様には嫌な心当たりがあるんだよな……。
「そういや、あの
「おいデコトラの、そういう事はうかつに口にせぬ方が良いぞ? 言葉は
嫌な事言うなぁ、死亡フラグと似たような考え方か? もう考えないようにしよう。
「おお、勝手に乗り込んで挨拶も無しで失礼したな。ウチは
レイハが丁寧に頭を下げて自己紹介してきた。このへんは育ちの良さが出てるな。
「リアはね、リアだよ」
リアさん……。
「こちらは、アウレリア・ドラウジネス公爵令嬢様です。テネブラエ神聖王国から色々あってこちらに来て旅をしております。私はメイドのケイトと申します」
「テネブラエとは、またずいぶん遠くから来たものじゃの、大陸のはるか西ではないか。色々あって、というのは家出か?」
あっけらかんとした物言いながらも結構踏み込んだ所まで質問してくるなこの子。さてどう言い訳しようか。
「まぁ、平たく言いますと……」
「なぁに気にするな。ウチも半ば喧嘩するような形で国を飛び出したからの。良くある事じゃ」
それ、良くある事なの……? ケイトさんの表情からするとそうではないみたいだけど。
「え? レイハも家出なの?」
「まぁちと違うが、ほぼそれで良い。国元でよくない事件が起こったのだが、皆伝統だのなんだのに縛られてろくに動こうともせんのに腹が立ってな。ちと犯人をとっ捕まえようと旅に出たのじゃ」
「そ、それはなかなかに活動的でいらっしゃいますね」
ケイトさん言い方をちょっと配慮した!
「最初は大変だったがな、慣れてしまえばどうという事は無い。お主達は西へ向かっておるのか?」
「ええ、ダルガニアなら冒険者としての仕事もあるのではないか、と思いまして」
「ちょうど良い、ここから西へ走っていけばかなり大きな街に辿り着く、望むなら冒険者登録もできよう。先程の速度なら1日で着いてしまうのではないか?なかなかの速さだったぞ」
さっきの村で次の街のだいたいの位置を聞いたけど、案内があるのはありがたい。俺様達は街に向かって走り出した。
「しかし、本当に異世界から転生してきたのだとしたら、そなたも因果な人生? 車生? だったものよの」
「俺様は物だから転生とは違う気がするんだがなぁ、色々あってこっちにやって来たんだよ」
「なに、物だから命が無い。命が無いから生物では無いというのは物事の一面しか見ておらぬだけよ。
前世ではそなたのように物であっても意思が宿ったのであろう?そして人はそれを認識しておらんかっただけの話じゃ」
……この子、リアより年下なんだよな? 話し方が古風ってだけじゃなくて妙にしっかりしてるんだけど。
「なんと申しますか、ヒノモト国の方は独特な世界観をお持ちですね」
「目に見えるものばかりに囚われておっては世界は狭いぞ?とはいえウチも自分で旅に出てみて初めて世界の大きさを実感したようなものじゃがな。まだまだ未熟者よ」
ケイトさんも俺様と似たような感想だったらしい。けどそれでもレイハが未熟って……。
「えー? あんなに強いのに?」
「強くなるのは誰でもできる、要はいかに効率良く相手を殺すかを極めれば良いだけじゃからな。場合によっては手段を選ばなければ鍛錬の必要すら無い。
じゃがそれを強さとは言うまい? その力をどう使うかという心だけは、自分で鍛え上げるしか無いのだよ」
「……んー?」
「そなた、やはり少々危うい所があるの。まぁ冒険者になるなら追々その辺も教えてやる。さっきの剣の持ち方はいくら何でも無いわー」
あの構えでは強いかどうかは一瞬で見切られるわな。油断した所を俺様が攻撃しても良いんだけどさ。
「リア様、やはり冒険者として生計を立てるのはお考えになった方が良いのでは?」
「えー、でもさー」
女子三人も集まれば会話は途切れないものだ。退屈する事も無くなって次の街への足取りも軽いぜ、タイヤだけど。
「見えてきたな、あの街がリヒトシュルテンじゃ。ここらでは最も大きな街ゆえ、あそこを拠点とするが良かろう」
レイハの言う通り街道のはるか遠くに街が見えてきた。高い城壁に囲まれており、その城壁の周囲にも街があるのでなかなかの規模のように思える。あー、王都を除けばようやくまともな街に辿り着いた感じか
「デコトラのままで乗り込むにはちと目立ちすぎるな、徒歩で行くしかないか」
「馬車になってはどうですか?普通にリア様を貴族令嬢として……、証明のしようがないのですか」
「えー、あの街までまだまだあるよ?疲れない?」
貴族令嬢になりすまして、というか貴族令嬢ではあるのだが国を出ちゃったからな。身分が無くなったようなものだし、リアは呑気な事を言っているけどいずれ何とかしないとなぁ。
「あれくらいの距離なら歩け歩け、お主も冒険者になろうというなら多少は身体を鍛えねばならんぞ」
「んー、よし、じゃばば、鎧になって、あれなら楽だから」
これまた仕方ないか。俺様、甘やかせ過ぎだろうか?
「妙な鎧だと思ったらお前さんが変身しておったのか。大きさも形も自由自在というのはなかなかにとんでもないの」
皆に降りてもらい、リアの鎧へと姿を変えるとレイハは興味深そうに観察してきた。
「まぁそうなんだけどなー。これするにも魔法力みたいなのを消費するんだよ。その為にも魔獣討伐して魔力みたいなのを維持しないといけなくてなー」
「何の代償も無いわけでもないのだな。ならば尚の事リアが強くならねばならんぞ」
「ええー?」
リアは不満げだが、この鎧は結構DP食うしなぁ。本当に強くなってもらわないと。
近くで見るリヒトシュテルンの街は、壁に囲まれた城塞都市という感じで、城壁も高くて立派なものだ。
徒歩で街へと歩いていくと、門の所にいる衛兵らしい人が物凄く怪訝な顔でリアを見ているのがわかる。まぁなぁ、この鎧姿は目立つわな。
「おお、レイハ殿戻られたか。……そちらの方々は?」
「冒険者ではないのだがな、旅先で雇った傭兵じゃ。心配いらぬ、悪いやつではないゆえな」
「は、はぁ……」
身長こそ高くないものの、ピンク色の派手な鎧着てる奴なんて怪しいわなー、俺様もそう思う。
「こやつも冒険者になりたいと言うからな、この街に連れてきたのだよ。さっさと冒険者登録させるゆえ通してくれぬか?」
「あー、では申し訳ないですが、ギルドにはこちらから連絡させてもらいますよ?午前中に姿を見せなかったら罰則という事で良いですか?」
「かまわぬ、ほれ、2人分の入街料じゃ」
レイハに銀貨を2枚渡してもらい、簡単なチェックを受けて俺様達は街に入る事ができた。あれ?レイハの分は?
「(街に入るだけでお金取られるとはなー、出たり入ったりだけでもバカにならんぞ。レイハは払わなくても良いのか?)」
「冒険者はある程度依頼をこなすと免除される、しかし一般の人々はそうもいかん。なので城壁の外に街ができては立ち退きを迫られたりのいたちごっこじゃな」
俺様は鎧のままでレイハと会話している。誰かに声を聞かれても鎧姿なら問題は少ないだろうけど、一応小声だ。
しかしこの街の外にまで人が住んでいると思ったらそういう事か。けどそれって、何かから街を守ってるって事でもあるんだよな。
外から見てもそこそこ大きな街かと思ったが、いざ中に入るとその規模はかなりのものだった。この街にざっと数万人は住んでるんじゃないか?
「(でかいな……、こんな大きな街とは思わなかった)」
「ダルガニア帝国の中東部における中核となる都市だからな。人の出入りも多い。ほれ、さっさと冒険者ギルドに行って登録をしてしまうぞ」
次回、第31話「悪役令嬢、冒険者試験ヲ受験ス」
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