第29話「悪役令嬢ト新タナ同行者」
【警告します。あの刀とまともに打ち合ってはなりません、即刻の逃亡を勧告いたします】
あれそんなにまずいの?眼の前のレイハという少女が造り出した刀は見た感じ光る日本刀くらいにしか見えないけど。
「(警告します、ってかなりヤバいのか?【ガイドさん】)」
【再度警告します。あの光る刀は物質ではありません、魔力を何らかの手段で半物質化したものと思われます。
これはジャバウォック様の身体を構成するものと原理を異にしますが、ほぼ同質のものです。その特性上、極めて相性が悪いものと思われます】
つまり、あっちは無から武器を作り出したって事か、何だかわからんがとんでもないな。で、あの刀と打ち合ったらどうなる?
【警告します。恐らくまるで勝負になりません。魔束密度が尋常ではない程高い上に表面の魔力偏向率も異常な数値です。下手をすれば打ち合うだけでDPを吸い取られてしまいます】
はぁ何それ!? 魔力だなんだというのは理解できないけど、下手したら俺様DP無くなって死ぬじゃん! マジやべぇ!
リアは俺様と【ガイドさん】の話を聞いていたのか、あの光る刀が少なくともヤバいものと認識したのか顔をこわばらせた。
「ほぅ、己の剣が役に立たないというのを理解したのか。初見なのにこの刀の特性を見切ったのか? たいしたものだ。いかにも、この刀は物質に非ず。ウチが『魔式』にて紡ぎ上げた一刀よ。」
「『魔式』……?魔法って事?」
「ちと違うが、まぁ似たようなものだ。ウチの国に伝わるものゆえこの国の魔法の様式とはかなり異なるであろうがな。そなたの剣か鎧の機能がいくら高くとも、この一刀の前には無力ぞ」
魔力=DPを吸い取れるってのはあっちも認識してるのか、ますますまずいな。単に鎧を機能停止させるという狙いだけなんだろうが、俺様が活動停止する事までは考えに入ってないようだ。
「(ど、どどどどどーしよガイドさん)」
【勧告します。安全を優先する為にはこの勝負から逃げる必要があります】
「(だってよ、良いよな?リア)」
「(いいよ?痛いの嫌だもん)」
リアは即答だった。剣士でも何でもないし、一応冒険者志望ってだけで今はほぼ貴族のお嬢様だもんな。俺様達3人は心を決めた。
「覚悟が決まったようじゃな、いい目だ。では……、いくぞ!」
一瞬で間合いを詰めてくるレイハに、俺様は再び全身の発光をお見舞いした。が、それは無駄なようだ。なんと相手は目を瞑ったままこちらに斬りかかってきている。
ならばとデコトラレーザーを乱射するが、あろう事かそのレーザーがねじ曲がって刀に吸い込まれていく。やべぇなDPを吸い取られるってのは本当みたいだ。【だから本当だと言ってるだろ】
だが、相手はデコトラレーザーが飛んでくるのを意識したのか、ほんの僅か動きが鈍って回避行動をとろうとしかけていた。自分の光る刀がデコトラレーザーを吸い込んだというのは意図的なものではなかったようで、そこに一瞬の隙が生まれた。
「今だ!」
俺様は【ガイドさん】の指示通り今度はデコトラミサイルをレイハとの間の地面に撃ち込んだ。
これは攻撃のためではなかったので、明らかに外れると見切ったレイハは何もしない。小さな爆発により土煙が舞い上がって俺様達の姿が皆の眼から隠れる。
「目眩ましのつもりか? だが無駄……なんだこの存在感は。何かを召喚したのか?」
俺様は煙の中でデコトラの姿に戻っていた。ケイトさんのいる馬車は後部ハッチを開けて収納させる。
運転席には既にリアが座っており、威嚇するようにアクセルを空ぶかししている。
「何が起こった……、何かを召喚したのか?」
レイハは相手がいきなり巨大な何かに変わった事に戸惑っているようだ。明らかに攻めあぐねてこちらの動きをじっと見ている。
「良し!今だリア!」
「おほほほほほほほほ!」
デコトラに乗った俺様達はレイハめがけて突っ込んだ。煙を突き破って出てきた俺様の巨体にはさすがのレイハも驚いたようで、慌ててその場から身を引く。
「うゎっ!何じゃこいつは!」
「どけどけー!
「おほほほほおほほほ!!」
俺様は思い切り体中の電飾を発光させ、クラクションを鳴らして前方の人々を威嚇し、道を開けさせる。
それでもどかない連中は申し訳ないが『スキル:
眼の前には逃げ遅れた村人が何人もいるけど、リアは一切ためらわずアクセルベタ踏みするんだよな。
村ぐるみで俺様達を捕らえようとするからには、多少の事は目をつむってもらおう。
「ひどい……、どうしてこんな事に」
「い、いやおい待て!傷が治っていくぞ!?幻か何かだったのか?」
「わからぬ……、それにしては実体もあったし、明らかに皆一度は死んでおる者もおった。……ふむ、面白い」
村を脱出した俺様達はどんどん街道を進む、後を追われたりしたくないからね……。
「あああああ、どうしてこんな事に」
「色々と巡り合わせが悪かったと思うべきなのでしょうか。情報収集と換金をしたかっただけなのですが」
「まぁでも、良いんじゃない?次の街の場所もわかったし、お金も手に入ったんだもの」
俺とケイトさんが内心頭抱えてるのに対し、リアは結構平然としたものだった。
俺様が走り抜けた後の村は死屍累々なんだろうなぁ……。すぐ治るとはいえあれどうにかならんものだろうか、俺様行く先々で人を撥ね殺すとか嫌だよ?
それでもこの速度に追いつくものはなく順調に進み、ある程度村を離れたのでちょっとゆっくり走る事にした。とにかく落ち着きたいのだ。
するとコンコン、と誰かが上の方からフロントガラスを叩いていた。誰だよ、俺様今落ち込んでるんだけど……。車外から?
「おい」
ぎゃああああああ! さっきのレイハとかいう少女がいつの間にやらキャビンの屋根から車内を覗き込んでいた! あの速度を追いついたのか……?
冗談じゃない。殺人ロボに追われる映画じゃあるまいし付きまとわれ続ける覚えは無いんだけど!
「おーい、ウチもちょっと乗せてくれー、あーけーろー」
怖い! まだ日も高いのに怪談みたいなノリだよ! なにこれ怖すぎる!
【ご案内します。相手の声を分析したところ、敵意は無いものと思われます。中に入れてはどうでしょうか】
ガイドさんはそういうと、助手席側の窓を開けちゃった。そこからレイハが体操選手のように器用な身のこなしで車内に入って来る……。
「おおっ!? 面妖な、なんじゃこの部屋は。中で立つと走っておる感覚が消えた」
入ってきたレイハは、キャビンの中が貴族の部屋のようになってるとは思わなかったらしく、目を丸くしていた。
室内は重力制御か何かしらないけど走ってる感覚が消えるからな。特に暴れまわる気配無いのは助かるけど。
「あ、あのー。まだ続けるんですか?」
「ん? いや、お主自身はどうも戦う力は持っておらぬだろう。そのままでは戦ってもつまらんからもう止めだ。
というか何なんじゃこれは。馬に引かせてもおらんのに勝手に走りよる馬車か?」
「これ馬車じゃなくて、デコトラだよ?」
「む、これもデコトラだったのか。いやしかし凄いものだな、実際に見るのは初めてだが」
「すごいでしょー、へへー。後ろは私の部屋になってるんだよー」
「おおっ、この部屋と同じく貴族の部屋のようじゃな。まるで走る屋敷じゃ」
リアはレイハと妙に打ち解けてしまっている。敵対する様子が無いとはいえ、この物怖じのしなさはたまに怖いよ。運転席後方のドアを開けて貨物室内の自室に案内までしてるし。
「あのー、ところでレイハ、様でしたでしょうか?どうしてこちらに?」
あまりに自然に会話をしてるけど、そういえば何しに来たんだこの子、ケイトさんがおそるおそる尋ねる。
「うん?いや特に何をしたいわけでも? ちょっとこいつの中を見てみたかっただけじゃが。
このように面白そうなものを見逃す手はあるまい?」
本当に好奇心だけで見に来たようだ。この世界では異物のようなものだろうによく乗り込んでくるものだ。
「ところで、お主達あの村で一体何をやらかしたんじゃ?」
「何をって、お肉を買い取ってもらって、冒険者ギルドのあるような街の話を聞いただけだよ?」
「うん? さっきもそんな事で揉めておったな、どういう事じゃ」
リアは盗賊だかに襲われていた馬車の事や、その馬車に乗っていた人達があの村まで来ており、馬車を襲おうとしたというのは誤解だとレイハに説明し、一応は納得してもらえたようだ。
「なるほど、のぉ。しかし何だってまた冒険者ギルドに? お主どう見ても貴族のお姫様じゃろうに」
「色々あって、とにかく冒険者になろうかな、って思って」
そこは説明ざっくりし過ぎだろ。
「うーむ、お主達は色々と危うい、この先騒動を起こさない為にもウチが同行しようか? これでもB級冒険者じゃぞ」
「は、はぁ、お嬢様も私もその辺りのところはわからない事が多いので助かりますが……。
ところで先程の発言で気になっていたのですが、レイハ様はデコトラをご存じなのですか?」
「ああ、『デコトラ聖女』なるものがこの大陸を走り回ってるそうでな、てっきりそれかと思ったが違うようじゃな」
「デコトラ聖女ぉ!?」
「うおっ!? 何じゃ今の声は!?」
あ、しまった。ややこしくなるから黙ってたけどうっかり叫んでレイハに気づかれてしまった。
次回、第30話「悪役令嬢トデコトラ、街ニ到着ス」
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