第82話「悪役令嬢、変身ス」
「何これ、魔物の討伐とかがほとんど無いんだけど」
「普通、多少なりともあるものなんじゃがなぁ」
俺様達が帝都冒険者ギルドの依頼掲示板で見たものは大量の依頼だった。
しかし大量ではあったのだがその内容が物凄く偏っていた。
レイハの言う通り魔物絡みの依頼がほとんど無い、よくある迷宮の討伐依頼、ゴブリン等の人に害を与える亜人や動物系の魔物の討伐、そういったものが全くといって無いのだ。
「あー、それは俺達もちょっと困ってるんだわ、見たまんま魔物関連の依頼がほとんど無い」
「どうもここ最近、軍が全て持っていってしまうのですよ」
フェルドとマクシミリアンが後ろから説明してくれた、彼等が言うにはそういった仕事や依頼は軍が訓練として皆持っていってしまうのだそうだ。
迷宮すらも軍が貸し切りで使用しているので入る事すらできないとか。
「何故にそんな事をしておるのじゃ、そういえばこの街に入る時にもやたらと軍の姿を見たが……」
「その軍の人員を増やそうとしてるんだとさ、訓練が追いつかないので冒険者と同じ依頼をこなさせて代わりとしてるそうですよ、おかげで私達の方は商売上がったりですが」
なるほど、マクシミリアンの説明でわかった。この冒険者ギルドには妙に冒険者が少ないのだ、普通これだけ大きな街なら相応に人数がいてもおかしくない。
掲示されている依頼はというと、『ボディーガード』やら『人探し』やら『迷子の猫さがし』といった細々したものばかりなのだ。
中にはパン屋の仕込み手伝い、町中の
「それでも冒険者は仕事を求めて来るもんだからな、ついには街中の雑用まで貼り出されるようになってしまったってわけだ」
「我々も国に戻る途中で寄ったのですがね、まさかこのような状況になっているとは思いませんでしたよ」
フェルド達も旅費を求めてここに来たのは良いが、内容が内容なだけに安全なので報酬が安い仕事しか無いので困っていたのだという。
「この辺の依頼は報酬も高いんだが、貴族絡みのが多いんだよなぁ」
「え? どうして貴族絡みだといけないの?」「あ、いや」
リアの疑問にフェルドが口ごもる、貴族に何か思う所でもあるのか?
「んじゃこれにする」
「相変わらず即決じゃなお主は」
リアはとある依頼を迷う事無く手に取った。レイハがあきれるが、その依頼はこの中ではかなり高額の報酬が見込めるものだった。
「おい、それも貴族絡みだぞ」
「まぁこのお嬢さんなら大丈夫かもですが」
フェルド達が言うように、その依頼には様々な条件が書かれており、その中には『貴族の礼儀を
つまり、貴族と面と向かって対話する事もありえる仕事という事になる、そりゃこれだけの高額依頼なのに普通の冒険者では受ける事になるので残っているわな。
「この人知りませんかー?」
「知らないねぇ」
「この者を見た事は無いかのう?」
「あー、もっとちゃんとした似顔絵じゃないとなぁ。特徴が無さ過ぎるぜ」
翌日、依頼を受けた俺様達は街で聞き込みを始めた、依頼内容は要は人探しだった。
『この似顔絵の人物を探すのだ』
と渡された紙に書かれていたのだが、その似顔絵の人物がどうにも特徴が無さ過ぎて、探すのに苦労しそうだった。
『この人どういう人なの?名前は?』
『それをお前らが知る必要は無い、言われた通りに黙って探せば良いのだ』
応対した相手は貴族が直接ではなくその家の執事らしいのだが無茶苦茶傲慢な態度だった。
一応レイハが受けた事にしたので、リアは貴族としての礼儀担当としての同行人という事にしたのだが、
意外にもレイハも貴族の前に出るのには問題ないくらいの作法を少々風変わりではあるが身に付けていた。
とはいえ東洋人風の冒険者と、いかにも貴族のお嬢様という冗談みたいな組み合わせが依頼を受けに来たのであっては、
悪戯か悪ふざけで依頼を受けたと思われたのかも知れない。俺様でも悪ふざけとしか思えんもんな。
「うーん、見つからないねぇ」
「この似顔絵ではな……、いくら何でも特徴無さ過ぎじゃわい、せめて名前くらい教えろと。む、この耳飾りはなかなか」
「えー?どれー?」
探し回っていてもなかなか見つからないので、ついついウィンドウショッピング巡りになってしまっている。
以前も思ったがレイハの方が帝都の様々な商品に目を奪われる事が多く、リアはそれに興味を示す事が多い、そういえばリアの好きなものって何なんだろうな?
そして、帝都の繁華街ともなるとやはり治安の悪い所があるもので……。
「てめぇ!大人しく有り金置いて行けや!」
「お、お断りします!」
「おいおいおい、この人数が目に入らないのか?」
有りがちな事ではあるが、誰かが絡まれていた。問題はその絡んでいる人数だ、どう見ても20人はいる。
「誰か絡まれてるねー。助けに行く?」
「いやちょっと待て、こういう所では顔を晒さないほうが良いぞ。あの人数だと逃げられて後々厄介な事になる」
「リア、レイハの言う事もわかる。ドレスアーマーでも身につけて身元を隠した方が良い」
「待て、ドレスアーマーもいずれ冒険者と身元がわかってしまう、完全に姿は変えられんのか?」
【ご案内いたします、それでは―――】
「ちょっと待ちな!!」
「何だお前は!……いや本当に何だお前は!?」
「俺は、デコトライダーだ!」
うむ、人助けをする等身大のヒーローならこの名前だよな。だよな?
次回、第83話「帝都ノ盗賊団」
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