第83話「帝都ノ盗賊団」

「何だお前は! ……いや本当に何だお前は!?」

「俺は、デコトライダーだ!」


繁華街で金を脅し取ろうとしていた悪党?達に格好良く名乗りを挙げた俺様は、リアが本来装着するアーマードレス”だけ”の状態で実体化していた、つまり中身は空っぽだ。リアはちょっと遠くで見ている。

基本的なデザインは元々デコトラ風のアーマードレスから引き継いでいるが、全身の意匠は俺様に合わせてスカートも無く男物の鎧姿となっている。

頭部の兜にはゴーグルを通して光る目が相手を睨み、漆黒のボディにステンレス調の装飾も眩しい。

さらには全身をマーカーランプの光が覆っているので、まるで光った騎士に見えるはずだ。

人助けをするからには、これくらい派手な方が良いだろうしな!

名前はデコトライガーと少々紛らわしいが、俺様の獣形態をそう呼んでいるだけなので気にしない事にする。


「いやライダー、とか言われても、お前別に馬も何も連れてないただの騎士か何かだろう、そんな名前を名乗る必要あるか?」

その名前に突っ込まれってしまった、それを言われると弱い。とはいえ前世で見たライダーもだいたいはその辺を歩いて行動してたからな。

しまったぜ、バイクでも乗って登場させるべきだったか?いやこの世界ではバイクが理解されないので意味ないな。

おっと、軽く凹んでいる場合ではない、折角出てきたのだから人助けをしないとな。


「見た所、大勢で寄ってたかって金を奪おうとしていたようだが、ちと無法に過ぎるのではないか?ここは天下の帝都だぞ?」

喋り方はこんなもので良いのか?そもそもライダーの番組とか車内TVとかでちょっとしか見た事ないのでどうしようも無いんだが。

妙に時代がかった喋り方になっているかも知れないが、リアの身元から目をそらせるにはこれくらいで良いだろう。


「お前どこの田舎者だよ、妙に古臭い話し方しやがって。帝都に来たからって浮かれてるのか?この数で敵うと思ってるのかよ! おいみんな! まずはこいつからだ!」

うーむ、やはり少々古い話し方だったようだ、まぁこのままのキャラで行くか。相手はというと覆面したのやら武器を持ったのやら20人程いるし、あれこれ考えるのは後にしよう。

俺様は立ったままの状態で、真っ先にナイフで突いてきたさっきの男の攻撃を、地面を滑るように移動して避けた。

そもそも俺様はまだ満足に二本足で歩けないのだ。それに対して【ガイドさん】が出した対案がスキルによる移動だった。

今の俺様はほんの1cmほど浮いている、【スキル:空中浮遊 LV.1】という能力だ。レベル1というだけあってほんの僅か浮くだけだが、それを俺様の【スキル:念動力】で動かしてるわけだ。


「この! このっ! 何なんだよお前は!」

「フハハハハハ、それだけかね?そのようなもので俺を倒せると思っているのか!?」

ひょいひょいと避けるのがだんだん楽しくなってきたな。

「くそっ、ちょこまかと! おい、全員でかかれ!」

おっと、さすがに多人数に一斉にかかられるとまずいな。俺様は【ガイドさん】の誘導も交えて対応する。

ゆらりゆらり、すーいと緩急を付けて地面を滑るように動いて攻撃を避ける、うむ、快調だな。


「気持ち悪っ」

「見かけも避け方も最悪じゃな、悪の組織か何かの幹部とか思われても仕方ないぞあれは」

ちょっと離れた所から見ているであろう、リアとレイハの声が聞こえた気がしたが、気にしない事にする。


「気持ち悪い避け方しやがって……、おい囲め! 一気に畳んじまえ!」

うおーと、20人くらいが俺様を輪のように囲んだ、これで追い詰めたつもりらしい。一斉に俺様に向かって得物を振り上げて襲いかかって来る。だがそんなものは無意味だ。


「デコトラフラーッシュ!」

俺様は両手を身体の前でクロスさせると、全身のマーカーランプを最大光量で発光させた。熱は発生しないので攻撃にはならないが、強烈な光は目くらましには十分だ。

全員が俺様を見ていたので効果は絶大で、皆目を押さえて苦しんでいる。


「目が、目がー!」

「あやつ、見境無しか、ちょっとは加減しろ!」

あ、リアやレイハもダメージ受けてた、あとで謝っておこう。


「【ガイドさん】、電撃端子装備」

俺様は腕に装備した電撃端子で苦しんでいる悪党どもの意識を刈り取っていった。避ける事もできず皆どんどん倒れていく。

が、さすがに数が多いので端の方の奴が逃げ始めた。

「逃がすかっ、来い! ライドデコトラン!」

俺様はすかさず愛機にまたがり追いかける。またがってるのはいつものデコトライガーなんだがな。

名前はあれだ、デコトライダーと紛らわしいので今適当に付けた。

またがった方の身体を下半身となっているデコトライガーに固定し安定するようになった、これで速度も出せるぜ。

「待ちやがれー!」


「ぎゃああああ! なんだこいつは!」

「鉄の……、魔物に、またがってる!?」

「何なんだよこいつは! 散れ! 固まっていたら一網打尽だ!」

うーむ、この姿は必要以上に怖がられている気がするが何故だ? そんなに怖いかなこれ、あ! バラけやがった!


仕方ない、とりあえず1人だけでも取り押さえるか!と思ってると軽装ながら鎧を来た街の衛兵が出てきた。

「あ!おいこいつだ!こいつを取り押さえてくれ!」

とか言ったのに衛兵たちは何故か俺様を取り囲んでくる。どうして?あ!逃げられた!


「おい! なんで俺の方を捕まえようとするんだよ! 俺は怪しいものじゃねぇよ!」

「何を言うか! どこからどう見てもお前の方が怪しいだろうが!」

え? そう? 俺様の格好、そんな変かな?

【ご案内します、かなり。】


「貴様、ここ最近帝都を荒らし回っている盗賊団の一味だな、もう逃げられんぞ」

「はぁ!? そんなの知らんぞ、俺はむしろ捕まえようとしていたんだが」

「言い訳なら詰め所で聞く、捕らえろ!」

なんだかわからんが捕まるわけにはいかん!俺様は下半身となっているデコトライガーの脚部を2つの車輪に変形させた。

やっぱりライダーはバイクに乗ってこそだよな!俺様は車輪をホイールスピンさせて一気に加速し、帝都の街を駆け抜けて逃げた。

【ご案内します。良い感じに言っていますが、不審者に間違われて逃げているだけですからね?】

【ガイドさん】の突っ込みが心に刺さるぜ、ともあれ俺様は車輪に変形させた脚を元に戻し、ジャンプして周辺の建物の屋上へと上がった。屋根伝いならリア達の所にまで安全に戻れるだろう。


「やぁやぁお嬢さん達、無事だったかね?」

「じゃばば、その話し方何?」

「何と言われても、この格好にふさわしい話し方をしているだけだが?」

リアと合流した俺様だったが、そのリアは俺様の話し方にご不満なようだ。

「お前がそういう話し方してると気持ち悪いからやめい、まったく次から次へと」

レイハにまで文句を言われた、まったく俺様は罪な男だぜHAHAHA。


「まぁ良いじゃないか、今回は人助けできたんだから」

「じゃばばー、それがそうでもないのよ。あの衛兵さん達がやってきて、あの強盗さん達を捕まえようとしたんだけどね、皆逃げられたの」

「何ー! せっかく気絶させたのに何やってるんだよ」

「仕方なかろう、突然別の男がやってきて、全員させてしもうたんじゃから。あまりに突然でウチも反応が遅れたわい」

レイハも対応出来なかったって相当だな、だが問題はそこだけじゃないようだ。


「そんな事より、そのやってきた男の人が、今探そうとしてる似顔絵の人と同じなの」


次回、第84話「悪役令嬢ト”成りすまし”」

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