第84話「悪役令嬢ト”成りすまし”」

『帝都 ニ 怪人 出現ス』

『強盗団 ヲ 率イ 都民 ヲ 恐怖 二 オトシイレル』

『怪人 巨大ナ鋼ノ獣ニ乗リ 現レ、帝都ヲ 蹂躙 ス』



「おいジャバウォック、お主新聞でこんな事言われとるぞ」

「ふっ、心配は無用だご令嬢、正義を為すためには必要な犠牲なのだよ」

「その話し方やめいというに」

俺様達は宿屋の部屋でレイハが買い込んできた新聞をチェックしている。

一夜明けて、新聞各紙は俺様の話題で持ち切りだった。


俺様の活躍は新聞各紙を賑わせているようだ。とはいえその中身はというと、強盗団の一斉摘発失敗は衛兵たちに責任は無く、俺様がそれを邪魔というか引っ掻き回した怪人という事になっている。まったく俺様も罪なデコトラだぜ。

俺様はデコトライダーの姿が妙に気に入ったので、今もその姿で動く練習をしている。このポーズとか格好良いかな?ふんっ、ふんっ。

「じゃばばが変な遊びを覚えた……」

「リア、もうそのアホは放っておけ、付き合い切れんわ。とはいえこの記事も色々と不審な点があるのう、どうも事実と色々食い違っておる」

「ねー、これなんか『月を背にして高笑いする怪人』って挿絵まであるけど、あれ真昼間の事だったよね?」

言いたい放題言われてるが、つい昨日、俺様達は強盗団を正義の名の下にたたき伏せたのだ。とはいえ残念ながらそいつらには逃げられてしまったが。

なんとその逃げた原因というのが、俺様達が依頼を受けて探していた人物によく似ていた男なのだ。


「しかし、どうも報道が色々とおかしい、時刻にしろ盗賊団の人数にしろ、そもそも被害者の年恰好にしろ食い違いが多すぎる」

「新聞なんてそんなものじゃないの? 真に受けるほうがおかしいよ」

「お主もその年齢で冷めた事言いよるな。いくら何でもこの食い違いは多すぎるだろうといっておる。

 書いてある事を全部まとめてもあの時起こっていた強盗事件の概要すら掴めんのじゃ。共通しておるのはジャバウォックが現場を引っ搔き回したという所じゃし」


「引っ搔き回したとは心外だな、俺は正義の名の下に悪党どもを成敗したのだ。だいたい気絶させて捕まえやすくさせたというのに何故逃げられるのだ、失態は衛兵達の方だろう!」

「あーもうそろそろイラっとしてきた。リア、こやつをネックレスにでもしてくれ」

「はーい、ジャバウォック、ネックレスになって」

あ!ちょっと待って!俺様気分よく正義の味方気分を味わってたのに!


「よし、これで少々耳障りかもしれんが目障りでは無くなった」

「おーい!俺様だってストレス発散しても良いだろう!? ずっとデコトラの姿で走れてないんだぞ! これは深刻なデコトラ権侵害だー!」

「なんじゃデコトラ権というのは……」

「デコトラが生まれ持つ、健康で文化的な生活を営む為の最低限の権利だー!」

「けん、り……?」

【ご案内します。人権というのはもう数百年程しないと出てこない概念ですので、この場合無視した方が話が進むと思われます。現状はただ鬱陶しいだけですので】

【ガイドさん】までー!



「リア、この記事を見てどう思う?」

「どうも意図的に何かを隠そうとしている、気がするなぁ」

レイハもリアも昨日の盗賊団の情報を集めようと新聞を読み込んで分析している。レイハはともかく、リアもこれで結構鋭い所あるのよね。

「やはりリアもそう思うか。あの強盗事件、単なる金品目当ての犯罪では無かったのかも知れぬ」

「えー? でもあの被害者の人って、衛兵さん達が来たら真っ先に逃げちゃったし」

「そこがおかしい、被害に遭ったのだから堂々と衛兵に報告すれば良いだけであろう、何故逃げる必要がある」

そのへんの顛末は俺様知らないのよね、逃げた奴らを追ってたから。そういえばやって来たという「似顔絵の男」も実際には見てないんだよなぁ。


「被害に遭った人も、何か衛兵さんに捕まるような事をしてた……?」

「あくまで可能性じゃし、現状ウチらが受けている依頼とは別件、と思うんじゃがなぁ。

ひとまず中間報告という事であの貴族に報告してみて様子を見るか」

俺様達は単なる人さがしと思ってた上に、昨日の強盗事件も単なる人助けのつもりだったのによくわからない事になっちゃったなぁ。



さて、やって来たのはこないだの貴族屋敷。どうせまたあの嫌味な執事だかが相手するんだろうな、と思っていたのだが、

レイハが似顔絵と新聞を前に「強盗団の中にそれらしい人物がいた、見間違いかも知れぬが確認したい、心当たりは無いか?」と言うと執事の顔色が変わった。

俺様達に少し待てと席を外すと、妙に偉そうなおっさんを連れて戻って来た。


「この男を見たのか」

さすが貴族、名乗りもせずに言いたい事だけを言うぜ。

こっちの名前を聞かれているわけでもないので「名前を聞くならそちらが先に名乗れ」というお決まりのセリフも使えない。

「見た、事情は知らぬが盗賊団の仲間だったぞ。仲間を逃がすと姿を消したので行方は知らぬ。もう少し詳しい情報が欲しい、このままでは盗賊団と事を構える可能性もあるでな」

レイハの口ぶりは相手が貴族だからと言って全く怯んでいない、逆に実際の年齢に似合わぬ貫禄すら感じさせ、逆に相手の貴族の方が気圧されてすらいる。


「む、そうか。だがこちらも事情があるのでな」

「その事情というのは強盗事件と関係があるのか?何故隠す?ウチらは場合によっては命の危険もあるのでな、事と次第によっては依頼を断らせてもらう」

「む……」

「もう一つ、何故昨日のこの事件を隠す?新聞各社に圧力をかけたな?何故だ?」

「いやそれは知らぬ、それこそお主らには何も関係無い事だろう」

この貴族、明らかに何かを隠している。事情を話すとまずい事でもあるのかなぁ?そう思ってたら、レイハがこっちに目配せして来た。え?何?


「いや、あの新聞記事は思い切りウチらにも関係しておる。ちょっととある人物を呼び出させてもらうぞ。リア」

「あー、おっけー。それじゃ呼び出すねー。なーむなむなむかもんかもん、デコトライダー召喚!」

いやリアさんそれ召喚魔法の呪文のつもり? まぁ呼ばれたなら仕方ないかなぁ! 俺様はネックレスを意味ありげに光らせてデコトライダーの姿としてリア達の側に出現した。ついでにデコトライガーも側に置いておく。


「ふははははははは! 私を呼んだかねお嬢様方。愛と正義の守護者、帝都を影から護るデコトライダー、ここに参上ッ!」

「おおー!」

リアさんがパチパチと拍手してくれて俺様も気分が良い。あ、レイハの方は後でデコピンされる顔だ。


「な、何だお前は!」

「何だと言われても困る、私がその新聞記事にも出ている、愛と!勇気と!正義の戦士!デコトライダーだ!!」

「おおー、勇気が増えた……」

「これ放って置くとどんどん長くなる奴じゃな……。見ての通り、お主が新聞で好き放題書かせたデコトライダーはウチらの仲間じゃ、非常に迷惑しておる。

 このままではこやつは街も歩けぬ、あること無いこと書かれたので帝都を騒がす怪人扱いじゃからな」

「そうだそうだ私は非常に迷惑しているぞ、ふははははははは!」

「いやどう見ても怪人だぞこいつは……」

何故か貴族のおっさんが立ち上がり、俺様から距離を取って壁際にじりじりと移動している。何故逃げる、俺様は愛と正義と勇気と友情の戦士だぞ。

俺様じりじりと壁へ追い詰める、何を怖がるニンゲン、オレサマ正しいセイギノミカタ。

「やめんか、お主もリアに似てきたの。話が進まんから大人しくしておれ」

レイハに凄まれて仕方なく俺様はレイハ達の後ろに控える事にした。


「い、いったいそこの男? と、どういう関係なのだ?」

「えっと、じゃ、いや、デコトライダーとは冒険者仲間なの」

リアの答えに貴族のおっさんは納得行かなそうな感じではあるが、一応俺様達は冒険者という事で依頼を受けてるからな。

納得行かなそうなのはリアが思い切りドレス着てて冒険者に見えないからだろう。多分そうだ。

「まぁこやつの格好は気にするな、ほれウチの登録証。B級冒険者のレイハじゃ、こっちはC級冒険者のリーリア、後ろのは単なる冒険者志望なので厳密には冒険者ではない」

俺様ただのおまけ扱い、寂しい。


「び、B級?ずいぶんと高ランクな冒険者だったのだな、それにそちらの令嬢も、C級なのか、その、格好で?」

訝しげに俺様達を見てるけどそんな変かなぁ? 東洋風の戦士に貴族風の令嬢、デコトラ鎧姿の俺様というごく無難な組み合わせだというのに。

【ご案内します。冷静に自分達を見つめて下さい、変しかありません】

解せぬ。


「わかった、単に報酬目的の冒険者と思いランクを確認していなかったのは失礼した。改めて名乗らせてもらおう。私はエルンスト・フィッシャー子爵だ。これから話す事は内密にして欲しい」

「うむ、ギルドにも報告はせぬ。あくまで依頼は人探しじゃからな」

子爵は一応納得したのか、執事に何か合図をした。


しばらくして、執事が誰かを連れて戻って来た。その顔を見てレイハとリアが驚いた。

「おい、ここに本人がいるなら何故わざわざ人探しの依頼を出したんだ、いや、似顔絵とも違うのか?」

「似顔絵とは似てないねー。盗賊団と逃げた人は似顔絵そっくりだったけど。もしかして兄弟かだれか?」

そう、登場した人はたしかに似顔絵の人物に似ていた、あいにく俺様は逃げた方の人物は見てないんだよな。


「お前たちに探してもらったのは、この儂の息子ではない、姿を複製した『成りすまし』だ」

「「『成りすまし』……?」」

「私の名はクリスティアン・フィッシャーだ、騎士団では小隊長を務めている。父が言うように姿を奪われて一週間になる」

子爵の息子だというクリスティアンは、騎士団で小隊長を務めるだけあってなかなかのイケメンだった。あんまり父親には似てないが。


「姿を奪われたと言うとるが、並べればわかるくらいには別人と言えるぞ?何があったかは知らぬが、騒ぐような事でもないのでは?」

「いや、奪われたというのは少し違う、”奪われ続けている”と言うべきか、実は息子の容貌は変わっていって少しずつ息子でなくなっていっているのだ」

「父の言う通りだ、自分の顔の変化は自分が一番わかる。反面、目撃されている私の『成りすまし』は少しずつ私の顔に似てきている」

レイハの疑問に親子で応えてくれるのはいいが、今度は内容がホラーじみてきた。顔を少しずつ奪われるってなんだそれ怖い。


次回、第85話「悪役令嬢ト教団」

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