第85話「悪役令嬢ト教団」
「事の発端は、とある宗教団体の摘発だったのだ」
子爵の息子、クリスティアン・フィッシャーは”姿を奪われた”という原因となった事件の原因を話し始めた。
騎士団で小隊長を務めている事もあり、その日の教団制圧任務の指揮を一部任されていたのだと言う。
「その教団は違法な薬物を売買していてな、何人も犠牲者が出ていて国もさすがに見過ごしてはおけないと摘発に踏み切ったのだ」
摘発された教団はいわゆる新興宗教というやつで、土着の宗教とも大陸広く信仰されている光翼教とも違うそうだ。
普通であれば何を祈ってようが拝んでいようが放置するのだが、今回は実害が出てしまっているのだという。その薬物にレイハが強い反応を示した。
「おい、その薬物の事を詳しく聞かせろ!」
「何だ突然、まぁ発端はそれだから話してもかまわぬか。その違法薬物というのは爆発的に魔力を増大させるのだが、常用すると性格が変わったようになったりして暴れまわったりする」
「その薬物だ!魔王薬とでも呼ばれておらぬか?」
レイハの食いつきが半端ない、聞き覚えの無い名前であったが、クリスティアンは納得したようだ。
「知っていたのか、その通りだ。流通の経緯を調べたら、宮廷魔術団の入団試験でその薬物を使用し不正に合格した者が何人も発覚してな、魔力事故らしきものも発生しているので放置しておけるものではなくなったのだ」
「その者たちはどうなった?『
レイハが食い気味に質問する、一刻を争うかのような勢いだった。
「ゲート?いや、性格が変わったようになった所までだが、常飲している者は少なかったとは聞いている」
「使用量が少ない……?この国の魔法使いの地位はそれほど高くないという事か?いやこの場合助かったが」
レイハは何かに納得したようだ、ふむふむとうなずいているが俺様には状況がわからん。リアも首をかしげている。
「それに近いな、この国は古代デコトラ文明の技術で様々な技術を発達させているので、宮廷デコトラ技術団の方がはるかに力が強い。
とはいえ、西のグランロッシュ王国のような魔法大国もある以上、全く何もしないわけにはいかない。なのでそれなりに技術を研究させたりはしているがな」
なんか変な名前の部署が出てきた……、やってる事はだいたい想像つくけど俺様関わりたくないぞおい。
「グランロッシュ王国でそれが使われたら厄介じゃな……、話の腰を折ってすまなんだ。今はそれを心配しても詮無いゆえ先を続けて欲しい」
「う、うむ。その教団は放棄された教会であたかも普通の光翼教のように装って活動していたが、そこを踏み込んだというわけだ。
全員摘発して連行しようとした時、教祖が私に『呪い』をかけてな、あの時の気分は今も忘れんよ、私の隣に突然『別人の私』が現れたのだ」
クリスティアンが言うには、その時に自分の側に現れたのは、自分とは似ても似つかないのに確かに自分とわかる存在だったそうだ。
まるで自分の手の複製を見た時、多少形が違っていたり手のシワが違っていようがそれは間違いなく自分の手だと確信するかのような。
「教祖はその呪いをかけた後服毒自殺してしまい、どのような呪いかの詳細はわからんのだ。実際、魔法によるものでは無いらしい」
「で、姿を奪われて行ってる、っていうのはどういう事なの?」
リアはそろそろ魔王薬だのの話に飽きてきたらしい、ダイレクトに話の流れを変えやがった。
「息子の顔や姿だ、任務を終えた次の日、顔を見るとどうも違うのだ。どこがどうとは言えないのだが、どことなく違和感があるような、それが日に日に強くなっていく」
「それは私も同感だ、鏡を見るたびに自分の顔でなくなって行くのがわかる。近頃は手や足の形にすら違和感が出てきているんだ、こんな事が続くと、私は私でいられなくなるのかも知れない」
父親と息子では毎日顔を合わせてるから変化がわかるんだろう。しかし鏡を見るたびに自分が自分で無くなっていく、割と洒落にならない呪いだ。
「
「そうしたい所なんだが、そもそも呪いですらないこれを公にできんよ、貴族としての弱みにつながりかねん。なので冒険者ギルドでの人探しとして依頼させたのだ」
「少々まわりくどい気もするが……」
レイハが”成りすまし”の捜索を冒険者任せにして公にしなかった事に疑問を投げかけた。が、答えは貴族の体面を守るという為のものだった。
おそらくその辺の感覚は貴族でないとわからないのだろうな。レイハもそれ以上は追求しなかった。
「本題はここからだ、このような事になってから調べたのだがな、どうも国内でも同じように姿を奪われた貴族が存在するらしい。
完全に姿を奪われた時、その”成りすまし”が本物のように存在を乗っ取って普通に生活するようになるとか」
「薄気味悪い話じゃな……。何人くらいかはわからないか?」
「わからぬ、他の者も同じく成り変わられたという事を隠そうとしているのでは、はっきりとした人数まではわからん」
子爵は自分達だけの問題ではないのだと言いつつも、それが国の上層部にまで及んでいるかも知れないと不安を覗かせる。
これって地味にどころか物凄くまずくないか?国を支配する層がどんどん別人に入れ替わっているわけだし。
「この一件、何者かが仕組んでいる事、なのかのぅ。魔王薬といい、誰かが広めておるはずじゃからな」
「誰が……?」
「その踏み込まれた教団、かのぅ。ちなみにその教団は何という名なのじゃ?」
「デコトラ教団、そう名乗っておりましたな。失われし過去のデコトラの栄光を取り戻し、共に至高のデコトラに至るのが教義とか何とか」
俺様、帰って良いかな?
次回、第86話「悪役令嬢ト潜入」
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