第80話「レイハノ冒険者登録」


「見えてきたぞ、あれがダルガヴォルフか……。ってやけにものものしいな」

「ダルガニア帝国は軍事国家ゆえ仕方ない所ではあるが、それでも兵が多いような気がするの」

俺様達は馬車を西へ西へと旅を続け、この大陸最大の国であるダルガニア帝国の首都に近づいていた。その街の規模はこの大陸最大というだけあって物凄いものだった。

都市中心部の市街地は石造りながら高層建築がいくつも立ち並び、その中央に位置する王城はというとまるで山のように巨大だったのだ。

そして街から少し離れた場所には、まるで街を守るかのように高い壁がそびえたっていた。

一行がものものしいと思ったのは壁の周辺に武装した軍隊が整然と並んでおり、壁を護っているにしては多すぎたのだ。


それでも近づくと都市の威容がよく見えてきた。壁の外側にも家々が何層も円環状に立ち並んでいる。

そびえ立っている建築物は全て石造りで、どう見ても石で積み上げただけで建造できるような建築物には見えない程高い。

「大きな街だねー」

「この大陸最大の都市じゃからな」

「よく石であんなの作れるなぁ」

【ご案内します。あれらの建築物には、デコトラ時代の技術が使われているようです。見かけ通りの構造ではありません】

そういや以前見たデコトラ文明の映像にも、これと同じような建物が出てた気がする。この帝国がデコトラの技術力を復活させているというのはこういう所にも現れているようだ。


「って事は、俺様は見つかるわけにはいかんよなぁ」

「あまり目立たぬ方が良いじゃろうな。お主にはデコトラとしての情報が満載じゃ、捕まったら何されるかわからんぞ」

「なにそれ怖い、僕悪いデコトラじゃないよ?ニンゲンどうして僕にひどい事をするの?」

「その僕というのやめい、何かイラっとくる」

「ひどい!僕、僕……」

「や!め!ろ!と言うておるのじゃ!」

レイハは馬車の中でデコトライガーとなっていた俺様をげしげしと蹴る、身長が高くなったせいで蹴りにくそうにしているな。

俺様の場を和ますためのジョークが通じないとは、レイハが俺様に対し辛辣なのはあまり変わらん。


「気落ちしているかと思いましたが、いつもと変わらないようですね。見た目が変わりすぎたのは驚きましたが」

「ルクレツィアいなくなっちゃったもんねぇ」

ケイトさんが言うようにレイハはなんだかんだとルクレツィアを気にかけていた。

彼女の素性からして宗教にかなり近いというか、日之本国で物凄い重要な立ち位置じゃなかろうかと思えるくらいだし、

聖女と呼ばれていたルクレツィアとは何だかんだ気のおけない仲間意識のようなものを感じていたはずだ。


とはいえ今のレイハの言動はアマテラス神の影響の為かやや達観したものの考え方をするようになっているのだが。

「人というのは、出会い別れの果てに、最後は土に埋もれて大地に還る。それは陽がいつかは沈むように自然な事じゃよ。

皆そのわずかな時間の中で、夢を語り夢を見て夢をつかもうと足掻く、それが人生というものじゃ。あやつとも輪廻の果てにどこかで逢えるだろうさ」

なんかどっかで聞いた事ある言葉だな……?どこだっけ?前世で妙に耳元で鳴ってたような。レイハってこんな事言うタイプだったっけ?アマテラス様の趣味なんだろうか。

思い出せないなー、ああ前世のオーナー。貴男の言葉も思い出せなくなってきた気がする。優しい瞳に何を学んだのだろう、わかんないなー。

【ご案内します。お前もわかってて言ってるだろ】


ダルガヴォルフを囲む壁には大きな門があり、入るための検問が行われていた。様々な人が順番待ちで並んでいる。

まぁ俺様達の場合はリアやレイハの冒険者登録証があるので問題無い……というわけにもいかないか。

「ウチの身分証明は……、ダメじゃろうなぁ」

「顔とか全然変わっちゃったもんねぇ」

「これだけ見た目が変わってしもうてはどうにもならんじゃろう、このカードは偽造できんからの。経緯を説明するだけでもややこしいし、ウチの国の機密にも色々と引っかかる」

レイハの持つ身分証に表示されている姿は、急激に成長する前のものなので、いくら何でも通用しそうに無い。

身長が伸びただけならまだしも、ほぼ別人だしな、普通に数年経てばこの見た目だったんだろうけど、数日だと怪しい事この上無い。仕方ないのでリアの身分証だけを提出して通る事になった。

「中に入ったらとりあえずこの都市の冒険者ギルドに行くとするか。まずはウチの冒険者登録からじゃ」

「最初に会った時とは逆だねー」



「上見てると首が痛くなるねー」

「リア様、都会に慣れてないの丸出しなので、そういう事はお控え下さい」

リアが見惚れるのも仕方ない、街並みの規模にふさわしく人の往来も多い。まさに都会と言うしかないもんな。

帝都の大通りは前世と同じように中央が馬車の走る道で、両脇が歩道になっている。とはいえはっきりとした境界があるわけでもない。両脇には様々な店や建物が並び賑わっている。

そういえばリアはこういう大きな街は初めて見るのかも知れない。テネブラエでは街を見るどころじゃなかったからな。

俺様達は適当な路地に馬車を進ませると、そこから徒歩に切り替えた。冒険者ギルドの前に馬車を残したりとかだと色々とややこしいとのレイハの助言からだ。

一応認識阻害させた上で馬車を消しが、念の為レイハにも周辺を警戒してもらった。


「大きな街だねー」

「ですからリア様、はしたないのでおやめ下さい」

無邪気に街を見物するリア、それを諌めるメイドのケイトさんに周囲の目も生暖かい。

引き連れているのは東方人の美女剣士という事で、まぁどこかの地方の貴族のお嬢様と見てくれるだろう。いや貴族のお嬢様なんだけどな?

リアもレイハも店のショーウィンドウの中を興味深げに覗き込んでいた。

以外かも知れないがリアはあまり物欲というものが無い、元々貴族としてそれなりに恵まれた生活をしていた上に勉強漬けだったからな。

むしろレイハの方がそういったものに対しては興味が強いようだ。時折自分の手持ちと比較して買えないかというくらいだ。

「ふむ、なかなか良い仕立てじゃな、いやしかし今のウチでは……」

「あー、レイハってそういうの好きなんだー」


微笑ましい光景ではあるが、これではいつまで経っても冒険者ギルドに辿り着けんな。

「ケイトさん、頼むわ」

「かしこまりました、リア様、レイハ様、この街にはどうせしばらく逗留するのでしょう、まずは用事を済ませるだけ済ませても良いのではありませんか?」

と、未練たっぷりな2人を説得して俺様達は冒険者ギルドに向かった。


冒険者ギルドもまた大きな建物だった、帝国様式の石造りで3階建ての立派な建物だ。

リヒトシュテルンのは5階建てだったけどこっちは10階建てくらいあるぞ、地震とか大丈夫なんだろうかと思ってしまうのが日本育ちの俺様だな。

「たのもー」

「おいリア、それは殴り込みの言葉じゃぞ」

入ってきたリア達は無駄に目立っていた。どう見ても貴族のお嬢様がお供と連れて見物に来たようにしか見えんからな。

ギルド中からの好奇の目線が刺さる。こういうのは慣れてないとキツイもんだろうな、リアは気にした様子も無いから良いけど。案の定冒険者から絡まれた。

「おいお嬢ちゃん、ここは見世物小屋じゃ無ぇぞ」

「邪魔だから消えろ、それとも痛い目見てぇのか?」


まぁ当然だわな、リアは一貫して貴族のドレスを着続けているし、レイハも東方様式の服なので冒険者に見えない、貴族と護衛という感じだ。

だがリアは物怖じもせずに冒険者登録証を出した。

「私も冒険者だよ?」

その一言で周囲はざわつく、おまけにちょっかいを出そうとする動きも弱まった。同じ冒険者同士ならギルド内での揉め事は自分の今後にも関わってくるからな。

だがそれが本物の登録証かどうかを訝しむ雰囲気もある、それを察したのか受付の人が声をかけてくれた。

「い、一応確認させていただきますのでこちらへどうぞ。あ、こちらに触れて下さい、……本物のようですね。いえ、本物です」

受付の人が登録証とリアに何かの装置を触れさせる事で、登録証内の記述が本人のものであると確認が取れたらしい。

「C級冒険者の、リーリア様、ですね。たしかに登録されております」


「冗談じゃねぇ!こいつがC級だと?俺よりも高いだろうが、おかしくねぇか!」

が、そう証明されても納得のいかない者は出るもので、しかもどうもリアよりもランクが低いらしい。

これは一触即発かなーと俺様が覚悟を決め、レイハも腰の小刀に手をやった時、俺様たちに声がかかった。


「おい、リアじゃねぇか、何だってこんな所に?」

「えーと、誰だっけ?」

「いやリア、冒険者のフェルじゃ、お主が忘れてどうする」


次回、第81話「帝都ノ依頼」

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