第79話「ソレゾレノ ソノ後」


「なんなの……、ここは」

「ここは、1500年前の世界、機傀神之大戦デコトラノマキアが終わった直後の世界だよ。(๑˙꒳˙๑)フムフム」

ルクレツィアが転移を終えると、見下ろす周囲の景色は一変していた。

見渡す限り瓦礫の山だらけの荒野で、大地はえぐれ、山は崩れ木々は燃え尽きていた。空はどんよりと曇っており、まるで世界の終わりのようだった。

周囲には巨大な金属製の箱状の何かが転がっており、それは破壊され、焼き尽くされて機能を停止しているようにも見える。

この様子では人がどれだけ生きているかも定かではない。

てっきり爆発の処理を誤ったかと思ったが、フォルトゥナが現状を説明し始める。


地に降りて巨大な金属の箱に近寄ってみると複雑な機械が絡まりあったような構造で、様々な装飾品と共に武装が施された兵器だった。

「これが、デコトラの闘い……」

「大勢の人達がこーいったデコトラを神と崇め、兵器として利用して大きな戦争が起こってしまったの。レティはまず、この世界を救わなければいけないワケ。( 。•̀_•́。)キリッ」

「世界が破壊し尽くされた後にというのもね、せめてその大戦争が起こる前に移動して、戦争そのものを止めても良いんじゃないかしら?」

「神様が言うには、大きな時間の流れの中では戦争が起こらない事だってあり得るそうだよ。でも人がそれを選択した以上、神はそれに対して何も出来ないそうなんだって。╮(๑•́ ₃•̀)╭」

フォルトゥナの言葉は自分自身にも言える事だった、自分が犯してしまった罪は消せない。たとえ自分が死なせてしまった人を生き返らされても心の中での罪悪感は消える事がない。

人の歴史がそういった事の積み重ねなのであれば、途中の都合の悪い所だけを無かった事にするのもまた、あってはならない事なのだろう。


「そう、んん? ひとまず? この世界を救えば?」

「これから、レティは様々な世界を巡らなければいけないの。そうする事で罪は洗い清められ、いつかどこかの世界で人に戻れる、そう言ってたわ。 (๑•̀ - •́)و✧」

先はまだまだ長そうだ、そうとわかれば覚悟も決まるというもの。ならば最初から派手に行こう、この世界に希望をもたらすのだ。

ルクレツィアは一旦空高く舞い上がり、救世主の姿へと変わる。それは今まで自分が教会の祭壇で見上げていた姿、自分がそうなるというのは奇妙な気持ちだ。

背に翼を持ち、頭上に光輪の浮かぶ純白の神々しい姿へと変わると全身から光を放った、世界中から見えるように。願わくば希望の光に見えて欲しい。


「さぁ、始めるわよ」

「りょ~❤ ٩( 'ω')و٩('ω' )وガンバロー♪」



「まったく、大騒ぎした割には何一つ成果を出せなかったようだが?」

「いえいえいえいえ、大収穫ですよ。『神』が宿ったデコトラなんて最大級の成果と言えます。」

「ああ……、行きたい、あの世界、崇高なる神の世界へ」

ぼやく大公爵アルフォンソに対し、エンシェントエルフのフレムバインディエンドルクは上機嫌だ、彼の手元には黒いデコトラが姿を変えた金属の箱があるのだから。

本来の計画とは全く違う流れではあるが、結果が同じであれば何も問題無い。

それに対して枢機卿はというと、意味のわからない事をつぶやきながら天に対し祈りを捧げ続けていた。

わけのわからない状況に、フレムバインディエンドルクの転移術で自邸に戻ってきたアルフォンソは頭痛をこらえるようにこめかみを押さえた。


「あれこそ真理を超えた遥かなる高み! おお世界を超えた世界! ああ神の慈愛を! いえもはや神の慈悲すらも私には不要! 私は私自身の殻をも破り彼の地へと至らん!」

「おい大丈夫か、こいつはもうデコトラどころではないぞ」

「上位世界に脳を灼かれてしまったようですなぁ。この者は今後一生をかけて渡る方法を探し求めるでしょうなぁ。下手すると神を造るよりも大変そうだというのに」

アルフォンソにとっては上位世界どころかデコトラですらどうでも良かった。ただ世をちょっと見出したいだけだというのに腹ただしい。

「どちらも大それた行いには変わらん気がするがな」

「そうは言われますがな、神の創造はしょせんこの世界の理の中の事なのですよ。対して世界を超えるという事は、その世界の理を超えねばならんわけでして」

「この際それはどうでもいい、こいつももう用済みだな、教会へ帰しておけ」

「エルフ使いが荒いですなぁ、まぁ私もこのデコトラが手に入ったのであれば似たような思いではありますが」

「本当にそのデコトラで世をひっくり返せるのか?」

「ええ間違いなく、うまくすればもう1度、機傀神之大戦を起こせるかと」



教会都市から逃げ出した俺様達は、とりあえず西へ西へと旅を続けていた。

「今度は冒険者ギルドからもこそこそと逃げ回る事になるとはなぁ」

「人聞きの悪い、ちょっと手紙を渡して早めに西へ向かおうとしておるだけじゃろ」


「うんまぁ、そうなんだけどね? うーん」

「あー、レイハが変わっちゃった……」

「もう良いじゃろそれは、ウチも納得しての事じゃ。とはいえあんな大規模な巫術はもう使いたくないわい。反動というのはこのように出てくるものじゃからな」

俺様もリアも歯切れが悪い。

レイハによるアマテラス神のその身への召喚は、彼女の身体に大きな影響を与えていた。それこそ彼女の人生が変わる程に。


レイハの見た目は一変していた。それまではリアよりやや年下っぽい感じだったのが、5歳程年を取ったような姿になっていたのだ。

身長は大幅に伸びて大人と見紛うばかりになった上、幼さの残る顔立ちだったのが一気に大人びた和風の美人に、スタイルは引き伸ばされた身体に合わせて凹凸を主張する体つきになっていた。

冒険者ギルドに戻るのを避けたのは、このへんの説明が面倒だったのもある。


「今回は数歳ほど歳を取るだけで済んで良かったと思うべきじゃぞ、あんな大技をあと10回もつかったらウチは若くして老衰で死んでしまうわ。かかかっ」

中身はあんまり変わってないかというとそうでもなく、憑依されていた神の影響をかなり受けたようで、なんというか肩の力が抜けたようになっていた。

とはいえ本人に言わせると今のところ自分はろくに剣術を使えないので弱くなったとの事だが。


「身体の寸法が全て変わってしまったからのぅ。もう一度修行のやりなおしじゃ」

「あー、大人になっちゃったー、私、置いていかれちゃった……」

リアは地味にショックだったらしい。ともあれ、俺様達はデコトラを西へと向けた。黒いデコトラを追う為に。


次回、第80話「レイハノ冒険者登録」

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