第78話「聖女ト守護天使」


俺様達は、あの『スサノオ』とかいう、レイハに取り憑いているらしい女神の弟神と思われる黒いデコトラまでもがあっけに取られていた。

なにしろ黒いデコトラが頭上の光輪を通って別世界へ旅立とうとしたとき、その光輪から別のデコトラがやってきたのだから。

それにしてもこの場には俺様含めて3台もデコトラがいるんだけど、何だってこんなにデコトラに縁があるんだ?


「はーい❤世界の危機に颯爽と!あーし!参上~!\٩( ᐖ )و/ヤー」

《何だ!お前は!》

「んー、何だと言われても困るんですけどー、あえて言うなら、デコトラ天使?°ʚ(*´꒳`*)ɞ°イエイ」

《ふざけるな!そこをどけ!儂の邪魔をするな!》

さすがの『スサノオ』も呆れている、緊張感無いにも程がある相手だからな。

光輪を通ってやってきたのは白いデコトラだった、というかフォルトゥナだな。胴体側面に羽根が付いてるので神々しく見えなくもない。


「フォルトゥナ!無事だったのね!」

「やはー❤ レティ~、帰ってきたよ~。さっそくだけど神様から使命を預かってきたから、ちょっとあーしに乗り移って❤ (ㅅ •͈ᴗ•͈)オネガイ」

「ええ!?」

突然帰ってきたフォルトゥナは、これまた唐突にルクレツィアに乗り移れと言う。そしていきなり荷台を開いてその中にルクレツィアを取り込んでしまった。

すると、フォルトゥナの純白の身体は、先程の『スサノオ』の変化の真逆に変化していった。つまり、翼持つ天使の姿に。


「あれー?あの姿、私見た事あるよ?」

《我もじゃな、というかレイハがじゃが》

俺様には単なる天使にしか見えなかったが、リアとレイハには見覚えがあるらしい、そしてその姿には眼下の街の人々も見覚えがあるらしい。


「おお……、救いの御使いたる天使様だ!」

「天使様が我々を突然攻撃したのは何かの間違いだったのか?」

「さっきのとは違う!やはりあれは似ていても偽物だったんだ!」


街の人々からそんな声が上がる、何だ?救いの御使いとかっていうのは?そしてルクレツィアからも戸惑いの声が上がる。

「こ、これは、私が救いの御使いの姿に!?」

ルクレツィアの姿は、女神のようにも見える巨大な天使になっていた、言われてみれば俺様も教会の祭壇で見た事がある、気がする?

「レティ、色々つらい思いをしたんだね。それと、レティが犯してしまった罪も、神様から聞いてるよ (´,,•ω•,,)ノ"ナデナデ」

「そう……、ええ!?神様に会ったの!?」

「事情があってこの世界で姿を表す事はできないけど、レティの事を心配してたよ。立場上その罪を無かった事にはできないけど、罪を償う機会をあげるって言ってくれたの( ,,ÒωÓ,, )ドヤッ!」

「私が、この姿に、っていう事はまさか!?」

「うん、救いの御使いとして人々を救いなさいって言われてきたの。一緒にみんなを助けよー?٩(๑•̀ω•́๑)۶」


《おい聞いているのか!そこをどけ!というより何だその姿は、何だその威圧感は》

「我は、救いの御使い。父なる主の命により、そなたを上位世界に行かせるわけにはいかぬ」

《ほほう、我らの主たる神もなかなか粋なことをしおる。罪は消せぬが償う役割を与えるとは。さて『スサノオ』、我らニ柱がかりではどうにもなるまい?観念して大人しくするがよい》

《誰が観念などするかっ!》

『スサノオ』は2人の女神を前にしても全く怯む事無く、デコトラの荷台を開いて何かの武装を出そうとしていた。徹底抗戦するようだな。

【ご案内します。何度も申し上げたように、神々の人数を表すのは柱です】


黒いデコトラの荷台から、ぬぞぞぞと生えて出て来たのは巨大な巡航ミサイルだった。ちょっと待て、それはまずい、それだけはまずい。

【警告します。あれは巡航ミサイルですが『核』が搭載されております。退避はもはや間に合いません。一刻も早く発射を阻止して下さい。】

ガチであかん奴だー!!

「おいレイハ!あとルクレツィア……さん!それを止めてくれ!詳しく話すしてるヒマは無いけど、あれはとんでもない破壊力でついでに猛毒や呪いとか病原菌を周辺に撒き散らす!下手するとこの教会都市が永久に人が住めない土地になるぞ!」

俺様の知ってる核兵器のイメージで伝えたけど理解してくれるんだろうか?つくづくデコトラは人間に関する知識が浅いのがつらい。


《呪いの気配や魔法力は一切感じぬが、旧世界の魔法とかいうやつか?うかつに手を出してもいかん気がするが、どうしたものか》

《ご心配には及びませぬよアマテラス。いや、レイハ、私の役割はまさにこの為にあるのです》

「そーよそーよ、あーしらにまかせなさーい (๑•̀ㅂ•́)و✧」

レイハ達が何やら相談をしている。が『スサノオ』を放っておいて良いのか?


《消えろ》

黒いデコトラが核ミサイルを発射した、至近距離過ぎるので俺様でもどうにもならない。

ヤケクソで障壁を張ろうとした時、ルクレツィアに動きがあった。

飛んでくるミサイルの前に立ちはだかり両手を突き出すと、空間が球状にねじまがるように渦を巻いたのだ。

ミサイルはその中に吸い込まれていくが爆発は起こらない、いや、すごく小さな光だけが球体の中心に見える。


《何だ?何をした?》

自分の攻撃を無効化?されて『スサノオ』もさすがに動揺していた。

《空間と時間を無限に引き伸ばしただけですよ、これで爆発も毒も出てくる事はできませぬ。

とはいえなかなかの力でしたわ、今の私の力でなければ危ない所だった。》

《二発目を撃てる状態ではなさそうじゃな、これで打つ手は尽きたはず》


《おのれー!》

レイハとルクレツィアに追い詰められた黒いデコトラは、ヤケクソのように今度は人型の姿を取る。

先程の天使にも似てなくはないが、刺々しく禍々しいその姿は天使とはとても見えない。

人型になった黒いデコトラは、両手から光の剣を作り出して戦闘に入る。

「じゃばば、これで終わりにしよう」

「ああ、俺様達も行くぞ!」

俺様達も参戦すべくヴォーパルソードを抜剣して戦闘準備に入るが、そこへ割り込んできた者がいた。


「それは困りますね。せっかく誕生したデコトラを無駄にされては困ります」


《何者!》

《エルフ?》

上空に現れ、黒いデコトラ天使の肩に降り立ったのは本人の言うように一人のエルフだった。

そういやこういう異世界そのものの人に会うのは初めてじゃないか?


「お初にお目にかかります、私はエンシェントエルフのフレムバインディエンドルクと申します。この黒いデコトラの製造者と言えばわかりますか?」

《貴様が!》

「おっと、怖い怖い、私はか弱いエルフなのですよ、神々にたてつくなどと、とてもとても」

《ぬかせ、どうもデコトラ周りでチョロチョロと悪さをするものがいたが、お主であったか、いや、お主だけではないな、背後に誰がいる?》

レイハは黒いデコトラ天使とエルフを睨むが、当のエルフはどこ吹く風だ。


「さて?私は枢機卿殿の願いに応えるべく研究していただけですので」

《教会だけでは説明のつかん事が多すぎる、ちょっと話を聞かせてもらうぞ》

レイハが手を振ると、デコトラとエルフは檻のような光の球体に閉じ込められた。

《ダラダラと会話していたのは失敗だったな、おかげで十分に時間を取れた》

「いえいえ、それにつきましては私も同様でして、それではおさらばでございます」

《何!?》 エルフと黒いデコトラ天使は檻の中で光に飲み込まれ、そのまま跡形もなく消えてしまった。

《消えた?あやつ、最初から転移魔法を仕込んでいたのか、油断ならないやつだ》



「え?これで終わり?終わりなの?」

「いや、そういうわけにもいかないだろう。【ガイドさん】!奴がどこに言ったかわかるか?」

【ご案内します。非常に微弱ですが西方に大型の転移の痕跡を感知いたしました。これほどの規模となると先程のデコトラが転移したものとして間違いないでしょう。

とはいえあの黒いデコトラはDEが核ミサイルの使用で尽きかけている上に、体内に『神』を宿しているので再稼働にまではしばらく時間がかかると思われます】

《西方、ダルガニア首都、テネブラエ神聖王国、あるいはグランロッシュ国のどれかか、追わねばならぬな》

《申し訳ありません、私はそれについていく事はできないのです》

レイハの言葉にルクレツィアが申し訳無さそうに声をかけてくる。こんなだいそれた姿であってもこういう所が変わらないのはちょっと面白い。



《先ほどの『核ミサイル』とかいうものの残存エネルギーや呪いを始末しなければなりません。この空間に閉じ込められた全エネルギーを使い、私は時を渡らねばならないのです》

「え?ルクレツィアはどうなるの?天使さんだけどうにかなるの?」

《リアさん、私がルクレツィアそのものなのです、私は私の使命を果たさねばなりません、それが私の犯した罪に対する贖罪なのです》

《先ほども言ったがな、それはお主一人の責任ではないぞ、と言っても無駄なのじゃろうな》

《ええ、私は自分の道をいつの間にか誤っていたのです、これからも間違い続けるかも知れませんが迷い続ける事にしました》

《だからと言って一番苦難の道を進まなくてもよかろうに、この頑固者が》

レイハの言葉にルクレツィアは困ったように微笑むだけだった。手に持った球体を掲げる。


《それでは皆様、これにて失礼します》

「まったねーノシ」

球体が閃光を放つと巨大なルクレツィアの姿も消え失せた、本当にいなくなってしまったのだ。

【ご案内します。先程のエネルギーの総量から換算すると、彼女が向かった先は1500年程前の世界、おそらく大襲来以前の世界でしょう】

「1500年も前に、ねぇ、それってそんな事しないといけないの?ルクレツィアの意思で大勢の人を死なせちゃったわけじゃないんでしょ?」

《リア、それがあやつの責任の取り方じゃ。誰しも自分の犯した事に対しては責任は取らねばならぬ、それは人それぞれじゃが、あやつの場合は救い主の天使として生きる事なんじゃろう》

レイハは納得しているが、俺様にしたら何故かルクレツィアが突然天使になった上に姿を消し、黒いデコトラまでもどこかに行ってしまったという消化不良な状態ではある。そして、それはリアも同様だったようだ。


「えーと、これからどうしよう?」

《一応、我々は教会から脱走した身じゃしなぁ、さっさとこの場から引き上げるべきじゃろ》

今度は教会からも逃げる羽目になるのかよ……。


次回、第79話「ソレゾレノ ソノ後」

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