第14話「悪役令嬢、誕生ス」
「皆に告げる!私はこの場でアウレリア・ドラウジネス公爵令嬢との婚約破棄を申し渡す!」
こいつ!よりにもよってこんな場所で!だが周囲は驚くどころか、拍手と歓声を挙げ始めたぞ!?
「そして皆に紹介しよう、こちらが私の愛する正当な婚約者、子爵令嬢のエステル・ウィストリアだ」
エステルと呼ばれた少女は王太子から紹介されると、優雅にカーテシーをして礼をする。
そして、今度は2人を称える歓声と拍手ときた、もうこいつら全員頭おかしいのか?
リアはもう脳が色々と限界なのか放心状態で、あまりの事に声も出なくなっているようだ。
皆が拍手喝采し、リアを
「ではこれより、我が王家を乗っ取ろうとした悪女、アウレリア・ドラウジネスの断罪を始める!
この者は他にも多数の貴族令息と密かに関係を持っていながら、私との婚約を自ら辞退する事も無くそれを隠したまま私の妃になろうとしていた!」
王太子は高らかにリアの罪状を語り始めた。周囲からはおおーっという声が上がるが、少々わざとらしい気がするな?そもそも誰だよその貴族令息達って。
「更にはその関係が露呈しそうになると、その子息達を闇から闇へと葬った。これには何人ものその親達からの告発が国に寄せられていたのだ」
「わ、私の息子を返せー!」
「そうだ!私の息子もだ!」
……俺は何か悪い夢でも見ているのか?誰だよ突然出てきて嘆き始めたあいつら、見た事すら無ぇぞ。
「被害者はそれだけではない!今私の側にいるエステルもその被害者の一人だ!彼女は何度も毒を盛られて殺されかけ。
それが失敗するや、雇ったならず者に彼女を
「ああ、エストマノワール殿下! 貴方に救われたご恩は忘れません! 生涯をかけてお仕えさせていただきます!」
エステルって少女は王太子に寄り添うように抱きついた。どう見てもわざとらしいのは言うまでもない。
「無論、彼女の貞節・純潔が護られているのは言うまでもない、しかし彼女はアウレリア嬢を告発する為にそれを公開する事を許してくれた。
私はその勇気ある行動を讃えてこのエステルを正妃として迎えるつもりだ!皆もどうか祝福してくれるね?」
「エストマノワール殿下……!ああ、嬉しいです!」
ちょっと待て、ズラズラと罪状が挙げられたけど、リアはずっと領地の屋敷で勉強してたんだぞ!?そんな事している暇があるわけないだろう!?
「更に卑劣なのは、彼女は決して自分の手を汚そうとしなかった。そういった事は必ず誰かを通じて行わせ、自分はあくまでドラウジネス領の奥深くで嘲笑いながらそれを見ていたのだ!」
「嗚呼、王太子殿下、私はおつろうございました。何度も何度も命を狙われ……。」
「わかっている、もう何も心配いらない、私は今、真実の愛を手に入れた」
おい、王太子のバカ野郎、服から取り出した指輪を令嬢の薬指にはめたぞ、あれって婚約指輪みたいなものか?周囲からも驚きの声と拍手が沸き起こった。
「本来であれば死罪は免れぬ所ではあるが、私の真実の愛の成就を血で汚したくはない。修道院で一生自分の罪を償って生きるのだ!」
王太子は芝居がかった仕草でリアにそう言い放つと、これ以上ない程の笑顔で嗤っていた。どうやらこれで終わりらしい、何だこの茶番劇は。
「アウレリア!これはどういう事だ!お前!なんて事を!」
「やっぱりこいつは生かしておくべきではなかったのよ!」
リアの両親が駆け寄ってきたがこっちは本気の反応らしい。こいつらも混乱してるのか?リアが公爵家のお屋敷でずっと静かに勉強の日々を過ごしてたのかなんてわかってるだろうに。
「どうして王太子殿下の恋人に嫌がらせなんかしたんだ!あんな奴は捨ておいてもせいぜい愛妾止まりだろうに、己の立場を理解していなかったのか!ましてお前がその歳で愛人を作っていたら申し開きのしようが無いだろう!」
「何か仕掛けるにしてもどうしてバレるようなへまをするのよ!大人しく公爵領でひきこもっている体裁を整えていても、自分が関与したのがバレてしまっては意味が無いのよ!?」
……おい、こいつらまでリアが人か何かを使って嫌がらせをしたとか思ってるのか?リアがそんな事するような子じゃないのは見てればわかるだろう!?
【ご案内します。彼らの心理的側面を分析するに、日常生活の中で権謀術数を張り巡らせているのが常態化しているので、主も同様の事をしていると全く疑っておりません、彼らでも同じことをしたと思っているのでしょう。
また、王太子のボケ……、王太子も主が犯人等とは全く思っておりません、あの子爵令嬢と結ばれたいが為にこの茶番劇をでっちあげたものと思われます。また、周辺で賛同している貴族はドラウジネス公爵家に悪意があるようで、既に根回しが終わっているようですね。これは形を変えた政治闘争です。主はそれに巻き込まれたものと思われます】
だめだこいつら、頭おかしい、もう我慢の限界だ。
『リア、これでわかっただろ?これが現実だ。もう終わりにしようぜ、リアはこんな所にいちゃいけないんだ』
「じゃば、ジャバウォック……」
『安心しろ、俺様だけは何があってもリアの味方で居続ける、何も心配しなくて良い』
「王太子、様。今の言葉に嘘偽りはありませんね?」
「あん?お前何を言っている?自分の立場をわかっているのか?お前は断罪されている立場なんだぞ?」
リアは絞り出すような声で話しかけるのだが、王太子の方はそのリアを馬鹿にするようにニヤニヤしながら答えた。
そして、リアに見せつけるかのように隣の令嬢を抱き寄せ、恋人繋ぎした手の指輪を見せつける。
「私は、貴方の恋路を邪魔する悪役なのですか、その方と結ばれたかったのなら、そうおっしゃって下されば良かったのに」
「あら失礼ね悪役だなんて人聞きの悪い。私達はあくまであなたに断罪する過程で愛し合うようになっただけよ。
そんな事より、罪にまみれた貴女は、さっさと修道院に行って身を清めたらどう?」
王太子の側のエステルが勝ち誇った表情でリアを見ていた。自分の望みが叶ったからか、口調も傲慢になってあからさまにリアを見下している。まるで自分がもう王太子妃であるかのように。
「アウレリア!お前などもう娘とは思わん!この役立たずが!」
「どうしてくれるの!ドラウジネス家の名誉に泥を塗って!どうして黙って王太子妃の立場で笑われ続けるだけの簡単なことができなかったの!」
公爵夫妻もリアを責める、この場でリアを味方する者は、少なくとも表立っては一人もいないようだ。
うつむいていたリアは少しずつ肩を震わせていた、泣いているのかと思ったが、その口から漏れ出たのは、笑い声だった。
「ふふ、ふ、あ、あは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
天を睨むように上を見上げ笑い始めたリアの声に、ホールは静まり返った。年齢に見合わない狂気すら孕んでいたからだ。そして、顔をゆっくりと下げながら王太子にこう告げる。
「わかりました、では私は、只今より”悪役令嬢”として、自分の思うようにさせていただきます。ジャバウォック!!」
よっしゃあああああああああああああああ!!リアのお願いなら仕方無ぇな!俺様、今こそ登場!
俺様はリアの首のネックレス状態から光となって大広間の天井近くまで舞い上がり、そこでデコトラとしての本来の姿を出現させた。
ちょっと演出をしてやるか、俺様は空中に出現した瞬間、ヘッドライトやブレーキランプ、全身のマーカーランプを色とりどりに発光させ、ついでに獣の咆哮に聞こえればと、大音量でクラクションの音を鳴らした。
バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
全長20mを超える俺様の巨体が突然出現したのだ、押しのけられた空気が風となって荒れ狂う。
大音響と光と暴風と共に出現した俺様を見て、会場は騒然となった。
次回、第15話「悪役令嬢、蹂躙ス」
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