第9話「令嬢、デコトラニ搭乗ス」


「リア!俺様に乗れ!今すぐだ!」

俺様は今のリアの状況が我慢ならなかった。リアやメイドさん達はずっと抑圧された生活が続いたもんだから、それが普通だと身に染み付いちまってる。ちょっと荒療治をぶちかます事にした。

俺様はリアをひきずるようにして屋敷の外に出ると、屋敷の前の通りで元のデコトラの姿に戻って本来の大きさにまで巨大化した。何気に異世界転生して始めてじゃないかこの大きさは。


「うわっ!大きっ!」

「屋敷では小さくなっていたとは聞いていましたが、これ程の大きさだとは。ジャバウォック様、いったいどうしたのですか、突然」

「どうだ?これが本来の俺様の大きさだ、あー、久しぶりに大きさ戻るとやっぱ気持ち良いわ」

俺様は身体を伸ばすようにしてサスペンションやらを伸ばした。デコトライガーの姿になる事を憶えちまったものだから、足腰に手足みたいな感覚ができちゃったのよね。


「リア、俺様に乗れ」

俺様は運転席のドアを開けてリアに乗るように促した、こういう子には違う世界を見せてやらないとな。が、リアは運転席の下の方で見上げるだけだった。

「乗れといわれても、……上過ぎて、登るのは無理なんだけど?」ありゃ。

「ジャバウォック様、お嬢様ははしごも登った事の無い貴族令嬢なのですよ? そのような高い所にまで登るなんて無理に決まっているでしょう」

メイドさんからも苦情をいただいてしまいましたよ。まぁトラックの運転席って高いからなぁ、脚をかける所はあるんだけど、よじ登って乗り込むのは貴族のお嬢様には無理らしい。


【ご案内します。『スキル:車体改造カスタマイズ』を取得してはいかがでしょうか?ひとまず運転席までの階段等を追加できますが】

ええー、ちょっと軟弱過ぎないか? まぁ背に腹は代えられない。俺様はスキルを取得してリアの前に運転席までの階段を作る事にした。

『えっと、んじゃそのスキルを取って、どうすりゃ良いの?』

【ご案内します、適当に私にご要望をお伝え下さい。空気を読んで私が作製いたします】

大丈夫かよ、適当とか空気とか、んじゃ俺様の運転席から下のリアにまで階段を作ってくれ。

すると魔法の光なんだろうか、一瞬光る階段が現れた後に階段が出現した。鉄製の段が積み上がって、両側にパイプの手すりが付いたシンプルな感じだ。本当に単なる階段だけどこれで充分だ。


「ほれ、これで良いだろう。登ってこいよ」

「うーん、もう少し雰囲気のある階段にできませんでしたの?」

「これでは無骨過ぎますよねぇお嬢様、鉄製の階段なんてエレガントではありませんわ」

いちいち細かいなこいつら……、階段なんて運転席にまで登れたらそれで良いだろうに。


「そんなのは後でいくらでも変更できる、良いから早く登ってこい。メイドさんは反対側だ」

「はぁ、ではちょっとお邪魔して……、うわ……、うーん」

「ジャバウォック様……、ちょっとこれは、お嬢様の趣味と合いませんわよ。貴族部屋っぽくはありますけれど」

俺様の車内の内装はお二人にはいまいち不評だった。良いと思うんだけどなこれ。

壁や天井はワインレッドの分厚い布張りにシートは本革製だ、ダッシュボードの天板はニス仕上げの天然木だし、巨大なハンドルだって特注のオーダーメイドだ。

天井からは小さなシャンデリアだってぶらさがってるし、メイドさんの言うようにちょっとした貴族の部屋っぽいだろう。

まぁこの内装は俺様のオーナーの趣味だから男っぽすぎるわな。


「これは俺様の前世のオーナーの趣味だから合わないのはちょっと我慢してくれ。これでも前世の国では名の知れた名車だったんだぜ?俺様は」

「言うだけの事はある内装ではありますけど、この椅子に座れというのですか? 小さすぎますわよ」

ケイトさんからシートの大きさまでご意見をいただきましたよ。運転シートは普段見てるソファに似てはいるだろうけど、運転時に身体を固定する為のものだからなぁ。

「まぁそれは仕方ない。安全の為にがっちり身体を固めるからな、良いから早く座ってくれ」

2人がシートに座ったが、本当に座っただけで運転する体勢じゃないよなぁ、そういう習慣が無いとこうなるのか。

「まず安全の為にシートベルトを締めてくれ、リアは右肩、ケイトさんは左肩の所にベルトのようなものがあるから、金具を引っ張ってくれ、それから……、指示する事多いなおい」

シートベルトを締めさせるだけでも悪戦苦闘だな! 車乗った事の無い人達ってこうなの!?


「よ、よし、ようやく準備ができたな」

「はぁ、で、これでどうしろと言うのですの?」

「俺様を運転しろ。走らせるんだ」

「ええ!? こんな大きな物を!? 無理ですわよ!」

「心配ない、手順通り動かせば誰にだって運転できるものなんだ。あと俺様もサポートするから安心しろ」

本来は運転免許とか要るんだが、異世界だからそんなの気にしない。いざとなれば俺様が自動運転するからな。


「ジャバウォック様、いったいどういうつもりなのですか。お嬢様に何をさせたいのですか」

「いい加減こんなかたっ苦しい生活は俺様もごめんなんでな。ちょっとスカッとしたいだけなんだよ。

 俺様が勝手に走ってもいいけど、どうせならリアの気分転換にでもなればいいと思ってな。

 リア、まずはハンドルを握れ、目の前の丸いのだ。これが俺様の進行方向を左右に変えるものだ」

「ええ、と、こうですか?」

「いや違う、時計の針で10時10分の位置を握れ……って位置が合ってないな、ちょっと調整してやる」

俺様は自分の体を変化させ、リアの身体に合わせてシートの高さやハンドルの位置、ペダルの位置すら調整してやった。どうだこの万能調整機能は。ベ◯ツやボ◯ボですらここまでは微調整できないぞ。


「この、丸い輪が、船の操舵輪みたいなものなのですか?」

「そういう事だな。足元にペダル……、脚を乗せるものがあるだろ?右脚のが加速で、真ん中のがブレーキ……減速だ。クラッチはこの際、俺様が切り替えるので無しにしてやる」

二速発進とか気にしない上にATなデコトラなんてちょっと様にならないけど仕方ない。俺様が操作するなら実質MTだしな!


「まずは右足のを脚で踏め、そしたら俺様が走り出す」

「はぁ、では、えいっ!」

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

思いっきりアクセル踏んじゃったよこの子! つかデコトラではありえない凄い加速なんだけど!? 俺様の身体どうなってるの!?


次回、第10話「令嬢、デコトラニテ爆走ス」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る