第53話「悪役令嬢、撤退ス」


「お前ら何者だよ……、俺達の出る幕がほとんど無かったぞ」

「双方共に極めて興味深くはありますねぇ、とは言っても教えてもらえないのでしょう?」

リアの強化される鎧、レイハの鬼の姿への変身とか見せられたら色々聞きたくなる気持ちはわかる。

レイハに至っては、そういえば俺自身がレイハの事を良く知らないぜ。


「そりゃお互い様じゃろ。そっちが包み隠さず身分とかを明かすなら考えても良いぞ?」

「リアはね、リアだよ?」

リアさん、それは自己紹介になってないからね?


「……止めておきましょう。どう考えてもこちらの方が割に合いませんので」

「ほう?」

マクシミリアンの言葉にレイハが訝しんでいるが、お互いをあまり詮索しないのが冒険者のマナーなのでそこで終わったが。


「お前達、いつもあんな感じの戦闘なのか?」

「リアの方は今回が実質始めて迷宮探索じゃな。ウチも基本的には魔物討伐ばかりで迷宮には潜らんからの。こういう形式の迷宮は初めてに近い」

「そのわりには、慣れすぎてて年齢を疑いたくなるぜ、見た目通りの年齢だよな?」

「失礼な、これでもまだ13歳じゃ、そっちのリアも15歳とかじゃぞ。どこをどう見たらそう見える」

「そう見えねぇから困ってるんだよ……」

レイハとフェルドが会話しているのを聞きつつ、俺様達は百足センチピード蜘蛛スパイダーの残骸を収納してみたが、なんとこの状態からでも素材へと解体できてしまう。放っておけば魔素へと分解されてしまうそうだが、それまでなら有効みたいだ。


「だいたいフェルド、貴方は自分の才能に溺れてるに等しいのですよ。恵まれた力を持ちながら、それを研鑽しようとはしないから魔法学校の成績だって結局中途半端だったではないですか」

「俺は目立つわけにはいかないんだよ。そんなこんなしてたら中途半端になったまったのは認めるがな」

「お主らもたいがい個人情報を垂れ流しておるがのぅ。魔法学校ってあれじゃろ?この大陸だとグランロッシュ王国にしか無いはずじゃが?」

「え?どういう事?」

雑談効いてても、どうもこのパーティーはリアも含めて訳ありばかりなんだが……。

そこからは先行したパーティーが魔物を排除してくれたのか罠を避けて通るだけでよかった。

が、深く潜れば当然他パーティーにも出くわす。


「おい何だよこの数!聞いていた話と違うぞ!それにこいつらこんな強かったか?」

「お前が人の話を聞かないからだ!元々危険だと言われてたろ!素材に目が眩みやがって」

「皆さん、落ち着いて!一旦戻りましょう!」

「ふざけるな!ここまで来て戻れるか!」


向かう先の方では、冒険者達が洞窟内の魔物に苦戦していた、とはいえコウモリとかトカゲの巨大なのくらいで、

俺達が遭遇したのよりは大分弱そうに見えるんだが。

「どうも苦戦しとるようだの。今回の依頼はC級冒険者であれば問題無いはずではなかったのか?」

「レイハ嬢、それはまずければ逃げるという行動が選択肢にある場合ですよ、己の実力が読めずに仕掛けたのでしょう」

「魔物の強さがおかしいのは認めるがな、あやつらもC級にしては腕が悪い気がするな?あんなもんで良いのか?」

「今話題になっている例の迷宮を知ってるでしょう?あれのせいで一攫千金を夢見て冒険者登録が殺到したわけですが、その時の粗製濫造組でしょう」

レイハとマクシミリアンの会話からすると、あいつらはギルドマスターの洗礼も受けてないって事か、たまたま探索とかがうまく行ってしまって、実力を見誤ったって所かな。



「リア、どうする?放っておいて遠回りするのも手じゃぞ」

「うーん、レイハはどう思う?」

「ウチなら放って置くがのぅ。こういっては何だが自己責任じゃぞ冒険者なんて」

「フェルドとマクシミリアンは?」

「は?いや、俺は別にどっちでもというか、関わりたく無い方だが」

「私もまぁ関わりたくありませんね」

パーティーのほぼ全員から拒否されてしまった。とはいえ命がけで他人を助けるのかというと厳しい所ではある。


「そう、みんなが助けないっていうなら、助ける」

リアはそう言うと、そのまま新手の冒険者パーティーの下へと突っ込んでいった。

「おいリア嬢ちゃん!あいつらを助けるのか?よく見たらさっきお前にいちゃもん付けてた奴らだぞ」

「そんなのどうでもいい、見捨てられてるなら助けるだけ。ジャバウォック、腕をお願い」

リアとレイハは倒れている冒険者の間に割り込み、拳を構えた。うんうん、相手はともかく人助けは良いことだ。


「お、お前何者だ?助けてくれるのか?」

「己の実力も知らず死にかけるようなのは放っておいても良いと思うんじゃがなぁ。リアが言うなら仕方無い」

「お前、東方娘、って事は、あっちは極悪令嬢か?」

その呼び方、本当に何とかならないかなー。

基本的にリアはそういった声を全く気にしないのか、拳で魔物を殴りつけ、次々に仕留めていた。なんだか物凄く威力が上がってるな?と思ったら、拳には雷撃用のスパイクが付いていた。やだ怖い、いつの間に使いこなしてるのこの子。


【ご案内します。主様、前方に向けて平手を突き出して下さい。細かい制御は私がいたします】

「え?こう?」

リアは言われるままに手を突き出した。するとその手のひらから青白い電気火花のようなものを散らしながら雷撃が発射された。粘りつく糸のようなそれは、地面といわず空中と言わず、的確に敵となる魔物を追尾していく。その雷撃は、魔物の集団を一瞬で焼き払ってしまった。

レイハも多少仕留めていたようだがはっきり言ってリア1人でその場の魔物を始末したと言って良い。

【ご案内いたします。電撃端子は極めてDPの消費が低く、精度は落ちますが、このように広範囲に電撃攻撃を与える事ができます。また、ある程度手の動きで雷撃を制御できます】


「マジかよ……、たった一人で終わらせちまったぞ」

「なんだあいつ……」

「極悪、令嬢、だよな?」

「おいおぬしら、言いたい放題言っとるがな、ウチらはおぬしらを助けるつもりはなかった。あやつがいなかったら放置されておったぞ。一言くらいリアに礼を言っても良いのではないか?」

「「すいませんでしたー!!」」

レイハ一言で凄い勢いで地面に頭をすりつける者たち、いっそ清々しいまでのジャンピング土下座である。


「そう、お礼は受け取っておくわ。んー、なんだかつまんない」

「いやリア、おぬし何を言っておるのだ?」

しかし、肝心のお礼を言われているリアはどうでもよさそうだ。自分の思うように助けられたのに?レイハも困惑している。

「んー、なんていうか、思っていたのと違うというか。こう、自分の手で戦ってる気がしないっていうか」

「いや本当にお主何を言っておるのじゃ……? まぁよい。リア、さっきはこやつらを未熟者とか言っておったが訂正する。

 どうもおかしいぞこの迷宮の魔物は、通常よりかなり強くなっておる。先程の百足蜘蛛も本来あそこまでの強さではなかった」

「どういうこと?」

「理由はわからぬが、迷宮内の魔物に異変が起きておる。それに、見よ。」

レイハが胸元のネックレスを取り出して見せてくれると、一番大きな9の形をした珠(レイハは『マガタマじゃ』と言っていた)が、異様な状態になっていた。

マガタマが発光しているのはいいとしても、どう見ても中に封じ込められている闇の魔力の状態がおかしい。激しく脈打っては静まるを繰り返しており、まるで勾玉の中からはい出ようとしているかのようだ。

「この迷宮の奥に近づくほどこの変化が強くなっておる。もしかしたら大当たりかも知れぬ。一刻も早くこの迷宮の最奥に赴かねば」


だが、俺様達が向かおうとしていた先から、冒険者や先行していたギルド職員らしき男性が血相を変えて戻ってきた、その様子にこの場の冒険者達もざわつく。

「撤退だ! 逃げろ! 早く! この迷宮はもうダメだ!」

「逃げろは良いけど何が起こった! 説明くらいしてくれ」

「ダンジョンバーストだ! 今すぐ逃げ出さないとこの迷宮に閉じ込められるぞ!」

「はぁ!?」


俺達は早足で戻るが、いかんせんほぼ全員が武装しているのでその歩み、いや走りはお世辞にも早いとは言えない。

「ねぇ、ダンジョンバーストって迷宮に閉じ込められるものなの?」

「そういやそんな話聞いた事無ぇな、どういうこった!」

「もしもバーストが始まりそうになった時の安全措置として、迷宮の入口が魔術によって封鎖されるんだよ。これは国からの通達で義務となってるんだ!」

「何だってそんな迷宮に俺達を突っ込ませたんだよ!」

「コアの状態から一月は大丈夫なはずだったんだ! それが突然活性化して、もうすぐコアが発動する!おい入口! 聞こえているか! 封印を止めてくれ!」

外部との通信する手段なのだろう、ギルド職員が何かに向けて話しかけていたが、その答えは無慈悲なものだった。

『一旦封印が始まったら止められないのを知っているだろう! 何とかこっちに来てくれ!』

こんな迷宮の奥で見捨てられるのか、そんなのは嫌だなぁ。と思っていると、リアが相談してきた。


「ねぇジャバウォック、みんなをデコトラに乗せて運んだらどうかな?」

【ご案内します。すぐに皆が乗ってくれるとは思えない上に、この洞窟の地面では満足なスピードを出せません。走った方が確実です。なお、距離的に主様だけで走れば確実に助かりますが、他の皆は間に合いません】

「それじゃ、こないだのバカ太子をすっ飛ばした時のあれ使えないかな? デコトラでなんとかならない?」

【ご案内します。現状では無理ですが『スキル:衝突治癒』をレベルアップさせれば有効な手立てがあります】


リアは何事かを【ガイドさん】と話し合うと、突然俺様に鎧の下半身を獣の4本足に変形させるように言ってきた。するとひょいとレイハを持ち上げて自分の背に乗せた。

「じゃぁ、私達だけ先に逃げるねー!!」

「リア! お主自分達だけ助かるつもりか!? さすがにそれはどうかと思うぞ!」

「おいてめぇ! 何考えてやがる!」

「ふざけんな!!」

皆の怒号を背にリアは入口に向けて走り出す。


四本脚の状態では洞窟の床だろうがなんだろうが関係ない、俺様は猛スピードで入口近くまで到達した。ここからなら歩いてでも間に合うだろう。だが、残った奴らはそうはいかない。

リアはレイハをそこに降ろすと、「じゃぁ、レイハは外に出ててね」と声をかけた。もちろん、リアは逃げたりしない。

「ジャバウォック!! デコトラで出てきて!」

はいよー!

「リア! 何をするつもりじゃ!」

「おい君! はやくこっち……、何だぁ!?」


リアはデコトラの姿になった俺様に乗り込むと、思い切りアクセルを踏み込んだ。

「おらおらおらおらー!! 今行くぜー!」

「あははははははははははははははははーーーーーーーーーー!今撥ねに行くからねー!!

 やっぱり冒険者の冒険ってデコトラに乗ってこそよね!!!」

いや違うと思いますリアさん。


次回、第54話「悪役令嬢、ダンジョンノ最奥ヘ再向カウ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る