第54話「悪役令嬢、ダンジョンノ最奥ヘ向カウ」
俺様達はダンジョンの入口がふさがろうとしている中、奥へ戻っていった。【ガイドさん】の計算では、冒険者達は全員は無理かもしれないが、多くがまとまってこちらに向かっているはずとの事だ。
【ご案内します。『スキル:
「防御を無視できるって事か、ならこれでダンジョンの入口がふさがっても通り抜けられるんじゃないの?」
【ご案内します。『スキル:物質透過LV1』では、透過できる厚みは5mmに過ぎません。しかもジャバウォック様本体が接触する物質のみしか効果がありませんのでご注意下さい。
LVを上げれば石壁等を通り抜ける事もできますが、大量の
「うまいだけの話は無いって事か……。通り抜けられるのが5mmなんてほとんど無いに等しいな」
【ご案内します。また、このスキルが通り抜けられるのはあくまで物質であって、封印等の結界は通り抜けられませんのでご注意下さい】
そもそも今閉じようとしてるこのダンジョンの入口とかは物質・結界の両面で通り抜けられないわけね……。
「とにかく、これであの人達を撥ね飛ばせば助けられるって事よね? いっくよー!」
リアさん、助ける為とはいえ、人を撥ねる事に抵抗無くなってるのヤバくない?大丈夫かな……。
「くっそおおおおお! 間に合わないんじゃないのか!?」
「おい職員! 今封印はどうなってんだよ!」
「とにかく走れ! 走るしかないんだよ! 閉じ込められたら無数の魔物に襲われるだけだ!」
「おいマクシミリアン! 今からでもダンジョンコアを破壊しに行った方が良いんじゃないのか!」
「とりあえずは戻りましょう、最悪貴方の魔法なら最奥までを焼き尽くして一気に奥へ進めますが、他を巻き込む可能性が大きすぎます」
「おい、前から何か来るぞ!? 何だあれ? 光?」
「鉄の箱ぉ!?」
「まさかリア嬢か!? 助けに……、来たようには見えんなぁ」
「呑気な事を言ってる場合ですかフェルド! 轢かれますよ! 戻りましょう!」
「あーもう行ったり来たり! こんな細い通路どうにもならねぇよ! おい戻れ戻れ!」
あ、見えてきた。やはり皆こちらに戻ってる最中だった。が、俺様達の姿を見ると大慌てで回れ右して逃げようとする。まぁ当然だわな……。
だが通路が細くなっているので転倒したりもみ合ったりで大騒ぎになってるな、後ろの方は戻れてるようだが。
「よぉーし、まずは前の方の人達から!」
リアさん、何か癖になってない?
「やめろやめろやめろ、ぎゃああああああああああああああああ!!」
「……あれ? おい、ここ、迷宮の外、だよな?」
「俺達、あの鉄の箱に跳ね飛ばされたんじゃ……」
「おいマクシミリアン、どういう事だ、何が起こった?」
「少しは自分で考えて下さいよ。どうも極めて短距離ではありますが、転移魔法が使われたようですね。しかし結構な数がいますよ、この人数を? いったいどうやって」
「あ! おい! どうやって出てきた!? もう封印は終わったはずだぞ!」
「ちょっとー! 逃げないでよー! ちょっとだけ! ちょっと撥ねるだけだから! ああもう走りにくい!」
「リアさん……、逃げるのも当然だからね? 結構酷い事してるからね?」
俺様達はとりあえず最も入口に近い集団をダンジョンの外に転移させる事はできたが、さすがに全員を一度は無理だった。
なので残った人達を追いかけ回してる最中なのだが、道が悪いのでなかなか追いつかない。しかし酷い絵面だよなぁこれ。
「何をわけわからねぇ事言ってるんだよ! お前気は確かか?」
「頭おかしいだろ! なんで俺達をそんなもんで轢き殺そうとするんだよ!」
「極悪ってレベルじゃねぇぞ!!」
言いたい放題されてるけど、全部間違って無いよなぁ。つくづくおかしいわ、このスキルの発動条件。
そしてそんな中でもリアは元気いっぱいで皆を追いかけ回してる。
「さぁー! いっくよー!」
「やめろおおおおおおおお!」
アクセルベタ踏みのデコトラから逃げられるはずもなく、冒険者達のある者は俺様に跳ね飛ばされ、ある者は俺様の車体の下へと消えていった……。まぁ全員転移してるんだけど、やっぱり俺様の心へのダメージ凄いわこれ。
とりあえずわかる範囲の冒険者達は外へ退避させた、あとはダンジョンコアだけだな。
【ご案内します。因果力はかなり蓄積されておりますので、ある程度遠くまでなら対象を転移する事ができます】
「すぐ使うから用意しておいて! 次は前からくる魔物だね!」
俺様達の目前には、ダンジョンの奥部からやって来たと思われる多数の魔物がやってきていた。数えてる暇すらないな。
「よーし! デコトラドリル! レーザー! ミサイル! ついでにガトリングガンも追加だ! DPの稼ぎ時だぞー!」
「あはははははははーーー!!」
俺様達は向かってくる魔物を次々に死骸へと変え、増えまくる魔物で埋まってしまう洞窟を、ドリルで魔物の身体ごと穴を開けて強引に進んでいった。次から次へとやってくるのでDPは溜め放題で弾切れの心配もない。このまま行くぜー!
洞窟のような所からホールのように開けた所に出た。だがそれは待ち受けている魔物の数が桁違いに上がっているとも言える。
「魔物の数が多すぎないかおい!」
【ご案内します。ダンジョンバーストと言われるだけあって、たいした数と言わざるをえません。ですがDPは飛躍的に蓄積されているので何も問題はありません。『武装:デコトラブレード』追加】
すると、俺様の体中のステンレス製の装飾が尖った刃状に伸び、俺様はハリネズミのように全身から刃物が飛び出た状態になった。
これなら走ってるだけでどんどん魔物を始末できるな! おらおらおらおらー!!
【警告いたします。正面、強敵です】
調子良く走り回っている俺様の前に立ちはだかったのは、全身がまるでアルマジロのように甲羅で覆われた熊のような魔物だ、どう見ても硬そうだな、だがこのドリルなら!
だが、ガッ、という音と共に俺様達の勢いは止まった。いや、止められてしまった。
なんと硬すぎる甲殻にドリルが止められたのみならず、そのドリルを両手で鷲掴みにして回転を止められてしまったのだ。どんな腕力してんだよ!?
「えーいこのこのこのこのこのこの!」
ならばとリアが至近距離からレーザーやらバルカン砲をぶち当てるが、弾かれてしまう。やべえ、ちょっとまずい?身動き取れんぞ。
「ジャバウォック!
突然、背後から巨大な刀が飛んできた。長さというか大きさそもののスケールが異なり、明らかに人が使う用の刀ではない。長さは4mを超え、刃の厚みは50cm程もある。よく知る日本刀とは逆に、刃の方に湾曲していた。そして柄の末端には輪のような飾りがある事から、明らかに古い形式の刀だった。
その刀はあれだけの硬さだった鎧熊とかいう魔物の殻をあっさりと真っ二つにしたのみならず、飛び回ってその後ろの魔物達も次々と屠っていく。おっかねー。
追いついてきたレイハは俺様のキャビンの上に乗り、いつかのようにフロントガラスを覗き込んできた。
「おい乗るぞ! ウチも行く!」
「あれ、レイハ?」
「なんで戻ってくるんだよ!」
「お主らを放って置けるか! ウチも行く、どうもこの騒ぎ、ウチに原因があるかも知れぬからの」
「どういう事だ?」
「これじゃ、この闇の魔力に反応した可能性が極めて高い。もはや勾玉が抑えきれず、黒く染まる程に近くに存在しておる。おい【ガイドさん】!デコトラの運転席の上にウチが立てる場所を用意してくれ!ここは立ちにくい!」
「おい、何をする気だよ」
「二重招聘は経験が無いがの、先ほどお呼びしたものとは極めて相性が良いはずじゃ。突破口を開くぞ!合図したら一気に進め!」
「不敬極まりなくて申し訳なく思うが、時間が無いのでな! 天之尾羽張により斬られし創世の母神殺しの血より生まれし神よ、今ここに! 『神威招聘:タケミカヅチ!』」
リアは運転席なので見る事ができないが、俺様は自分の屋根の上の様子が見える。
レイハの背後に半透明の何者かが出現した。筋骨隆々たる古代の鎧を纏っており、長い髪、雷を纏う威容は戦神のような雰囲気だった。
その何者かが憑依すると、レイハはいつかのように鬼の姿へと静かに姿を変える。だがそれだけでは終わらなかった。
「『能力開放:真鬼転身』」
レイハの声と共に肌は赤銅から赤鉄色に、身体はよりしなやかな筋肉質になり、髪は銀髪からより明るい白銀色に染まった。
額には2本の角はねじくれ曲がった木の枝のようになってさらに立派になり、鬼というよりはもはや鬼神だ。
レイハが天高く手を掲げると先程の巨大な刀が戻ってきた。握れないんじゃないか、と思ったが刀は大きさを変えて全長80cmほどの姿へと変える。
その刀を両手で握ると一気に横薙ぎに切り払った。その斬撃の威力は凄まじく、放たれた先の魔物がまさに上下一刀両断されて次々と消滅していく、それどころか洞窟の岩盤すら切り裂き、いくつもの石の柱が倒れていった。
「すげー」
「みんな真っ二つー」
「見とる場合か!さっさと先に進め!」
リアが慌ててアクセルを踏み、俺様達は洞窟の奥へ奥へと走っていった。もうデコトラとしての能力を隠す必要も無いので全力で周辺の生物感知を行い、最も濃い部分を目指す。
「それで、リア! どうするつもりじゃ!」
「ダンジョンコアを外に吹っ飛ばすの!」
リアさん、それだとちょっと説明不足だと思います。
【ご案内します。ダンジョンコアが魔物を作り出す魔力は、この地から吸い上げているものと思われます。なので強制的に魔力の薄い場所に転移させればこれ以上の発生は止められるものと思われます】
「この地の地下には魔力の流れがあるのじゃろうな……、そこから切り離してしまえば何となるかも知れない、という事か」
【ご案内します。その場合、転移先でダンジョンコアに溜め込まれた魔力が全て解放され、多数の魔物の群れが発生するかと思われますが、ダンジョンバーストが発生するよりは良いと思われます】
どっちにしても大量の魔物は出てくるが、湧き続けるよりはまだマシという作戦なんだよな。
「それしにしてもレイハ、さっきのは凄かったな、あれでもギルドマスターには勝てなかったのか?」
「これはウチ自身の力ではない、神々から御力をお借りして代行しただけじゃ、ギルドマスターとの試合はいわば私闘じゃからな、そんなもんに神々の力は使えんよ。そんな事したら天罰が下るわ」
強すぎる力には色々と制限があるって事か、頼りっきりにはできないな。
そんな事を言ってたら又奥から次の魔物達がやって来る。
「さて、雑談をしとる暇は無い!まだまだ来るぞ!」
次回、第55話「悪役令嬢 ト ラスボス」
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