第55話「悪役令嬢 ト ラスボス」


俺様達は変身しているレイハを屋根に乗せたまま魔物の群れを討伐しながら奥へ奥へと進んでいた。

魔物の発生には間隔があるようで、今は小康状態のようだ。

だがいつまでもこの状態が続くとは思えない、これが止まらなくなった時が真のダンジョンバーストというやつなのだろう。


「見えたぞ!ダンジョンコアだ!」

俺様達が向かう洞窟の奥に青緑色に光る岩の塊のようなものがあった。しかしその輝きは時々瞬いている。よくよく見ると、青緑の光にところどころ黒く光っていない箇所が混ざっている。

「あれが、闇の魔力じゃな。この地に流し込まれたのか、コアに直接打ち込まれたのかはわからぬが、ともあれ、あれのせいで妙な事になっておる」

「前に見たのとはちょっと違うねー」

リアが言うように、そおのダンジョンコアはほぼ岩の塊で、人の手が入っている加工物のようには見えなかった。もしかしたらこのダンジョンが誕生したてという事が影響しているのかも知れない。


俺様達が近づくとレイハが持っている闇の塊に反応したのか、ダンジョンコアはより激しく明滅を繰り返すと一気に魔物を発生させてきた。

「おいどうする!突っ込んでまとめて転移しても良いけど、あの数を巻き込んでたら距離が足りなくなるぞ!」

先程山程冒険者たちを轢いて因果力は溜めたものの、できる限り転移させるものは減らしておきたい所だった。


「そのまま突っ込め!ウチが切り開く!創国の女神をも焼く神なる炎の使用をお許し頂く事の御願いを、日之元国が第二皇女零羽の名において畏み畏み白す!『神威招聘:カグツチ』!」

レイハが刀を突き出すと、その刀身から刀身から凄まじい勢いの炎が噴き出した。それは極太のレーザーのようにダンジョンコアごと魔物の一群を貫く。


【ご案内します。恐ろしい技ですね、発生した炎の温度が高すぎてもはやプラズマ化しており、最大温度は1万度に達しております。周辺の岩や石が蒸発いたしました】

だが、それでもダンジョンコアは焼け焦げるだけで、破壊されるわけではなかった。焼け焦げて抉られた地面の上に静止するように浮かんだままだ。


「耐えたぞ!?あんなのどうにかなるのか!?」

「魔力を断ち切れば何とかなるやもしれぬ!リア!このまま突っ込め!」

「おっけー!いっくよー!!」

【ご案内します。転移先の緯度経度を計算、地図との予想誤差、100m、転移いたします】



いつか感じたような浮遊感を感じた後、俺様達は荒野のど真ん中に移動していた。うまく行ったのか?

「あそこ!コアが浮かんでるよー!」

いち早く目を覚ましたのか、リアが指差して大声を上げた。

確かにダンジョンコアが状態で空中に静止していた。だが、その輝きは先程に比べてかなり弱い。


「【ガイドさん】!ここからどうしたらいいんだ!?」

【ご案内します。コアは中に残された魔力で反撃してくるものと思われます。多数の魔物か、最強の1体を作り出すものと思われますが、後者のようですね】

ガイドさんが言うように、突然コアが痙攣するように震えると、空高く浮かびあがって物凄い量の光を放出し始めた。

あれが魔力なのか?その光は青緑色と黒がまだらになっており、少しずつ実体化して物質化を始める。



「ほほぅ?九頭ナインヘッドヒュドラゴンか、八岐大蛇ヤマタノオロチよりも歯ごたえがありそうじゃのぅ!」

レイハの言う通り、その魔物の見た目は頭が九つある羽根の無い竜のようで、頭の数とワニのような足が6本あるのを除けば八岐の大蛇と言われても納得する。

頭には棘のようなものが生えていないので蛇のようにしか見えず、長い尻尾も同数あるので、体中の棘のようなウロコも相まってまるで森が動いているかのようにも見えるのだ。

その全長は20m程ではあるが、見かけ以上の迫力だった。それと相対するレイハの姿は日本の古き神のようで、まさに神話のような光景だった。足元の俺様デコトラを除いては。


「でっかいねー。あれやっつけたら終わるの?」

「おいレイハ、あれ強いのか?」

「強い、神王獣などの神獣を除けば、竜種でも最強クラスじゃ。巨大な体躯、強力な再生能力、口からのブレス、どれ一つ取っても厄介極まりないぞ」

そういうレイハの顔は物凄く嬉しそうで凶悪な笑みが浮かんでいた、俺様はどっちもおっかねぇよ。



突然、九頭竜が全ての頭を天に向けた、同時に腹や喉に何かを吸い込むような動きが見られる。

【警告します。相手の内部で魔法力が増大中、何らかの攻撃が来るものと思われます】

「ブレスを吐いて来るぞ!逃げろ!」

リアがアクセルを思い切り踏み込んでその場を離れた瞬間、物凄い炎がそこを通り過ぎた。先程レイハの使った技程ではないが、それでもまともに食らったらただでは済まなそうだ。


「いきなりこっちを殺す気かよ!駆け引きも何も無しか!」

「九頭竜は狡猾じゃぞ、最初生まれた時は頭が1本なんじゃがな、およそ100年ごとに頭が生えてくる。今のあやつは900年を生き延びた魔物そのものじゃ」

なんだよその寿命……、もはや動物とかのレベルじゃないぞ。

「でも足元に入ったら弱そうだよ!【ガイドさん】!デコトラブレード!」

リアの声に応えて俺様の胴体の両側面から巨大で日本刀のような刃が生えてきた。なんだか本当にブレ◯ドラ◯ガーみたいになってきたなぁ。俺様トラックなんだけど……。


俺様の車体はドリフトするように滑って九頭竜の向かって左側から回り込むと、尻尾を避けて九頭竜の左半身へと回り込んだ。そして、6本ある脚の一番左後ろの脚をその刃で思い切り切りつける。

ガキンという衝撃と音と共にその刃は折れるが、同時に九頭竜も脚の一本を大きく断たれ、バランスを崩しかけて尻尾で支えていた。


「固いねー!」

「だが有効なようじゃぞ!奴の首は真後ろまでは回らぬようだ。絶対に奴の正面で立ち止まるな!」

「【ガイドさん】!何か良い武器無いか!」

【ご案内します。通常の魔物と同じく体内に魔石があるようですが、少々異常な状態です。まるで何かに守られているかのように覆われております】

「さっきの迷宮の魔物が妙に強かったのとも関係しておるかも知れぬの、見た目通りの強さだと思わぬ方が良いぞ」

この見た目だけでも十分強そうなんだけど、それ以上かも知れないってどういう事よ……。

【ご案内します。やはりヴォーパルソードを使用する必要があるかも知れません】


次回、第56話「悪役令嬢と『白イデコトラ』」

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