第56話「悪役令嬢と『白イデコトラ』」

俺様達の前の九頭ナインヘッドヒュドラゴンは、切られた左後ろ脚の傷から紫色の毒々しい体液を流してはいるものの、動きに支障があるようには見えない。しかもその傷は治り始めている。

「ヒドラと名前に付いてるだけあって再生能力が凄いな。あんなのどうすりゃ良いんだ」

【ご案内します。できるだけ離れて下さい。『武装:巡航ミサイル』を取得いたしました。発射いたします】


リアがバックで九頭竜から離れると、俺様の荷台の天井部分のパネルが開き……、潜水艦のようなミサイル発射装置が露出した。おい【ガイドさん】!? 何してくれてんの!?

俺様の荷台は空っぽかリアの部屋があるはずなのに、その中身を無視するかのような巨大な一発のミサイルが天に向けて発射され、上空でLの字に曲がるとそれはまっすぐ九頭竜へと飛んでいった。

そして、九頭竜はそのミサイルの直撃を受けて爆発炎上する……。凄まじい爆発でキノコ雲が上がってるぞおい。


「……おいジャバウォック、おぬし世界を滅ぼせるのではないか? 引くわー」「やめろ」

「すごい花火だね……。無いわー」「マジやめて」

リアさん、あれ花火じゃないからね? そしてレイハはともかく、リアにまでドン引きされたよおい。

俺様の改造って何でもありかよ、もしかしたら核ミサイルですら装備できるんじゃなかろうな……。


【ご案内します。巡航ミサイルの威力は高いですが、周辺を爆発に巻き込むので安全を確保しにくい上、DPを大量に消費いたしますので濫用はおすすめできません】

言われなくても撃ちまくったりしないけどね! 爆炎と煙が収まると、九頭竜は健在だった、しかし9本あった頭のうち6本が失われ、胴体にも大きな損傷が見られた。


「えっと、やっつけちゃった?」

「いや、油断するな! 九頭竜はあそこからでも再生してくる! 畳み掛けるぞ!『フツヌシ』!行け!」

レイハは声と共に手に持つ刀を自分の上に放り投げると、出現した時と同じように巨大化し、4m程の長さになり、九頭竜めがけて飛んでいった。

刀は踊るようなレイハの手の動きに合わせて九頭竜を切り刻み、ダメージを与えていく。

だが、その間にも胴体の傷は驚く程の速度で回復してゆき、中にはもう生えかけている頭もあった。


「ええー、せっかく痛めつけたのにー」

「ちょっと待て、あんなのありかよ。もう治り始めてるじゃないか」

「だから言ったであろう、厄介じゃと。じゃが再生能力とて無限ではない。このままダメージを与え続ければいずれそれも追いつかなくなる」

しかし、それは俺様達の希望的観測だった。弱っているはずの九頭竜が比較的損傷の少ない3本の頭を天に向けてブレスを放つ準備をし始めた。


「おいあんな状態でブレス吐こうとしてるぞ! 大丈夫なのか?」

「敵の心配をしとる場合か!とはいえ爆発せんとも限らんの、リア!もっと離れるのじゃ!」

「おっけー!」

再び吐かれたブレスは、最初のものとは比べ物にならない程弱いものではあったが、それでも油断のできなそうな威力だった。だがそれは九頭竜の本体にもダメージを与えている。

ちぎれた首の穴からも炎が立ち上がり、胴体の傷からも炎が吹き上がっている。どっちにダメージ与えているかわかんないなこれ。


「よしいけるぞ! このまま奴に炎を吐かせれば自滅する!」

そうは言ってもあんな状態の相手に近づくなんて簡単じゃないしそもそも近づきたくないんだが?

「火には水じゃ! ウチが神を招聘するからそのまま突っ込め!」

さっきからポンポン神様呼んでるけど大丈夫なんだろうか、それとも、神様とか総動員しないといけないような事情がある……?

「天之尾羽張により斬られし創世の母神殺しの血より生まれし二柱の水神よ、今ここに! 『神威招聘:クラミツハ・タカオカミ』!」

レイハの言葉と共に呼び出されたのは、2体の巨大な龍だった。身体が水で構成されており、胴体を絡ま合っているので双頭に見える。九頭竜が西洋竜っぽいのに対し、こっちはもろに東洋竜だな。


双頭の龍は、九頭竜に対抗するように息を大きく吸うような仕草を見せ、九頭竜が炎を吐くのと同時に双頭龍の方は水を吐いた。とはいえ九頭竜の方はあくまで炎なのに対し、こちらは実体のある水だ。

水の勢いに火の方が負け、九頭竜に直撃すると、大きく体制が崩れて横倒しになった。


「いけるぞ! リア! ウチが魔石を露出させるからとどめを刺せ! 『神威招聘:カグツチ』!」

レイハが再びレーザー光のような炎を放った。俺様はドリフトのように180°旋回し、後部格納室のハッチを開く。

そこには既にデコトラアーマーを着用してヴォーパルソードを構えたリアがカタパルトで準備をしていた。

【ご案内します。ヴォーパルソードはあくまで対デコトラ用の武装です。確実にコアを破壊しないと効果は十全に発揮できませんのでご注意下さい。それでは時間が無いので即座に射出いたします】

覚悟を決めて剣を構えるリアは一直線に露出した魔石へと弾丸のように飛んでいく。カウントダウンが無かったが2度めともなれば慣れたものだ。


「あひゃほひぇはぇはよねぉえーーーーーー!!」

あ、やっぱり慣れてなかったか。

だが、【ガイドさん】による狙いは正確で、すっ飛んでいったリアのヴォーパルソードは真っ直ぐに九頭竜の露出している魔石へと突き刺さった。

「リア! 今だ!」

「うわあああああああああ!!」

引き金と共にパイルバンカーが動作し、反動でリアは大きく後ろにふっ飛ばされた。これはデコトラとは勝手が違うらしい。

俺様はリアの背中から脚を生やすと地面にぶつかる前にふんばった。九頭竜はというと、魔石を割られた為かのたうちまわっている。


「えっと、勝った、よね?」

「魔石は破壊されたからの。後は魔力となって四散するだけじゃ。しかしあれだけの魔力、どうしたもんかの。それこそアマテラス様にまたお越しいただいて浄化するしか無いかのぅ」

レイハの言う通り、九頭竜は魔力の霧へと形を無くしていっていた。しかしその中から明らかに異質な魔力が吹き上がっていた。あれが闇の魔力なのだろう。

「でもあれ、様子がおかしくない?」

「闇の魔力は、はっきり言って特性がよくわかっておらんからな……、む、あれは!?」

「黒い……、デコトラ!?」


俺様達の眼の前で、黒い魔力は徐々に形を成し始めていた。だがその姿は俺様達が見慣れている、いや見慣れすぎている姿だった。

【警告します!異常な量のデコトラ因子を感知!危険です! 危険! 危険!】

【ガイドさん】の言う通り、黒い魔力を介してなのか何者かが出現しつつあった。まるで黒い炎で出来たデコトラだ。

それにしても何故【ガイドさん】はデコトラを認識したんだ? さっきまではデコトラと無関係と言ってたのに。

けど今はそんな事を言ってる場合じゃないな、しかしどうしたもんだろうこれ。また次の戦いが始まるのか?

だが、その心配は無用だった。突如天から白い光が降り注ぎその黒い魔力を包みこんだのだ。光はまるで天へ昇る柱のように屹立し、辺りを照らす。

何だ……? と皆が天を見上げると、目を疑うものがそこにあった。


「何、あれ? 白い箱?」

「地面側はまるで内臓じゃな、というかあれ、ジャバウォックに似とらんか? 多少シンプルじゃが」

「あれ……、あの白いトラックは……」

そう、あの”白いトラック”だった。流麗で傷一つ無く、オーナーの手入れの行き届いた真珠色とも言える眩しいボディ。前世で時に高速道路で並走した時、時にSAで隣り合った時、会話をする事も無かったが、わずかな時間でも実に満たされた気持ちだった。


”白いトラック”はゆっくりと降下してくる。箱型の荷台の側面にはご丁寧に羽根が生えていたが、神秘的な雰囲気にはよく似合っていた。

車体には以前と異なり様々な装飾が施されていた。キャビン部は以前とは異なり、カービングの施された輝く板で装飾が施され、尖塔のような飾りがいくつも立ち並びまるで神殿だ。


「上に誰か乗ってるねぇ」

「む、たしかに。まさか……、あれが『デコトラ聖女?』」

白いトラックの上に立っているのは、呼び名にふさわしく僧侶のような格好で聖女のような佇まいの少女だった。

ややリアよりも幼いかな?という感じの顔立ち、銀髪に緑目で色素の薄い雰囲気は神秘的という他無かった。だが無表情といっていいその顔に感情の動きは見られず。俺様達に敵意を向けるでも親しみを向けるでもなかった。


「闇の魔力を感知したので来てみれば、思いもかけぬものに出会えたものですね」


少女の声なのだろう。幼さの残る声のわりに、その言葉は大人びたものだった。

白いトラックは着地すると、ゆっくりと俺様達の方へとやって来た。

「フォルトゥナ、危険です。不用意に近づくものではありません」

「もー、レティは人を疑いすぎー! だいじょーぶだってー。多分あーしの仲間だしー」

真面目そうな上の少女に対し、下のトラックは、なんか……、ノリが軽いな?


え? なんで俺様の前に来るの? 白いトラックはまじまじと俺様を見てくる。


「ちょwwwマジデコトラなんですけどー!超デコトラwwwウケるwwww

 異世界であーし以外のトラックに会えるとか、レベチで凄くね?wwww 三三三三⁽⁽٩(๑˃̶͈̀ ᗨ ˂̶͈́)۶⁾⁾キャー」


……………………………………は?


次回、第57話「デコトラ ト ギャルトラ」

何かがこう囁いた「キャラ付けに迷うならギャルにしとけ」と。聖書とかにもそう書いてある、多分。

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