第1話「デコトラ、天命ヲ全ウス」
俺様の名はジャバウォック。一言で言うと異世界からやってきた『デコトラ』だ。
何? 前世の人としての名前は何だった? だと?
だから、デコトラだよ。俺様は生まれてから今までずっとデコトラだったの。
そもそも人がトラックに生まれ変われるはずないだろうHAHAHA。人から物だぞ? 発想が凄すぎてむしろ尊敬するぜ。
いや別に俺様も異世界に来る前からこんな明確に意志があったわけではない、そもそもその辺のトラックがみんな意識持ってたら怖いだろ?
俺様はいわゆる
けれどオーナーがある日デコトラにドはまりしてな、何年も何十年もかけて俺様をカスタムしていった。
人が長年愛着を持って使った物には魂が宿ると言われているよな?
俺様のように大金をかけて手をかけてくれて、毎日のようにキレイにボディを磨かれていたら、そのうち意志くらい宿るさ。
俺様のようなトラックや車はたまにいてな、高速のサービスエリアで出会ったら世間話をしたもんだよ。
とはいえ人の世というか車の世も色々と世知辛くてなぁ、どうしても暗い話になるんだわ。
「なぁ、知ってるか、〇〇運送の奴、人を
「マジかー、あいつもついに罪憑きか」
「あいつ自身は良い奴なんだがなー、オーナーが乱暴な運転でなー」
「浮かばれ無いよなあ、
「結局悪いのは、どうしても運転している人間の不注意だったりするからな」
「子供飛び出してきたりとかの、どうしようも無い事故ならまだしもなぁ」
とかな。
まぁ俺様達のような車が寄り集まる井戸端会議になるとだ、だいたいは乱暴な運転をするオーナーの愚痴になるなぁ。何しろ俺様達は自分で自分の身体を動かせないからな。
その点、俺様のオーナーは走る紳士と言ってよかったぜ、歩行者には道を譲るし、時に子供を乗せて喜ばせたりしていた。俺様もこのオーナーで良かったとつくづく思ったもんだ。
『デコトラってのはなぁ、どう見ても怖いからな。謙虚でいないとお上に潰されちまう』
と、実利的な部分もあったと思うけどな。
実際、運送会社として荷物を受け渡す際、デコトラはやめてくれ、って荷主も多いんだとさ。
見た目が威圧的で反社会的だからだそうだけど、トラックの見た目だけで差別されるってどうなんだろうな。
格好いいと思うんだよ?絢爛豪華なこの見た目、我ながら惚れ惚れするぜ。
とはいえ、法律も何もかもが厳しくなったり、ディーゼルがどうたらで東京都という所に出入りできなくなったりと、俺様が活動できる範囲はどんどん狭くなっていった。
20年以上走り続けたけど、最盛期の頃は陸を行く船とか言われて頼もしく見られたものなんだけどなぁ、時代って変わるもんだぜ。
俺様もいずれ道を走れる事すらできなくなって、デコられたパーツを全部外され、ただのトラックとなって廃車となる日がくるのかと思っていたある日、その事故は起こった。
さっきも言ったけど、俺様のオーナーは紳士と言って良い。清く正しく美しくを地で行くような走りだ。
とはいえ、それでも突然飛び出してくる子供にはどうしようもないんだ。俺様の身体が大きく重すぎるからな。
危ない! と思った時にはもう遅かった。子供が俺様のすぐ前の横断歩道で立ちすくむ、誰がどう見たって間に合わない。クラクションの音だけが鳴り響く。
俺様は、その時生まれて始めて全身全霊で何とかしよう、このオーナーにだけは「罪憑き」になって欲しくないと、死力を振り絞った。
その結果、ハンドルの動きを制御するパワステ?とか言う部品が、長年の使用と、俺様の車体の重さによる負荷、更には俺様の意志によってほんの少しだけの故障をわざと起こす事に成功した。
いける! 今なら自分の意志でハンドルを回せる!
俺様の生まれて初めてのハンドルさばきで、華麗に子供を避ける事には成功した。
しかし、何事にも代償というのはつきものだ。制御を失った俺様の巨体は大きく道を外れ、住宅街の一角に衝突してしまった。
幸いブロック塀を突き破った先にある、廃屋らしき木造住宅とが大きく壊れただけで済んだけど、俺様の胴体の燃料タンクは傷つき、軽油が漏れ出してしまった。
普通なら軽油は簡単には着火しない、しかし壊れた木造住宅は別だ。どこからか火が出て家の方が火事になってしまい、俺様の車体を炎が包み始めた。
オーナーは慌てて俺様を動かそうとするが、もう俺様は動く事はできなかった。何度エンジンをかけようとしてもかからず、そのうちに運転席にまで火が回り始めた。
すると、オーナーは普段あんなに運転席では吸わなかったタバコに火をつけ、ぷかぷかと吸い始めやがった。
こいつ! 俺様と心中する気か! やめろ! 俺様がそんな事望んじゃいねえ!
「なぁ〇〇丸、お前とは長い付き合いだった。俺の不始末で起こした事故だ。俺も責任を取るよ」
やめろやめろやめろやめろ! あんたは罪憑きでも何でもないんだ! 何の罪も背負っちゃいないんだ! 頼むから逃げてくれ!
もちろん俺様の声なんて届かない、どんどん強くなる火勢にとうとう運転席まで火が回って来てしまった。
その時、ドンッ! という衝撃が走り、運転席の窓に人の影が映った。
「おいあんた! 何してる! 逃げろ! おいこのガラス割れ!」
「やめろ! 俺はこいつとずっといっしょだったんだ! 頼む止めてくれ! 最後までこいつといさせてくれ!」
他の人間がオーナーを救出に来てくれてたぜ、ありがとうよ、見ず知らずの誰か。
暴れるオーナーだが、大人数人相手じゃどうしようもない。これで一安心だ。
だが、俺様はそうはいかなかった。よく知らんが重油ってのは一旦着火するとなかなか厄介らしい。木造家屋の火災やらその日は風が強かったやらで、ついに俺様の身体は豪快に炎上を始めた。
消火活動だって進んじゃいたが、俺様が丸焼けになるまでには間に合わなかった。住宅火災の方だって放っておけないだろうからな。
ああ、俺の人生、いや、車生は……、なんか読みが嫌だな下ネタじゃねぇぞ。俺のデコトラ生はここで終わりだ。
気がつくと俺様は、 白い空間の中に寝転がっていた。
デコトラなんだからずっと寝転がっているようなもんだろと言われるとそうなんだが、こう、気分的にな、気分の問題だ。
これが、天国って奴なのかな?いやなんで車の俺様が天国に?
【目を覚ませ、目を覚ますのだ、〇〇丸よ】
誰かの声が聞こえる、しかしもう俺様は死んだはず。ゆっくり休ませてくれ、これでも数十年走り詰めだったんだ。
【起きろっつーに、話があるのだ〇〇丸よ】
しつこいな、なんだ一体?面倒くさいから無視してよう。
【聞こえておるぞ!起きんかこのバカ者!】
うるせぇ! 静かに寝かせろよ! いくら温厚な俺様でも怒るぞ!
【ああ!? やんのかコラァ! 上等じゃこのクソガキ! その喧嘩買った!】
いや喧嘩売ってきたのそっちだろ! 口悪いなお前!
何なんだよ人が、いやデコトラがせっかく良い感じに永遠の眠りにつこうとしてたのに、何だお前は。
【わしは、デコトラの神だ】
はぁ!?
次回、第二話「デコトラ、デコトラ神ニ謁見ス」
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