第21話「悪役令嬢、野外宿泊ス」
ふと気づくと、俺様達は晴れた青空の下、森が近くに見える平野の真ん中にいた。転移したっていう事か?
先程までは夜だったのに昼になっているという事は、一気に距離を跳んだせいで時間が変わっているのか、ずーっと東の方にでも移動したか?
【ご案内します。ジャバウォック様が考えている通りです、転移は成功し、我々は10000km程東方に移動いたしました】
「1万キロ!?地球だと1/4周くらいか?ええー、本当に移動しちゃったの?とはいえ空があんなんだしなぁ……」
俺様が【ガイドさん】と会話してると、メイドのケイトさんも起きてきたようだ。窓の外を見て少々驚いていた。
「少々理解しがたい事になっておりますね。つまり私達は本当にはるか東方に移動したという事ですか?」
「え? え? あのボケはどこ? もう2~3回ほど轢いてやりたかったのに」
リアも起きてきてたがやっぱブチ切れるとヤバいなこの子……。人を殺す事に全くためらいが無い。というかあの2人、どうなったんだ?
【ご案内します。2人分の因果力でしたので少々計算が狂いました。本来ここまで遠方に移動する予定では無かったのですが。
あの2人は時間転移をして、現在は1000年前の世界にいらっしゃるはずです】
「いらっしゃる、って1000年前?どういう事!?」
【ご案内します。先程もご説明した通り、『スキル:異世界転移』の作用を時間移動と空間移動に分解し、私達は空間移動、あのお二人は時間移動をした事になります。
私達の移動量から逆算すると、あの2人が移動した時間は約1000年程になるかと思われます】
「ええー……、あの場にいたのが運の尽き、ってやつか?まぁ生きてるなら良い、か?」
俺様は2人がタイムスリップってやつ? をしたのはまぁ仕方ないかとか思ってたが、話を聞いていたリアとケイトさんにとってはただ事では無かったようだ。
「ねぇケイト、1000年前って……。」
「はい、ジャバウォック様はこの世界の歴史をご存知無いようなので無理も無いのですが」
リアは不安そうにケイトさんを見ている。ケイトさんも言いにくそうだったが、渋々と続きを説明してきた。
「ジャバウォック様、この世界では1000年前に『大襲来』が発生しているのです」
「何、それ。『大襲来』?」
「はい、『魔界』と呼ばれる世界から『魔王女』と呼ばれる存在が来襲し、たった一人で世界の大半を焼き尽くしたと言われております」
「なにそれこわい」
「あの2人が飛ばされた1000年前というのは、その『魔王女』に対抗すべく世界中が一丸となって魔王女の軍勢との大戦争をしている頃なのですが……、大丈夫でしょうか?」
正直そんな事聞かれても困る。だって事故みたいなものだったもの。俺様は天を仰ぐしかできなかった。いや今はデコトラの状態だから顔は無いぞ、気分の問題だ。
「どうにもならんよなぁ」
【どうにもなりませんねぇ】
さすがの【ガイドさん】が素になってるぜ……。
「……なんだここは!? いや、どこだここは!?」
「王太子様!わ、私達いったい? また撥ねられたのでは?」
2人が立っていたのは先程とはまるで違う場所だった。城下の広場にいたはずなのに、いきなり建物の中に移動していた。そして周囲には大勢の人々の姿が。
「おお……人が突然現れたぞ。何という事だ、本当に異界への扉が開くとは」
「やはり転移理論は正しかったのか」
「だがしかし、いったいどこにつながったというのだ」
「わからん、非常に強い因果流が介入してきたようだが」
「王太子様、この人たちは一体何を……?」
「わからん、わからんが妙に古い様式の服装だな……? いったい私達はどこに来てしまったというのだ?」
2人はまだ理解はしていなかったが、今いるのは『大襲来』が起こる以前のテネブラエ古王国だった。
この2人の行動が歴史にどう影響するかはまだ少々先の話であった。
「ねぇケイト、私なんだか眠くなってきちゃった。空はあんなに明るいのに」
「私もです。不思議ですね、身体の調子がなんだかおかしいですわ」
俺様は車なので時間帯なんて一切気にならないが、リアとケイトさんは人間だからな。周囲が明るいせいか眠そうにしてる、これはアレだな。
「多分時差ボケだな、突然遠くにまで移動したから認識している時間と現実の時間がズレちゃったんだよ」
「……よく、わかりませんが?」
「要は寝たら治るって事だ。説明はややこしいので後にしよう、というか寝る所どうしようかな」
勢いで家出してきたようなものではあるが、どう見ても周囲に宿屋がある雰囲気ではない。このキャビン内で寝泊まりするにしても女性2人だとなー。
一応部屋みたいにはなってるけど床に寝かせるわけにも行かない。
【ご案内します。でしたらば『スキル:車体改造』でジャバウォック様後部の荷台内部を主様の部屋にしてはどうでしょうか】
「あ、それいーね。後ろの箱って部屋にできるんだ」
「えー、普通は運転席の後ろがベッドになってだなー、運転手は交代でそこで寝泊まりしてるんだぜー?部屋なんて贅沢過ぎないか?」
「ジャバウォック様正気ですか?貴族令嬢であるお嬢様が、この部屋よりも狭い所で寝泊まりなんてできないでしょう」
「いや……、この部屋だって十分豪華だし広いと思うよ?」
この運転席の中は改造されてて四畳くらいの貴族部屋のミニチュアみたいになっている、運転席代わりのソファやらを前にやれば寝る所くらいは作れると思ったのだが、ケイトさんはそれを受け入れられないようだ。
【ご案内します。それではキャビン後方にドアを設置いたしました。中へお入り下さい】
ぎゃーぎゃー言ってる間に、運転席後部の壁にいつの間にやらドアが出来てた。ノブとか付いてる普通のドアだぜ……、しかも妙に豪華な装飾付きの。
皆が中に入るとそこはがらんとした部屋だった。俺様も気分の問題なのでデコトライガー形態を出現させ皆の後に続く、自分で自分の体内を歩くって変な感じだな。
中は単なる貨物室なのに……、とか思ってたら、いつの間にやら壁紙とか床が運転席と同じようにカスタム済みだった、シャンデリアまでぶら下がってるし……。
「おおー、ちょっと細長いけど、そこそこ広い部屋になってる。運転部屋と同じ壁紙と絨毯だわ」
「そこそこって……」
貨物室全体が部屋になってるわけだから、変形でも二十畳くらいはあると思うんだけど。この子やっぱりブルジョワのお嬢様なんだよなぁ、大丈夫かなこれから。
【ご案内します。お疲れかと思われますので、ひとまずバスタブを用意いたします。お湯浴みなどをなさってはいかがですか?】
「お気遣い感謝いたします、それではお嬢様ご準備を」
それなりの広さのあるど真ん中にバスタブだけがちょこんと現れた。その中には湯まで張られている。
リアはケイトさんの手伝いでポンポンと服を脱いでゆき、脱いだ服は予め持ち込まれていたリアの荷物の中の衣装箱にしまわれていく。
「あー、気持ちいいー。お風呂なんて久しぶりだよー」
リアは心底気持ちよさそうに湯船の中で背伸びをしている。
まぁなぁ、お屋敷から数日かけて王都の城まで直行してあの大騒ぎで、今はこんな状態だもの、風呂どころじゃなかっただろうな。
「ジャバウォック様は本当に邪念が無いですね。妙齢の令嬢が裸だというのに全く興味を示さないとは。おかげでこの先の旅も安心ではあるのですが」
「だから俺様は車だっての。人間の裸とか見ても何とも思わないよ」
ケイトさんは俺様を何だと思ってるんだ。今はライオン型の機械生命体みたいになってるけど、あくまで俺様は車だからね?
前世での
「えー?んじゃ何なら興奮するの?」
「はぁ!?いやリアさん!?年頃の女の子がそんな事の興味を持つんじゃありません!」
「良いではないですか、この際だから人と車の感覚の違いを知っておくのも良いと思いますよ?ちなみに好きな異性のタイプはどんな方なのです?」
ケイトさんまで乗ってきやがった、女子って本当こういう話好きなのな。
次回、第22話「デコトラ、『恋バナ』ス」
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