第20話「悪役令嬢、運命ニ直面ス」


離宮を離れた俺様達は、城の外に出る為に城壁に近づきつつあった。

【ご案内します。ここが城壁の最外殻のようですが。おそらくこの先は堀になっているかと思われます】

「うかつに壁を破ると水の中って事か。車じゃ水の中はなぁ、デコトラで近くの門を破って逃げるか」

「とはいえ、裏手にしては妙に兵士の数が多くないですか?」

ケイトさんの言う通り城壁の遠くに見える小さな門には、その規模の割には妙に多くの兵隊が集まっていた。



「おい、こちらへの人員はどうだ!」

「ははっ! 既に全体の2割をこちらに向かわせております」

「急げよ、城の裏手で眠らされた者がいるからな、方角的にはこちらに向かっているはずだ」

「はっ! 既に城の外も兵で包囲しつつあります、軍の威信をかけても捕縛いたします!」

「いや、もう場合によっては生死は問わぬそうだ。死なせてしまったとしても罪には問わぬと、むしろ報奨金すら出すそうだ」

「は!? 貴族令嬢を、でありますか? いったい何が元でそのような事に!?」

「わからぬ、だがよほどの事があったのだろう」



俺様達は、兵士達の会話からリアの殺害も辞さない状況になっていると知り、顔を見合わせていた。

「困りましたね、かなりまずい状況のようです」

「あの兵士さん、見つかっちゃったんだー」

「運が悪かったな、どうしたもんだろう。【ガイドさん】、こういう時に役立つようなスキルは無いのか?」

【ご案内いたします。少々代償が必要ですが、この場の全員を遠くへ転移させる事のできるスキルがありますが、どういたしましょうか?】

口を濁すなんて【ガイドさん】にしては珍しいな?


「【ガイドさん】、一応聞くけど他に手段は無いのか?」

【ご案内します。現状のDP、時間的制約、周囲の状況を総合的に分析した中で最も確率の高いものです。他に手段はあまりありません】

俺様は【ガイドさん】の提案を皆に確認する事にした。俺様のDPとはいえ勝手に使うわけにはいかないからな。

「どうする?リア。一応この中ではリアの言う事に従うべきだから聞くけど」

「んー、ガイドさんが今まで判断を間違えた事って無かったわけだし、それで良いんじゃない?」

「決まりですね」

まぁ【ガイドさん】の信頼感からあっさり決まったんだけどな。



「ん? 何だあの光は」

「何かがこっちに向かってくるぞ!」

「どけどけー! ケガするぞー!」

俺様は最初からデコトラドリルを出したまま門へと走った。余程の事が無い限り兵士達は俺様の前に立ちはだかるような事はないだろうとの判断からだった。

人の間を縫って門まで走り、あと少しという所で門が閉じられ始める。

「閉めろ!奴を外へ出すな! ここで食い止めるんだ!」

「無理に押さえ込もうとか思うな!一旦退け! 閉じだ門とで挟み撃ちにしろ!」

案の定、直接手は出そうとせずに門を閉じる事でなんとかしようとしてきた。だがそれこそがこちらの狙いだ。

俺様はデコトラドリルを回転させて門を砕くようにして穴を開け、一気に城を囲む堀にかかっている橋を渡り切った。

とはいえまだ城を出ただけだ、まだまだ先は長い。



「それで【ガイドさん】!これからどうしたら良いんだ!」

【ご案内します。『スキル:存在感知L2』を取得いたしました。これで半径100mの生物を感知する事ができます】

「え?そんな便利なものがあったんならどうして最初からLV2を取得しなかったんだ?」

【ご案内します。見ればわかります】

突然、フロントガラスに地図のようなものが浮かび上がった。地図というよりは発光する赤や黄色の点の集まりで、もはや何がなんだかわからない。ひょっとしてこれ全部が生物の気配ってやつ?


【ご案内します。ご覧の通り生物の数が多く、反応を限定して人間程度の大きさの生物に限定してもこの状態です。ですがこれで軍の動きはおおよそ見当がつきます】

つまり、生物の数が多すぎて点では追いきれず、塊としてしか認識できない、って事ね。たしかに何も知らずこれを見たら何がなんだかわからんな。

しかし人の群れの分布を調べるならこの方が良い。赤い所が人が多く集まっているという事なのだろう。


「んじゃ、この赤い点群の軍から逃げるように走れば問題ないって事で良いな!」

【ご案内します。いえその逆です。軍の指揮系統の中枢を目指して、逆に突っ込んで行って下さい】

「いやそれ、大丈夫なの?相手が増える一方なんだけど?」

【ご案内します。問題ありません、最悪人死を厭わず轢き殺していけば活路は見いだせますので。ですがそれを望まれないでしょうから、こちらを選択しております】

「まぁそういうなら仕方ないけどさ……。おっと危ない!あーボディに傷がついたー!」

俺様は軍隊からの攻撃を避けながら走っていたが、延々避けるのにも限度というものがある。城から続く通りには様々なものがあるのでそれにぶつかったのだ。


「えー?もしかして、じゃばば、痛かったりする?」

「いや別にそういうのは感じないけど、身体に傷が付いたってのはわかる。あー、嫌だなこれー、直るかなぁ」

【ご案内します。そういう細かいキズはDPさえ消費すれば修復可能ですが、現状は後回しにすべきかと思われます。今はとにかく目的地へ急いで下さい】

「え?直るの?なら話は別だ!おらおらー!邪魔すんなー!」

いくら傷が付いても治るのなら話は別だ。俺様スピードを上げて大通りを爆走して行った。

が、それにも限度があった。

「兵士の数が増えてきましたね……。避けて通るのも時間の問題では?」

ケイトさんの言う通り、既にフロントガラスの表示は真っ赤だ。軍に近づいていっているんだから当たり前ではあるが。


【ご案内します。それでは『スキル:時空トランス転移ポーテーション』を取得いたします】

「ちょっと待て【ガイドさん】、何だよそのスキル? 転移? 時空?」

【ご案内します。このスキルは対象を時空転移させる事ができます。その作用を一部利用してジャバウォック様の車体ごと遠方への転移を行います】

「……何か嫌な予感がしてきたんだけどさー、そのスキルの発動条件って?」

【ご案内します。このスキルを発動させるには、代償となる人物をこのデコトラで撥ねる必要があります】


「何となくそんな気がしてたけどやっぱりかよ! 何だよそのスキル! 作ったのはどうせあのバカだろうけどさぁ! あいつ何かトラックに恨みでもあるの!?」

【ご案内します。一見無関係のようにも思えるでしょうが、このスキルはトラックでないと駄目なのです】

「一応聞くけど、どうしてトラックじゃないと駄目なんだ?」

【ご案内します。前世でのトラックは毎日大量の荷物を人から人へと運搬いたしますよね?】

「まぁたしかにそうだけどさ、それと異世界転移とか転生がどんな関係あるんだよ」

【ご案内します。大いに関係します、トラックは荷物の運搬を通して人と人の因果をつなぐ事で、自然と因果律の大きな流れを自ら作り出して様々な因果を背負う事になるのです。

 ましてジャバウォック様は数十年間もの間、荷物の運搬を通して膨大な量の因果を背負っておられます。その因果力は人や生物等では到底なし得ぬ程の領域にまで達します】

「何その理屈……、そんなん知らん……。本当かよ」

【ご案内します。本当です、トラックが何かに衝突した場合、対象とトラックの因果が衝突する事で膨大な因果力の暴走が起こり、相手の因果を書き換える事で、時に人を異世界転生させる程の時空の流れ発生してしまうのです。

このスキルではその作用を利用しても時間と空間の転移までしか起こせませんが、相手を時間転移、ジャバウォック様の車体を空間転移するようにスキルの作用を配分する事で遠方への転移を行います

「ええー、たしかに遠くへ行きたい、って言ったけどさぁ……。とはいえ、この軍隊の人数じゃどうにもならん気はたしかにするなぁ、けどなぁ」

「話をまとめると、誰かを犠牲にする事で、私達は安全な所へと転移するという事ですか?うーん」

「んー、【ガイドさーん】、ちょっとそれはどうかなぁ、って私も思う」

皆複雑な表情をしている、逃げるためとはいえなぁ。いくらなんでも相手が可哀想だ、とか思っているとそのバカは突然現れた。



「見つけたぞおおおおおおおおお! このアバズレ! よくもこの私をコケにしてくれたなあああああああ!」

「王太子様ああああああ! あんな奴、修道院送りにするまでもありませんわああああ! さっさと始末なさって下さいましいいいいいい!」

……おい、マジかよ、ここであいつが現れる?大通りに面した広場に兵士たちが多く集まっている所のさらに中央に王太子の姿があった。

ついでと言ってはなんだけど、お相手のエステル子爵令嬢まで側にいるぞ……。

つかあいつらいっしょにいるって事は、あんな事になったのにまだ結婚とかするつもりなのかよ。

この包囲網の軍隊を指揮していたのは王太子だったらしい。舞踏会での騒ぎの責任を取らされたんだろうか?


「……ジャバウォック様、どう考えてもこの状況は”あれ”を撥ねろとしか言っていないのですが」

「奇遇だな、俺様も全く同じ事を考えてる。まさかこんな事を【ガイドさん】が仕組むはずもないし、運命って奴なのか?これ」

【ご案内します。私もあのボケ……、失礼、あの王太子が現れるとは思っておりませんでした。軍を率いるからには王族の誰かだと予想していたのですが……】

ケイトさんはともかくさすがの【ガイドさん】が呆れ気味だよ、だよなー、冗談みたいな状況だぜこれ。

このまま真っ直ぐ王太子のいる広場の中央へと走っていけばいいんだけどさー。判断に困って俺様は広場の入口付近で停車した。


「えー、もうなんか嫌なんだけどー」

リアもさっきのでもう満足したのか、これ以上あいつに関わりたくはないようだ、だが俺様達の善意を無視するかのように王太子は延々こちらを罵倒してくる。

「聞いているのかアウレリア! お前など正妃には絶対してやらんが、愛妾として傍において一生精神的肉体的にいたぶってくれる! わかったらさっさと無条件降伏しろ!」

「お聞きになった!? 王太子様は寛大にも貴女を慰みものにする代わりに修道院行きを免除して下さるそうよ!

 さっさと感謝の意を表すために、その妙なものから降りて土下座なさい!」

バカップルは周囲に兵隊達がいるのを良いことに言いたい放題だった。土下座ってこの世界にもあるのかー、などと思っていると、


「……撥ねる」

あ、ブチ切れたリアがボソっと一言つぶやくと、思いっきりアクセルベタ踏みしたよ。

まさか突っ込んでくるとは思わなかったんだろう、王太子とエステル嬢は信じられないといった感じで、俺様達のフロントガラスでどんどん大きくなってくる

衝撃と共に光が発し、重力が無茶苦茶に作用しているような感覚と共に俺様は一瞬気を失った。


次回、「悪役令嬢、野外宿泊ス」

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