第22話「デコトラ、『恋バナ』ス」
「俺様の好みとか聞いてどうするんだよ、俺様は車だよ?」
「えー、良いじゃん、じゃばばー、恋バナしようよ」
リアは興味津々だけど、これ恋バナって言うのか……?
「ええー、んじゃ言うけどさぁ。俺様の好みはこう、すらっとした」
「ほうほう」「ほうほう」【……】
ケイトさんまで……。
「白か白銀のロングボディの車体のトラックだな。
あ、キャビン上のエアディフレクタはキャビンや荷台と変な段差が無く、ほぼ一体になってるのが最高だな。こう、流線型でさ」
【「「……」」】
「お前ら、言わせておいて軽く引くな」
俺様はデコトライガーの身振り手振りで説明していくのだが何故全員無言になる、【ガイドさん】まで。
好みが理解できないからって変な人を見る目で見ないで欲しい。俺様は車なんだから好みの相手は車に決まってるだろ。
「うーん、説明されてもピンと来ないんだけどー」
「車の形状の説明ですからね……。それにしてもやけに具体的ですね、実際にそういう人? 車? がいたのですか?」
「あー、そういや、気になるトラックはいたなぁ」
俺様は言われてようやく思い出した。そのトラックは先ほど俺様が言ったようなトラックそのものだったのだ。
時折高速道路やSAで見かけ、時には並走したあのトラック。
よく手入れされているのか真っ白な車体は流麗で、気高さすら感じるほどの美しいボディライン。
普通はトラックといえば男っぽさを感じるものなのに、そいつだけは貴婦人のような雰囲気だった。
俺様はその頃は意思があったけどあっちはどうだったんだろうな?そもそも意思が宿っているトラックにはあまり出会った事が無い。
SAとかでたまたま隣だったトラックがそうだった時とかにはじめて判るんだ。
だからSAとかで馴染みのトラックがいても俺様達は自分で走る事はできなかったから、寄って行って雑談というわけにもいかなかったんだよな。
けど、その”白いトラック”とは一度も会話はしなかったものの、たまに高速道路で出会った時、並走していた時間は結構充実していたように思う。
俺様のオーナーもそのトラックを気に入っていたのか、太陽の光を浴びて白銀のようにも光りながら走るその姿を興味深そうに見ていた記憶がある。今どうしてるんだろう。
「へー、じゃばばにもちゃんと、そういうお話あるじゃーん」
なんかリアって色々なものから開放されたからか、ノリが若干軽めになってる気がするけど良いのか悪いのか。
「ちなみに、どういう状況だと、異性に興奮するのですか? 外側を被っている板とかが取れて内部構造がむき出しになっているのを見た時とか?」
……ケイトさんも、ものすごい前のめりでとんでもない質問をぶっ込んでくるなぁ。
「なぁ、俺様の性癖とか聞いてどうするの? これどういうプレイなわけ?」
「まぁ例えばです、ジャバウォック様が突然その辺の馬車に興奮されても困りますので、一応知っておこうかなと」
「おい俺様がいくら変態でも、その辺の馬車に興奮するわけないだろ。人で言ったらその辺の猿とかの動物に興奮するようなものだぞ」
「ああ、ジャバウォック様にとって馬車ってそういう位置づけなのですか……。どうも常識が色々と狂いますね、で、続きを」
まだ続けるんかい、この話。
「まぁ何に興奮するかと言ったら、キャビンのドアが無防備に開いてる所、だな」
「……すいません、意味がわかりません」
ねぇケイトさんこれ本当に何のプレイ?自分の興奮するポイントを、人相手とはいえ異性に説明するってかなり恥ずかしいんだけど。
「だからぁ、俺様達トラックにとって、キャビンの中の運転席って物凄く私的な空間なわけよ。
それこそオーナー以外は誰も乗せないような、そういう空間への扉が無造作に開いてたら、誘ってるようなものだろ?」
「う、うーん? それで、そのドアの中に何が見えたら、じゃばばは何に興奮するの?」
「……俺様何を言わされてるんだろう。つまり、純白の車体なのにドアを開けたら本革の黒いシートとかだと、ギャップが凄いだろ?
そのギャップがたまらんというか興奮するというか、それでその足元のアクセルペダルとかがチラ見えしそうものなら……、おいドン引きするなお前ら」
「まぁ、人の趣味はそれぞれですからね……。お嬢様に性的な興味が本格的に無いのを聞いて安心しましたが、性癖が特殊すぎて同時にドン引きですね」
「じゃばばー、へんたーい」
「……誰か俺様の尊厳を守ってくれ」
おバカな事を言ってる女子連中はもう無視する事にして、俺様はとりあえずリアの寝床を用意する事にした。
【ご案内します。それではベッドを設置いたします、少々小さくて申し訳ないですがキャビン寄りのこの位置に設置でどうでしょうか?】
これで小さいって……。ほぼ荷台の1/4を埋め尽くす勢いで鎮座してるぞこのベッド、無茶苦茶豪華では!?
【窓は一応設置いたしましたが、外は晴れておりますので体調への影響を考慮してしばらくは開けないで下さい】
窓付けたら本当に普通の貴族の部屋と同じになるな、というかこれどういう構造なんだろう。俺様のボディのペイントにもこの窓がある……わけでは無さそうだ。
「あとは、適当に化粧とかのドレッサーを置いておくとか?」
【ご案内します。以前の屋敷を元に家具の配置を記憶しておりますので、その通りに設置いたします】
「何から何まで至れり尽くせりですね、これなら旅も心配無さそうです」
「じゃばばありがとねー」
野営するつもりが普通の部屋を作っちゃったよ、まぁリアも喜んでるしいいか。
【ご案内します。主様がお湯浴みをされていらっしゃる間に、私達は食事の準備をいたしましょう】
「え? 食事? どこから食料持ってくるんだ?」
【幸い、近くに森があります。そこに行けば食材が手に入ると思われます】
「えーと、んじゃちょっと食料採ってくる。安全の為に勝手に外に出ないでくれ」
「大丈夫なのですか?もし万が一の事があればお嬢様も私も無防備なのですが」
【ご案内します。問題ありません、『スキル:
まぁ俺様の車体は金属だしな、仮に襲撃を受けても魔物だの人だのにはそう簡単には手を出せないだろう。
実際、表に出てみると俺様でもそこには何も無いように思える。これならしばらくは大丈夫そうだ。
「で、俺様はどうしたら良いんだ?」
俺様はデコトライガーの状態で森へと入っていった。結構深い森で、ちょっと入っていっただけで薄暗くなるくらいだぜ。
【ご案内します。なんでもかまいませんので、食料になるものを採取してください。食材へと分解されて食料にする事ができます】
「……とはいっても、俺様は歩くのがやっとなんだけど。狩りとか無理だよ?」
【ご案内します。それでは『武装:デコトラミサイル』及び『武装:デコトラレーザー』の取得を推奨いたします、これで全身のマーカーランプからレーザーを、現状では胸の下からミサイルを発射できるようになります】
「ええええ、ついに武装させられるのか?」
【ご案内します。殺人殺傷の為ではなく、狩りの為の武装なので良いではありませんか、力は使いようです】
「まぁ……、背に腹は変えられないけどさー」
ついに武装が追加されてしまった。今の俺様って、もろ機械生命体だよなー。
俺様は結局なんだかんだで色々と採取をしてきた。といっても鳥とか果物、野菜らしき植物なんだけど、これをリアに食べさせるのはちょっと抵抗あるぞ。
【ご案内します。問題ありません、物質はジャバウォック様の体内に収納された時点で『素材』へと分解され、
例えば先程獲った鳥は、問答無用で『鶏肉』へと変換され、果物も好みのものに変更されます。また、麦科の植物でしたので、小麦粉も生成する事が可能となります】
もはやなんでもありだな……。まるで錬金術か魔法だ。
【ご案内します。ご注意いただきたいのは、元になる食材が無いと何も生成する事はできません。また、繰り返しますがDPの残り量にはご注意下さい】
DPが無くなったらそこで終了という事か。しかしいったい何なんだろうなDPって……。
「ジャバウォック様、どこからこのように新鮮な肉を、まさか盗んできたのではないでしょうね?」
俺様は荷台の最後部に設置された料理台の上に、先程取ってきた鳥を元に『鶏肉』を生成したのだが、ケイトさんに思い切り怪しまれてしまった。
ケイトさんには突然処理済みの鶏肉が出てきたようにしか見えないからな。
俺様が鳥とかの羽根をむしったりできそうにないのは見ての通りのデコトライガーだし、怪しげに思うのも無理はない。
「違う、よくわからんが、鳥を採ったらDPを使ってこういう食材に加工できるらしい。欲しい野菜や果物、小麦粉も出せるんだってさ」
「……都合が良すぎて怖いくらいですね。それでは芋とかの野菜もお願いできますか?」
【ご案内します。更にDPを消費すれば、最初から料理が完成した状態で出すことも可能ですがどういたしましょうか?】
「それでは私がする事が無くなるので困りますね……」
DPも一応節約すべきだしなぁ、あまり楽をするのも良くないだろう。まぁせめて洗濯くらいは楽にさせてあげたい。
「ケイトさん、そんじゃ洗濯機出そうか?箱にリアの服とかを入れたら自動で洗ってくれて乾燥までやってくれるぞ?」
「それでは本格的に私がやる事が無くなるではありませんか!」
「えー、炊事洗濯とか機械に任せた方が楽だと思うぞ?」
野営初日はこんな感じで夜も更けていったのだ。……これ野営っていうんだろうか?
次回、第22話「悪役令嬢、己ノ自由ニ困惑ス」
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