第48話「レイハト『巫術』」
「リア!ジャバウォック!下がれ!それは闇の魔力じゃ!そのままでは汚染されるぞ!」
レイハは俺様達に退避を促しながらも、凶悪な笑みはそのままだった。そういや常識人っぽいけど
俺様達は慌ててギギから離れてレイハの側へと退避した。
「レイハ、突然何だよ闇の魔力って」
「ウチの国で猛威を振るった”良からぬもの”じゃよ。こいつを探すために国を出て、ずっとこいつを追っていたのじゃ」
「ああそういや最初にそんな事言ってたっけ。探してるのってあれ?」
「正確には力の断片じゃ。何故あやつが暴走して言う事を聞かなくなったかがわかった、何者かがあやつに闇の魔力を植え付けたという事じゃな。そしてその何者かは恐らくウチの国での事件と繋がっておる」
「なんだよその何者かって」
「この小僧の言っている事や、暴走し始めた時の姿を総合すると、”デコトラ”に植え付けられた可能性が高いのぅ」
「デコトラぁ!? 何だってまた?」
「それはまだわからぬが、とりあえずはあやつを何とかせねばな」
レイハはテンションが上がると凶悪な笑顔になるようで、捕まえられてるテッド?だったかの少年もその顔に怯えている。
「何とかって! やめて! ギギを」
「安心せい。あやつを暴走させておるものを取り除くだけじゃ。おいジャバウォック、今からウチは術式の準備に入る。しばらくあいつを足止めしておいてくれ。おい小僧、助けてやるから動くでないぞ」
レイハはそう言うと小刀を抜いて構えた、ちなみに最後は睨みつけるように言ったのでテッドが震え上がる。
何を始めるのかは知らんが、俺様はあのギギとか言うのを抑えれば良いんだな!
「ちょっと! 大人しくしてよ! 治してあげるから! えい!」
「だからってリア! その辺の岩で殴るんじゃありません!」
触ったら危ないというのを聞いていたからだろうが、リアはそこらの岩を持ち上げてギギを殴りつけていた。絵面が最悪だなこれ。
ギギの方は割れていた身体を修復しかけていた所を、リアに殴りつけられたのでさらに暴れていた。助けようとしてるようには見えんよなぁこれ。
レイハの方はというと、小刀を構えたまま何かを呟いていた。レイハの身体の周りに小さな光の玉が漂い回転している。服装も相まって巫女のようにも見えるな。
「此の天地に仰ぎ奉る掛けまくも畏き天照大御神、産土大神等の大前を拝み奉りて日之元国が第ニ皇女、零羽が畏み畏みも白さく、大神等の廣き厚き御恵みを辱み奉り高き尊き神教のまにまに直き正しき眞心もちて誠の道に違ふことなく……」
なんかやたら長い呪文だな……。とか思っていると、ギギの身体から黒い霧が吹き出始めた。霧は触手のようにデコトラアーマーに絡みついて来る。
【警告します。即刻離れて下さい、
ええ!? 貴重なDPを吸われちゃかなわんと俺様は慌ててギギから離れた。だが黒い霧はしつこく俺様を追ってくる。
「リア! デコトラレーザーだ! もう能力を真似されるとか気にしてる場合じゃない!」
俺様達はレーザーを乱射して霧を迎撃した。一応蒸発するのか何とか抑え込める、問題はギギ本体の方だ。レイハは相変わらず何かを唱えているのでまだ時間稼ぎが必要だろう。
「えい えい えい! えい!!」
リアさんんん? 岩を投げつけて足止めするのは百歩譲っても、だんだん楽しくなってない? ギギを見てるテッド少年の目がだんだん涙目になってるんだけど!?
「
俺様達が黒い霧と悪戦苦闘していると、突如その場の空気が変わった。
車の俺様ですらその
どういう事だと空を見てみると、太陽が欠け始めていた。皆既日食ってやつか? 今? すごい偶然。
いや、偶然でないというのは次の瞬間にわかった、黒く染まった太陽の意味を。太陽は主がいなくなったからこそ輝きを喪ったのだ。
黒く染まった太陽から光が橋のように差し込み、そこを通って何者かがやってきた。古代の、平安時代よりもっと前の神代の時代的な姿の女性が巨大な鶏に横座りしている。
鶏といっても、卵を生むような可愛げのあるものではない。神獣なのかとんでもない迫力だった。
鳥って恐竜の子孫っていうだろ?ティラノサウルスに羽とか嘴付けて鳥に似せた感じと言ったら通じるか?とにかく鳥類に見えないんだよ。鳥なのに鎧とか付けてるし。
その上に座っている人? いや神様、だろうなもうこの迫力は。着ているものはあえて言うならレイハに似ていた。着物のようでいて更に古めかしく、巫女服に似ているといえば似ているような服を着ていた。
黒く長い髪は後ろでまとめ、額に太陽を模したティアラのようなものを付けており、表情は母性とかの塊のような穏やかな顔だった。
レイハが言ってた天照ってあれ? 神話のめっちゃ偉い人? 【ご案内します。人ではなく神です】
その女性は地上に降りてくる事もなく、見上げるような高さの所で立ち止まり、携えていた弓矢を取り出すと構えた。
俺様の……方に構えてる!? いやちょっと待って神様! 俺様悪い事何もしてない!
俺様がわたわたと慌てている間にも女性はキリリを矢をひきしぼり、いきなりひょうと放ってきた。
あ、俺様死んだ。と目を瞑った時、俺様にまとわりつこうとしていたり、周辺に溢れていた黒い魔力が霧を払うように吹き飛んだ。
そして胸元に下がっていた9のマークみたいな装飾品に手をやると、その身から放たれる光が一層強くなり、耐えられなくなったのかギギの中から巨大な黒い塊が飛び出してくる。
次に取り出したのは丸い盾……、いや違うな、巨大な鏡か。その鏡に黒い塊が映ると、塊はその場で凍りついたように動かなくなった。動きを封じたのか……?
もう片方の手では腰の剣を抜き払っていた、日本刀でもなく西洋の剣でもなく、独特の様式だった。
青白い光を放つ剣身は細長い草の葉のような優美な曲線を描き、握る所は魚の骨のように節くれだっている。
女性はその剣を振り上げる、あれで斬ったら終わりのようだな。
「お待ち下さい! ”それ”は私の旅に必要なものなのです! どうか私めにそれを!」
レイハの突然の叫ぶような呼びかけが通じたのか、女性は剣をしまうと、両手で鏡を掲げた、その鏡から放たれた光が黒い塊に当たると、光は不思議な事にその塊を包み込むように丸くまとまっていく。
そしてその光球はどんどん小さくなり、ついには小さな珠のようになった。ふわふわと目の前に降りてきたそれを、レイハはまるで宝物のように、恭しく捧げ持つように受け取っていた。
これで全てが終わったのだろう。女性は踵を返し、また黒い太陽へと帰っていくのだった。その後姿にレイハは頭を下げたまま延々何かを唱え続けていた。
「……何だったんだ。今のは」
「ああ、今のはウチの国の最高神じゃ。天照様という」
「……車の俺様でも聞いた事あるくらい有名な神様の名前と同じみたいだけど。お前そんな大それた事できたの!?」
「慈悲深いお方じゃからな。やむを得ずお呼び立てしたが、うまく行って良かった」
「うまく、ってうまく行かなかったらどうなるんだ?」
「うむ、もしも怒りを買えば
「ヤバ過ぎるだろそれ! よくそんな技使ったな」
「技ではなく
仕方無く光の神でもあらせられるあの御方をお呼びするしかなかったのじゃよ」
レイハはそう言うと手の中のものを俺様やリアに見せてくれた。
さっきは珠だったはずが、形状が変わって先程の女神が身につけていた9の字の形状に変わっており、珠を連ねた紐が追加されてネックレスのようになっている。
9の形の珠は日に照らされると淡い光を放った。だが、珠の中心部にはどす黒いものが渦巻いている。
「目玉みたいだねー」
「何だ……、これ」
「要は光の魔力の結晶じゃな。この中心部に黒い魔力が封じ込められておる」
「ちょっと待て、さっきの流れだとあの神様が剣で斬ったら終わりじゃなかったの?何だってまた封じ込めてもらったわけ?」
「黒い魔力は闇の魔力に引かれ合う。これがあれば近くに闇の魔力があれば反応を示すだろうよ」
そう言うとレイハはそのネックレスを自分の首にかけた。リアがちょっとそれを羨ましそうに見てるけど、神様からもらったとはいえ、ちょっと怖くないかそれ……?
「ねぇレイハー、その闇の魔力を持った者ってデコトラなの?」
「……か、それに乗った何者かだろうな」
色々聞きたい事はあるが、とりあえずはこの場を何とかしないとな。
肝心のギギは小さく、手のひらに乗る程にまで小さくなってしまっていた。形状も立方体になっている。
テッド少年が心配そうにそれを手のひらに載せていた。
「ギギ……、大丈夫?」
「心配無かろう、そのままの姿を維持するように命令すれば暴れて悪さをする事もあるまい。家にでも持って帰ってそっと大切にしてやるが良い」
「これで一件落着って事で良いのか?なんか謎だけ増えたようにしか思えないんだけど」
「いや、まだ終わりとは言えんの。何しろ肝心の『デコトラ』を始末できておらんのじゃから。というわけでジャバウォック。一芝居打つぞ」
ええ?まだ何かやるの?
次回、第49話「悪役令嬢ト新タナ迷宮」
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